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    tendoooooooooon

    赤木しげる×カイジしかない
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    POIPOI 23

    tendoooooooooon

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    𝐦𝐞𝐚𝐥明確な目的を持たない夏休みの大学生ほど暇な生き物はない。
    私のように。

    大学三回目の夏休みである。
    出席していれば誰でも取れるような授業だけを選んでこなし、単位だけは立派に収めてきた。
    後期は時間を持て余すくらいだ。

    大学生というのはもっと忙しいものかと思っていた。
    それは己が将来のため邁進する努力家たちか、人間関係に強いエリートコミュニケーショナーに限ることであった。
    私はどちらでも無かった。

    これといって情熱を捧げるものもなく、特別賢いわけでもなく。
    受験に失敗しながらも 「大卒」と履歴書に記入できるというだけで、何とか入学した大学生活は虚無であった。

    花々しく大学デビューを飾ることにも失敗した私はサークルにも属さず 殆ど孤立した学生生活を送っている。
    寂しい!

    三回生ともなれば就職という人生の最大起点が目前に迫る。
    しかし私は 自分がこれから社会に出て働くという未来がまったく想像できなかった。
    こんな居てもいなくても変わらないような人間を 社会が必要とするだろうか。
    不安だけは一人前だ。

    そんなことを考えながら 公園の木陰になったベンチで私は朦朧としていた。

    夏場の外出は本当に断固拒否したいが、社会との関わりを持たなければ精神が参ってしまう。
    コミュニケーション下手のくせに孤独には耐えられないメンタル弱者。 おお、救いようがない。

    というわけで 私はこの夏休み しぶしぶながら古本屋のアルバイトを始めた。
    今はその帰りだ。優しそうな老夫婦が趣味で営んでおり 時給は寂しいが居心地はよい。
    毎週水曜の午前十時から数時間の勤務だった。
    アルバイトにしても緩すぎるといえばそうだ。

    本当は夏の日差しを浴びずに済む深夜帯がよかったが そういう求人は良くてコンビニ、ほとんどが居酒屋であり 正直辛そうで足が向かなかった。
    つくづく根性なしである。

    午後二時に古本屋をあがり、帰路についたが 今日は暑すぎた。
    元々暑さに弱く、店内のぬるい冷房と移動手段たる電車内のきつい冷房に外の豪暑。
    温度差にやられてしまったらしい。
    駅から歩いて自宅まで帰る途中 動悸と目眩に襲われ 今こうして日陰のベンチに伸びている。

    地下から生還した債務者のように硬いベンチに仰向けになりながら
    私はぐるぐると止まない目眩に、ああこのまま死んだらどうしよう、とめそめそしながら己の大学生活を悔いていたわけなのだ。

    「おにいちゃん だいじょうぶ?」

    子ども特有の 高く甘い声がした。



    あかぎしげる
    と名乗った男の子に手を引かれ、私は矢鱈豪華な日本家屋へお邪魔していた。

    瓦の乗ったやや高めの白い塀に囲まれ、立派な和風の門を備えた豪邸だった。
    門をくぐって歩く庭は石畳の道があり、周りは白い玉砂利がぴかぴか光っている。
    美しく剪定された高い木々や上品な灌木、小さな橋の掛かった池まであった。

    こんなお屋敷が近辺にあったとは。
    この子は相当なお金持ちのお坊ちゃんだ。
    ただ、手を引かれながらぼんやりと目に入った表札には
    「伊藤」
    と書いてあった気がする。

    「おにいちゃん これどうぞー」
    男の子に案内された 広すぎる座敷でキンキンに冷えた麦茶を頂いた。
    ああ、五臓六腑に染み渡るとはこのこと!

    見ず知らずのお宅にあげてもらったにも関わらず、私は遠慮なくごくごくと麦茶を3杯頂いた。
    神よ、感謝します…!!

