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    ハッピーバレンタイン(とは関係ない)
    『襲さんは抱かれたい』を読むとより楽しめます

    2024/1/29 常時公開に変更

    To be, or not to be. どうするかなんてそれは問題にすべきじゃないと思うけど。

     こんにちは。街の診療所で医師をしている周馨と申します。突然ですが私には好いている人がいます。花山院侯爵家の御令嬢、花山院襲さんです。
     襲さんとは学生時代の後輩にあたります。彼女が入学した春に出会って以来、懇意にさせていただいていました。彼女は歌を詠むのが大変お上手で、それも歌人を輩出されている家系だからということもあるのでしょうけれど、美しい作品を沢山生み出しています。お淑やかで思いやりのある良い子です。時折出てくる負けず嫌いなところとか、異様なまでに積極的な姿は、世間は煙たがりますが彼女の美点だと私は思います。
     恋仲となったのはその学生時代に出会って二年目くらいの時でした。まあ一緒に居たらこんな気持ちなんて秒でバレますよね。バレました。

     そして今、半同棲状態で生活を送っています。
    「馨さんって欲が無いって言われません?」
    「……どうしたんですか、いきなり」
    「ずっと思ってたんです。こうなりたいとか、何かしたいとか、聞いたことないなって」
    「私だって欲のひとつくらいは」
     ひとつやふたつくらいありますよ、私も人間ですし。襲さんと一緒に居たいとか。もう一緒に住んでほしいとか、……なんとか。
    「言ってみてくださいよ」
    「襲さんとこうしてのんびり過ごしたいです」
    「そんなので良いんですか馨さんは」
    「そういう襲さんはどうなんですか……って聞くまでもないでしょうけれど」
    「ふふ、内緒ですよ」
     襲さんが内緒にしていようと何故か分かってしまうのです。襲さんは、私に対してあれこれとしたいことがあるのは以前からバレバレなんです。嘘をつけないのもかわいいところですよね。
    「私のことは置いといてですね、馨さんのこともっと知りたいので答えてくださいね」
    「答えられるものなら答えましょう。……どうぞ」
    「馨さんて自分から欲求することないですよね。どうしてですか?」
    「改めて何故かを聞かれると返答に困りますね……」
     当たり障りのない回答をすることが難しいとこの時初めて思い知りました。だってこれ、私の独り善がりだったらなんか嫌じゃないですか。
    「そう、ですね……大抵の事は自分で何とかしてしまうので、人には言わないのでしょう」
    「そういうものですか」
    「私は一番したいことが出来れば十分ですから。なので父から軍医総監になれと言われても私はなろうと思えないというか」
     これは事実。今もたまに言われたりしますが、私の予定には入れてないことだし、何より今の職場の方とか、知り合いとか、門下の子たち、そして何より襲さんのことが大切なので私は今のままで良いのです。
    「馨さんは小さなことでも幸せ感じられそうですね」
    「そうかもしれませんね。……安い人間なのでしょう、私は」
    「善いことですよ。……また質問ですけれど、馨さんは私のお願い事、何でも聞いてくれますか?」
    「……今更何を」
    「確認です。どんなお願いでも、聞いてくれますか」
    「私が叶えられるものであれば」
     当然、と言っても本当に襲さんも求めるものはまだ、心の準備というか、許されるものなのか(実際のところ公認みたいなもので、だから襲さんは同棲出来ているのですがそれはそれとして心配なことには変わりないのです)……と思うとやっぱり踏み留まってしまいます。据え膳が何とかと言いますが、恥とかそういう以前の問題です。と言うとどこか言い訳がましくなってしまうのですが。

