警笛鳴り響く理由は、規則的な発信音が鳴り響いたことで、立香の瞼がピクリと反応する。
自らでセットしたアラームのものだと気づいて、未だ覚醒し切らない頭をどうにか働かせつつノタノタとベッドの上で起き上がる。
その際に、手を置いたシーツの上…視界に入り込んだサラリとした金色の糸。
「ん?」と首を傾げること数秒、シーツを捲ることでそれが立香の横で横わる人物の頭であることが分かった。
それが、よく見知ったアーサーのものであることで、立香は自然と表情が緩む。
と、呼び出しのアラームが鳴り響き、立香は相手が起きてしまわないようにと慌ててパネルを操作した。
『よう、マスター。もう起きてるか?』
「おはよう、アーラシュ…」
管制室からの連絡は珍しくもアーラシュからであった。
一応として起きてはいるよと返事をすれど、立香の瞼はまだ重い。
霞む視界をどうにか凝らして画面を眺めていれば、アーラシュの後ろで彼の後方から全く同じ顔が映し出された。
「アーラシュが2人…」
『ん?あぁ、そうそう。今朝、ちょっと相談されてな』
どうやら、視界の悪さが原因ではなさそうで、アーラシュと全く同じ顔をしたもう1人は先日から宇宙からのお客人のスターアローと呼ばれている人だった。
画面の向こうから、気さくに笑みを浮かべ手を振るってくれる相手に、立薫も緩やかに手を振り返す。
『なんでも、昨夜から相方と逸れちゃったらしくて探してるんだと。もしかして、こっち側に迷っちゃってないかなって話なんだけどもさ…』
アーラシュからの説明、立香は瞼を擦ってどうにか聞いていたならば、背後からのそりと何かの動く気配。
あ、と立香が気づくよりも先に、その人はモニターの方を覗き込んだ。
「それはもしかして、私のことなのかな?」
静かに微笑み、翠色の瞳を細める彼の横顔を間近に、立香の方が「え“?」と声を引き攣らせた。
アーサーだと思っていた人物は、まさかの宇宙からのお客人の1人。
スターソードと呼ばれているアーサーと全く同じ似姿の人物の方であった。
カルデアは早朝より、珍しくもマスターのマイルームから大きな悲鳴が響き渡ったーーー。
警笛を鳴らし、目を吊り上げる宇宙警察、XXを前に宇宙からのアーサーことスターソードは苦笑を浮かべる。
「スターソード!貴方の行動はまだ宇宙規定に反していないとはいえ、目に余る行いです。そろそろ慎みなさい!」
「はい、すみません」
後ろ髪をかきながら、そう素直に謝罪を述べるスターソードは穏やかに微笑みつつ僅かに頭を下げた。
………どういうわけか、カルデアのマスターたる少年を小脇に抱えて。
「だから!マスターを離しなさいと言っているんですよ!朝っぱらから何をしてるんです⁉︎」
「それは…」
思ったよりも居心地が良くて、と騎士と全く同じ笑顔。
何を言い出してるんだと怪訝な表情のXXと、抱えられながら目を丸くするマスターこと立香。
「とはいえ、騒がせてしまった事には素直に詫びねば。キミの言う通り、ここは大人しくしておかないとね」
まだ、大会にも出ていないのに、不戦敗なんて真似を起こしてしまっては相棒たるスターアローにも申し訳ないとスターソードは微笑む。
「後で、持参したお茶菓子でも届けさせるよ。良かったら、それでティーパーティーでもしておくれよ」
「はぁ、ありがとうございま、す?」
スターソードからの申し出に、XXは首を傾げながらも礼を述べた。
これ以上、下手な騒ぎを起こさなければそれでよし。
かつ、お菓子が貰えるというならこれ以上彼女が口を挟む理由はない。
「あ、自室で大人しくする代わりに、マスター連れてっちゃダメですよ!」
背を向けたばかりの宇宙からの騎士に向けてXXが言葉を強めにそう指摘すれば、歩み始めていた相手はぴくり、と僅かな反応を示す。
それまで、ずっと抱えられたままであった立香は、そういえばいつになったら下ろして貰えるのか、と視線を持ち上げたならば、やはりよく見知ったのと同じ笑顔。
「ね、ちょっと珍しいお菓子も持って来てるんだ。興味ない?」
「ある」
スターソードからの問いかけに立香は即答。
まだ、朝食を済ませていないのことも理由に、珍しいもの、と聞いて興味が引かれない訳がない。
それを聞いたスターソードは一段笑みを輝かせ、XXの方へと振り返る。
「同意を得たんなら、良いよね?」
「ダメですけど⁉︎」
貴方、帰す気ないでしょうとまで彼女が指摘するよりも先にスターソードは立香を抱えたまま自らが乗船して来た母艦に向けて通路を駆け出していた。
カルデア内で、警笛がまた一段と大きく鳴り響いた。