    「だいじょうぶになった?」

    麦茶に心からの感謝を捧げている横から 男の子が机に上半身を乗り上げて尋ねてきた。
    大きなつり気味の黒い瞳だった。
    ああ、こんな見ず知らずの人間になんと慈悲深い子だろう。まるでマザー・テレサだ!助かりました、感謝申し上げます!
    などと阿呆なことを本気で言いそうになったが 私はすんでのところで理性を取り戻し
    おかげで良くなったよ、ありがとう
    と極めて常識的なお礼を述べた。

    男の子は嬉しそうに
    「よかったねー」
    と笑った。かわいらしかった。


    目眩もだいぶおさまって あらためて見ると本当に広く、綺麗なお屋敷である。
    畳はまだ新しく緑が強い。使わせて貰っている 少し沈んだ紫色の座布団は手触りが良くふかふかだし、座敷の真ん中に置かれているこの机は 木目が美しく、艶々と飴色に輝いている。
    開け放たれた襖を風が通り抜け、座敷から見える庭は観光宿のように整って潔い。
    エアコンの風は感じられないのに、座敷は快適に涼しかった。

    男の子が渡してくれたグラスはよく見れば底が血のように暗い赤に染められた いかにも高級そうなもので、今更ながら慌ててしまった。
    何もかもが豪奢すぎて申し訳なくなってくる。
    助けてもらったことは本当に感謝感激に雨霰だが、長居しては良くないし、おいとましよう。

    あの…あ、あっ、りがとうね、おかげで元気になったよ。
    コップを洗わせて…もらっていいかな、そうしたら 帰らせてもらうね。

    どもったあげくつっかえてしまった。笑顔を作ろうとして顔が引き攣る。恥ずかしい。
    男の子ははっとして顔を俯かせ、Tシャツの裾を摘んでいじいじと捏ねている。
    どうしたのだろう。
    唇を尖らせて目を伏せ、何か言いたげにもじもじとしている。
    もしかして、もしかしてだが。

    …………一緒に遊ぶ?

    そう聞くと 男の子はぱっと顔をあげ、「うん!」と元気よく頷いた。



    「かった~っ…!」
    男の子は喜びを全身で表すように思い切り両手を真上に伸ばした。
    白熱したババ抜きであった。
    一緒に遊ぼう、と言った後 しげるくんはぱたぱたと廊下へ出ていき、いそいそと戻って来た。その手にはトランプがあった。
    戦績は私の4勝2敗である。子ども相手に大人げない、という気もするが ババ抜きで故意に負けるのは難しかった。何より、しげるくんがとても真剣にゲームに向き合っている以上「負けてあげる」なんて失礼な気がした。
    そうやって彼は勝てば思いっきりよろこび、負ければ全力で凹んでいた。
    その様子は子どもらしくていかにもかわいい。

    もう一回、もう一回!とおねだりされてカードを配り、またババ抜きが始まる。
    2人でするババ抜きは早い。あっという間に残りは2枚になってしまった。
    私は気まぐれに手札の一方だけを少し持ち上げて、「ほんじつのおすすめ」と言ってふざけてみた。
    7回目の対戦で 私としげるくんはだいぶ親しくなっていた。
    私は同年代相手は苦手であるが、すごく年上かすごく年下ならまだ話しやすいのだ。之コミュ障の極み也。
    「え~~~っ…」
    しげるくんはそう言って太い眉を思いっきり吊り上げたあと、うんうんと悩みだした。
    私はいたずらっ子のように笑って、しげるくんをじっと観察してみる。

    年は10歳に届いているかいないかというくらい。黒く凛々しい太い眉に、大きな吊りがちの瞳。黒い髪は男の子にしては襟足が長く、熱くないのかな、と思った。
    へんな犬…?が描かれたTシャツに黒い半ズボン。肌は白く、ズボンとの対比で冷たそうに見えるほどだ。
    左目の下にうっすらと切り傷のような薄い跡がある。治りかけなのか、そこだけ皮膚の色がいっそう薄く、ピンク色をしていた。
    おそらく夏休みで、しかし親御さんは家におらす、寂しかったのだろう。
    それにしても見ず知らずの人間を家にあげるのは危ないので、後で言って聞かせてあげなくてはいけない気がした。私が言えた義理ではないのだが。

    しげるくんは尚も真剣に私の「本日のおすすめ」について考え呻っている。彼は欲しいカードがくれば露骨によろこび、要らないカードがくればあからさまに眉を波打たせた。
    全てが顔に出てしまう、わかりやすい子のようだ。
    だのに、ときどきはっとするくらい無表情で何も読み取れない顔もして見せる。子どもとはみんなこうなのだろうか。不思議だ。