     夜は基本的には別々の部屋で寝ていることにしています。襲さんが眠れないとか、そういう時には一緒に寝ようとは思うのですが、中々そういう機会もありません。……こういうのがいけないんだろうな、とは思っているのです。
     今日は疲れていたせいか布団に入ってすぐ眠ってしまいました。夢なんて滅多に見ないのですが、襲さんの欲求に関して色々考えていたせいなのか、襲さんに迫られる夢を見ました。あれは少しやりすぎだと思いますが、襲さんはたぶん、きっとそういう思いを抱えているのでしょう。それに対して私はどう応えたらいいのか、と考えると襲さんには真面目に考えすぎだと言われそうです。
     ふと胸元の寒さと、身体に乗る重さを感じて目が覚めました。襲さんが居ました。嘘、夢じゃなかったんですかこれ。
    「……襲さん?」
     とはいえ寝起きなので頭が全く働きません。これ、今どういう状況なのでしょう。
    「こんばんは、馨さん。月明かりの下で逢瀬なんて、とても素敵ではありませんか?」
    「…………すみません。理解し難いのですが何が、」
    「貰いに来たんです」
    と言うと襲さんは急に口付けをしだしたのですが、あの、これ、ここまでするものでしたっけ、どういうことなのか全く分からないし、おかしくなりそうなんですけど。襲さんには悪いですが、一度引き剥がさせていただきます。
    「……っ、ちょっと待って欲しいんですが」
    「ごめんなさい、欲情しました」
     月明かりではっきりとは見えませんが、襲さんの顔は少し赤く、眼は潤んでいました。以前押し倒された時と同じ顔だ、とあの時のことを思い出すとこっちまで赤くなりそうです。
    「突っ込みどころが多くて整理しきれないのですが」
    「ねえ、馨さん。貴方は私のどんなお願いでも、聞いてくれるって言ってくれましたよね」
    「……言いました」
    「じゃあ、その」
    と言ってそこで一度襲さんの言葉が途切れました。次の言葉が紡がれるのを待つことにします。何か言おうとして、百面相をしている襲さんの可愛らしさといったらもう微笑ましいものです。
    「……い、一緒に、」
    「……寝ますか」
    「へっ?」
     違う違う。紛らわしい。寝るってなんでしょう、あんな夢を見たあとで何言ってんだ私。眠れないならとか何か言うべきだったのでは、でもそれはそれで語弊を招くというか、ああもう頭が働かない。
    「まだ時間ありますし」
     なんか違う。
    「そ、そんな……いいんですか」
    「いいですよ」
     何言っても駄目な気がするので行動で示すことにしました。まあこういう関係ですし、同じ布団で共寝でも良いでしょう。まあ以前も共寝はしたのですが。あれ、なんかこれも意味がおかしい気が。
     布団を捲り、隣に来るよう促します。
    「冷えますから」
    「あ、えと……し、失礼します」
    「狭くてすみませんね、腕使っていいですから」
    「……は、い」
     これでよし。寝起きにも関わらずこれは満点の対応ではないかと。我ながらよく出来たので起きたらご褒美に芋羊羹でも食べることにします。ああ、なんかまた、眠くなってきました……。

     翌朝。目を覚ませば、至近距離で襲さんが寝ていました。寝顔もかわいいななんて思いながら目覚めを待っていると視線に気付いたようで、何度か瞬きをして起きてしまいました。
    「……あ」
    「よく眠れました?」
    「え、はい……おかげさま、で」
    「それはよかった」
     襲さんは起きあがろうともぞもぞ動き出しましたが、今日は休みなのでもう少しこの幸せな時間を堪能しても良いでしょう。襲さんの腕を引いて、もう一度横にさせて二度寝を提案することにします。
    「いいんですか」
    「私、今日休みなので」
    「……珍しいですね、そんなこと言うなんて」
    「ふふ。いいでしょう、こんな日があっても」
     今日くらい、ちょっと怠けても許されるような気がします。襲さんもいることですし、お昼前まで寝て、一緒にご飯でも作って、それから好きに過ごそうなんて呑気に考えてみたりね。
    「ですね。それじゃあ」
     おやすみなさい、と声を揃えてまた眠ることにします。いつか来る日にはちゃんと想いを伝えないとですね。それでは皆さん、おやすみなさい。
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