    散々迷った挙句彼は「本日のおすすめ」を勢いよく引いた。本日のおすすめであるところの、ババを。
    「きゅう~~っ!」
    しげるくんは変な声を出して後ろに倒れた。

    私の勝ちだねえ、と集めてトランプを切ろうとすると、
    「もうやだっ…!違うのがいいっ!」
    としげるくんが駄々をこねた。私は苦笑して、いいよ、じゃあ何をしようか、と聞いた。神経衰弱、七並べ、ポーカー…は大人すぎるか。
    しげるくんはぱっと体を起こし、
    「じゃあ、マージャン!」
    と言った。


    連れられた奥の部屋は思いのほかこぢんまりとしていた。
    四方を絢爛な模様が描かれた襖に囲まれ、格子の天井はひとつひとつ美しい絵に彩られている。
    欄間にはそれぞれ龍、鳳凰、虎、玄武が施されている。たしか四象というのだったか。
    そして部屋の中央に正方形の机がある。

    私の祖父が使っていた書斎を思い出した。つくりは似ていないが、いかにも他を寄せ付けない「秘密の部屋」といった風情の空間であることを肌で感じ取った。
    私がその部屋に入るのに怖気づいている間に、しげるくんはすいと部屋の隅の小さな物入から
    皮でできたなにやら高そうな鞄を取り出し、机の上に置いた。
    はやくはやく、と促されて私はまるで空き巣のような気持ちで、足音をたてないようにその部屋にお邪魔した。
    煙草のにおいがした。

    「これはね、かいじさんのなの」
    細い指のついた手に開けられた鞄の中には、綺麗な麻雀牌が敷き詰められていた。
    そして気が付いたのだが、この机は板がマットのようになっている。麻雀卓であるらしい。
    しげるくんは嬉しそうに鞄から牌を出し、じゃらじゃらとかき混ぜる。
    「はやくマージャンおしえて、おにいちゃん!」


    私は麻雀が下手だ。
    高校のころ、漫画に影響されて少し遊んだ程度なので下手と言うのもおこがましいかもしれない。
    出来ないことはないが、人に教えられるほどでもない。点数計算などだいぶ怪しい。
    しかし、しげるくんには大きな恩がある。ルールくらいなら教えてあげられるだろう。
    彼は麻雀に関して全くの無知と言うわけではなく、牌の種類と、少しの役の名前くらいは知っていた。
    双子の兄弟頭がひとつ、三人兄弟ならべてよっつ。三つ子の兄弟よっつもいいよ。一緒に牌を並べる。
    しげるくんは麻雀牌に触るだけでも嬉しいようだった。
    それにしても、麻雀とは古風と言うのかなんというのか。彼はいまどきのゲームなんかはやらないのだろうか。長方形で充電式のやつなんかは。
    しげるくんが持つと、細い指にあいまって麻雀牌は大きく見えた。
    私は自分の触る牌を見る。とても高級そうな、鈍いクリーム色をしている。まさか象牙…と思うと汗で牌が滑りそうだ。

    ふと、麻雀がやりたいの?と尋ねると、彼はうんっ!と頷いた。
    「でも、かいじさんがおしえてくれないんだ。やっちゃだめって………」

    秘密の部屋は水を打ったように静かになった。
    彼は言葉を詰まらせた。やってしまったというように口を押さえてる。私は青くなり、麻雀牌を畳に取り落とした。
    しげるくんは保護者に麻雀を禁止されているのだ。私がそれをのこの教えようとしている。
    たしかに麻雀を打つ子どもというはあまり聞いたことが無い。雀荘は18歳未満は出入り禁止だった。
    おそらくこの部屋は彼の父親か誰かの秘密の麻雀部屋なのだ。侵入したことがバレたら絶対に不味い。
    なにより、「早く出なければ」という逃走本能を刺激された。
    欄間に掘られた四象に睨みつけられているような、四方の襖の奥からなにかの気配に圧されているいるような。
    罪悪感がそうさせるのかもしれなかった。
    私は急いで、片付けよう!と促し、落とした牌に手を伸ばした。

    「誰だい?あんた」

    しげるくんの後ろに男が立っていた。



    「伊藤開司だ。よろしく。」
    男は人好きする笑顔で自己紹介した。場所は最初に案内された広間に戻っている。
    あの高そうな机を挟んで向き合う私と、伊藤開司さん。
    しげるくんは彼の隣に正座し、小さくなっている。

    「なるほど。悪いね、この悪戯小僧が迷惑をかけた」
    私がことのいきさつを説明すると、伊藤さんは納得してくれたようで、右手でしげるくんの頭をぐりぐりと揺らした。
    やめてよう!としげるくん。
    私は慌てて、悪いのは勝手にあがりこませてもらった自分で、後日必ず御礼をもって伺いますという内容を、これまでの人生でいちばん丁寧な言葉で伝えた。うまく笑顔が作れない。背中に汗が這って気持ち悪い。
    なぜかと言えば、理由は伊藤開司の風貌にあった。

    彼は真っ白な髪に白皙の、すらりとした男前だった。
    最初はお歳を召しているのかと思ったがよく顔を見ると若い。三十そこそこに見えた。
    そんな若さで総白髪ということに加え、彼の服装は矢鱈派手だ。紫から黄のグラデーションをした生地のシャツに、金や銀の糸で青海波やら蝶やら花やらの模様が刺繍されている。これをボタンを開けてかなり大きく首元を晒している。
    そしてズボンは白地にうっすらと鱗模様が見えるスーツ。
    おそらく金融業の方である。関わってはいけないやつである。
    いやに広いお屋敷の謎が解けるとひたすら怖かった。
    長々とお邪魔してしまい失礼いたしました、それではお暇を…と述べるのを遮って

    「待ちなよ」

    そのすきとおる声に、叱られた子供のように私は動けなくなる。思わず伊藤開司のほうを見ると、目が合った。
    薄い鷲色の瞳。細い眉にゆるく吊った鋭い目つき。
    あんまりにも綺麗な顔なので、何もかも忘れ 一瞬見蕩れてしまった。
    伊藤開司はゆるい動きで胸元のポケットから煙草を一本取り出して、薄く形のよい唇に咥える。
    「あ!おうちでは吸わないでってゆったっ…!」
    となりでしげるくんがキイキイ鳴くのを「先にいいつけ破ったのはおまえだろ」とにべもない。
    言い返す言葉もないのか、しげるくんはぷっと河豚のように頬を膨らまして押し黙った。
    伊藤開司はつんとして、高そうなライターのふたを親指でカチリと弾いて空け、火をつけた。
    その一連の動作はむかしの映画俳優のようで、格好良かった。

    「あんた、ひとつ頼まれてくれるかい」

    吐き出した煙の向こうで彼は妖しく笑った。
    無意識に”はい”と、私は答えていた。


    「おにいちゃん!」
    私が玄関へ入るとしげるくんは嬉しそうに迎えてくれる。年の離れた弟ができたようで、かわいい。
    こんにちわ、おじゃまします。と挨拶して靴を脱いで綺麗に揃える。
    自分の家ではそんなことしないが、この家ではきっちりと礼儀正しくなる。この立派なお屋敷が私にそうさせる。
    やわらかくあたたかな手に引かれ、座敷へ入る。
    「今日はなにして遊ぶ?」
    しげるくんははしゃいでいる。

    「夏休みのあいだでいい。こいつの相手をしてやってほしい」
    伊藤開司からの頼まれごとだった。
    曰く、彼は用事で家を空けることが多いため、しげるくんの相手をしてやれない。こうして会ったのもなにかの縁、子守りを頼まれてくれとのことだった。
    なんなら謝礼を払うと言う言葉は丁重にお断りして、私は引き受けた。
    もともと恩返しはするつもりだったので、渡りに船と言えばそうだった。小心者の私がいいえと言えるわけはなかったのだが。
    そんなわけで、私は夏休みのあいだほとんど毎日、伊藤邸に通うことになった。古本屋のアルバイトは事情を話し、休ませてもらっている。
    申し訳ないと思いながらおずおず事情を説明すると、老夫婦は笑って快諾してくれた。
    その子が読めそうな本があったら持って行っていいよ、とまで言ってくれた。
    優しい世界。

    私としげるくんは色んな事をして遊んだ。
    トランプ、花札、骨牌、雙六、かくれんぼ、鬼ごっこ、だるまさんがころんだ、シャボン玉…
    池の鯉に餌をあげたとき、どちらに沢山集まるかーなど よくわからないこともした。
    ただ、屋敷の外へ出ることと、あの「秘密の部屋」に入ること、「麻雀」は禁止された。
    伊藤開司に言いつけられたことだった。
    「禁止事項」を述べるときの彼の表情からは何も読み取ることができず、しかし「破ったらどうなるか」を想像させる迫力があり、首を縦に振る以外の意思表示は許されなかった。

    いざ通いはじめてみれば、伊藤邸はだたっぴろいので、不自由はなく感じられた。

    一度 彼が屋敷から出かけていくのに遭遇したことがある。
    立派な門の前に停められた黒塗りの高級車。黒いスーツの男数人に付き従われるようにして、伊藤開司は出立するところであった。
    あからさまにびびっている私を気にするふうでもなく、彼はにこっと笑って
    「ごくろうさん あいつをよろしくな」
    と言って、高級車に滑り込んでいった。暑い日差しを避けるためか、座席まで日傘すら差されている好待遇だった。
    それは時代劇のセットで見るような、赤く巨大な番傘だった。
    思ったより本格的に金融業の人であったようだ。私は身震いした。

    この日は紙粘土をして遊んだ。
    しげるくんは手先が器用で、もくもくと何やら目がたくさんある、四角くて怖い化け物のような大作を作っている。
    私は子供のころよく見た猿の玩具を作って見せたが
    「へんなの~っ…!」と笑われた。可愛く出来ていると自負していたが。

    手を止めて、一生懸命に作業する幼くまろい横顔を眺める。
    しげるくんが12歳だと知って、私は驚いた。年齢の割に見た目も言動も随分幼く思える。来年には中学生になるということなのか。そうは見えなかった。
    気になると言えば、しげるくんと伊藤開司の関係もだ。彼らは苗字が違う。親戚だとか、いろんな事情はあるだろうが。

    赤木しげると伊藤開司。
    なんだか説明しようもない違和感があった。なにかが合っていないような。彼らは謎だらけだ。
    だからと言って、しげるくんと伊藤さんってどういう関係なの?とか
    伊藤さんはなんのお仕事をしているの?だとか聞けるわけがなかった。怖いし、何より無作法だ。

    ふと、しげるくんは夏休みは31日まで?宿題は大丈夫?と世間話を振ってみた。

    「しゅくだいなんてないよ。学校いってないから」

    私は黙った。よもや児童相談所案件…と一瞬頭をかすめたが、早合点は良くない。人には事情と言うものがある。しげるくんに不幸な様子は見られない。
    伊藤開司にしても、しげるくんを大切にしていることは明らかだった。
    なぜなら、しげるくんが伊藤開司をとても好いていることが明らかだったから。
    カイジさんはかっこいい、やさしい、オレもあんなふうになるんだ、と彼は言った。
    愛情を注がれ大事にされていなければ、そんな言葉は出てこない。
    愛するから愛されるのか、愛されるから愛すのか。
    いずれにせよ、この幼気な好意を向けられたら、可愛くてたまらないだろうな、と思った。
    私はあらゆる疑問に蓋をして、猿の玩具を洗練させる作業に戻った。
    しげるくんに「それなんていうなまえ?」と聞かれたが、わからなかったので適当にボナンザ、と答えた。

    ある日、いつも暮れ方に戻る伊藤開司が、昼間に帰宅した。
    しげるくんはお昼寝の時間で、紫色の座布団を枕に、座敷で眠っていた。私は蚊取り線香を焚いて、しげるくんが熱くないように団扇で風を送ってあげていた。
    お屋敷はいつも快適な温度であったが、しげるくんは眠ると体温が上がるのか、額にぷつぷつと汗をかくのが常だった。
    座敷の光景を見た彼は目を細め
    「あらら」
    アイス貰ってきたのに、と笑った。

    私は伊藤開司から預かったアイスを冷凍庫に収納した。黒い紙製の高級そうな器のカップアイスで、ふたには「銀座千疋屋」と書いてある。ハーゲンダッツより高いのだろうか。
    伊藤邸の冷蔵庫にも冷凍庫にも、食品はいつもほとんどなかった。しげるくんと二人、昼食はいつも出前を取った。
    昼飯代、と伊藤開司が座敷の卓上に置いていってくれるのはいつも真新しく、ぴんとした万札だった。

    座敷に戻ると、伊藤開司がしげるくんのそばにしゃがんで、寝顔を覗き込んでいた。骨ばった白い手の甲でやわらかな頬を撫でながら。
    「かわいい」
    彼はおだやかに笑った。伏せた目が愛しくてたまらないと細められていて、見ている私が恥ずかしくなってしまった。
    しげるくんの長い睫毛が頬に影を作っていた。

    千疋屋のいちごソルベを頂きながら、その実味は全くわからなかった。
    初めて会ったときのように、座敷の広い机を挟んで、伊藤開司と向かい合って私ひとりが高級アイスを頂いている。
    伊藤さんのそばにはお昼寝中のしげるくん。
    帰ろうとしたところを伊藤開司に引き留められ、せっかくだから食っていけと言われ、断ることができようか。気まずさと緊張でどうにかなりそうだった。
    ひょっとするとこれは何かの「交渉」の前触れか、などと恐ろしい想像をしてしまう。
    静寂が痛い。
    伊藤開司はあの優雅な仕草で煙草をたのしんでいる。
    一刻も早く食べ終わって帰りたいと、一心にアイスを口に運んでは冷たさに頭痛を起こした。

    「あんたに」
    澄んだ声が伸びてくる。

    「礼をしないといけないよな、矢張り」



    私は夕暮れの待ちの中、雀荘を目指してひた走っていた。
    麻雀が打ちたい!
    私の頭にはそれしかなかった。
    駅前通りから少し裏へ入った路地の奥、雑居ビルの4階に「ゆたか雀荘」という文字のはげかけた窓を見つけ、階段を駆け上がる。
    18歳未満立ち入り禁止、とやぶれた紙が硝子の内側から貼り着けてある重い扉を開いた。

    あの「秘密の部屋」で、伊藤さんと麻雀を打った。
    こんなことは礼にもならないかもしれないが、ある種の人間にとっては オレと打つのが至上の褒美になるらしい。
    そういって卓につく彼の顔には表情と言うものがなかったと思う。
    いつかしげるくんと遊んだあの牌を机にあけて、彼は白い手でかき混ぜ始める。
    私は対面に座し、尋常ではない脇汗をかきながら、二人で麻雀なんてできるのでしょうか?と聞いた。
    むかし漫画で二人で麻雀を行う勝負を見た気がするが、あれをやるのだろうか。ルールを覚えていない。

    伊藤さんは声だけで笑って、
    「メンツは足りてるよ」
    と言った。

    両横の襖が開き、誰かが出てきた。
    左の襖から私の上家へ 年端も行かない少年が。右の襖から私の下家へ 壮齢の男が。
    夫々卓についた。

    かれらは皆 伊藤さんによく似ていた。



    夢のようだった、としか言いようがない。
    麻雀のことなど深く知りもしないはずなのに、伊藤さんたちとの卓は強烈だった。
    心が躍った。
    伊藤さんの一打に、同卓の彼らの一打に、脳に電流が走ったような衝撃を受けた。
    私の牌に「ロン」の声をかける伊藤さん。
    それは五感すべてから脳へ這い上がるほどの快感だった。

    半荘が終わって伊藤邸を出るまでの記憶が明瞭としない。
    浮足立つ、とはよく言うが、足が地面を踏みしめる感覚がなかった。

    麻雀とはこんなに面白いものだったのか!

    私の思考はそのひとことに支配され焼き尽くされた。
    雀荘に入り、朝まで打ち続けた。点数計算を何度もミスしたし、何度もチョンボをしたが、伊藤さんとの半荘の興奮が冷めなかった。同卓の年配の男性からやじられ、人生で吐いたこともないような悪態を返した。まるで私の中から別の人格が現れたように。
    明瞭な目的はなにひとつなく、何にも情熱を燃やしたことのない私が、嘘のようにのめり込んだ。
    それはまるで沼であった。

    寝不足の頭でよろよろと古本屋へたどり着き、老夫婦に心配されながら、麻雀の指南書を貰って家へ帰りった。
    敷きっぱなしにしていたうすい布団に倒れ込み、泥のように眠った。
    明日明後日は休んでもらっていい、と伊藤さんが言っていたことをぼんやりと思い出した。

    私はその二日間、寝る間も食う間も惜しんで麻雀に没頭した。


    「おにいちゃん だいじょうぶ?」
    いつかと同じ言葉をかけられて、私ははっとした。
    しげるくんが心配そうに私を見ている。今日は折り紙で遊んでいた。
    私の手には紙でできた不気味な謎の生命体がいる。
    しげるくんが持ってきた「おりがみ百科」に乗っていて、彼に作ってとせがまれた、カブトムシになる予定のものだった。

    ごめんね、やり直すよ。
    そういいながら、手元も頭もおぼつかなかった。

    あれからというもの、麻雀がしたくてたまらない。あやふやだった点数計算を怒涛の勢いで覚え、伊藤邸を出たあとは雀荘に入りびたって実践を重ねた。
    寝ても醒めても麻雀がしたかった。

    伊藤さんと打ちたかった。

    伊藤さんは恐ろしく強い打ち手だった。あの半荘のことは衝撃的すぎて記憶が曖昧にもかかわらず、雀荘で打ったどんな相手も、彼の足元にも及ばないだろうという確信はあった。
    伊藤さんほどの快感を得る相手は居なかった。
    それがわかるからこそ、口が裂けても”自分と打ってください”となどと言うことができない。
    もし叶うとすれば、伊藤さんから打とうと言ってくれた時だ。
    帰宅し、走り寄ってくるしげるくんをやさしく抱き上げる伊藤さんを横目に見ながら、どうかもう一度、あの部屋に招いてくれないだろうかと願った。
    まるで恋のように。

    あっ、としげるくんが声をあげる。
    「おにいちゃん、そこちがうよ」
    はんたいに折るんじゃない?と頁の図を指さして言う彼の、紺色の半そでから伸びる青白い腕は、月に照らされる若竹のようだった。
    私の理性は瓦解しかけていた。

    しげるくん、麻雀をしようか

    私は言った。


    「秘密の部屋」にしげるくんを誘った。
    伊藤さんと麻雀が打てなくても、せめてあの部屋の空気を吸いたいと思ったのだ。
    しげるくんは嬉しそうに私を彼の部屋へ導いた。あたたかく柔らかい手を強く握った。

    「おにいちゃんとマージャン、やったーっ…!」
    しげるくんはうきうきと鞄から雀卓に牌を広げた。
    私はあの半荘と同じ場所に座り、深く息を吸い込む。濃い煙草のにおいがした。あの時と同じ。そう考えるだけで脳の端が痺れた。

    しげるくんがじゃらじゃらと牌をかき混ぜる音がする。
    一人二役麻雀。
    私は淡々と授業をする講師のように、彼に麻雀の進め方を説いた。
    細い指がかちゃかちゃと牌を操るおぼつかない様子は、白魚の踊り食いを思わせた。

    このあいだね、ここで伊藤さんと麻雀を打ったんだ。
    私は思わず口にした。誰かに秘密を打ち明けたかったのかもしれない。

    言ってしまうと箍が外れた。
    あの半荘が、伊藤さんがどれだけすごかったかを、なにもわかるはずがないしげるくんに、私は滾々と語った。
    ああ打ちたい。打ちたい。打ちたい。打ちたい。伊藤さんと打ちたい。
    心の声が大きくなる。動悸がする。呼吸が浅くなる。
    四方の襖が迫ってくる感覚。
    私は雀荘で耳にした話を思い出して舌に乗せた。思考は正常ではなかった。

    「伊藤さんのほうが、赤木しげるよりも強い。そうに決まってる」

    ふいに、牌同士の触れ合う音が消えた。

    「誰だって?」

    え、と思った。大人の男の声がした。
    ふと対面を見ると、しげるくんがあっけにとられたように、目を見開いて私を見つめていた。まるで大人のような表情だった。
    しげるくん?と声をかける。

    「違う」

    しげるくんはそろそろと細い指で顔を覆った。自分の顔かたちを確かめているようだった。

    「オレは」

    指のあいだから見える彼の瞳の瞳孔が大きくなる。

    「オレは 赤木しげるじゃない!」

    彼の頬に走る薄い傷が体の内側から染み出すように、どんどん濃くなり、血を流し始める。
    頬だけではなかった。しげるくんの左手、親指以外の四本の指の付け根から、じわりと血が滲み始め、雀卓にぽつぽつと赤い点を作る。
    私が驚いて声をあげそうになったとき、ぼとりと嫌な音がした。
    雀卓の上に千切れた耳が落ちていた。
    私は今度こそ悲鳴をあげた。

    「返せよ!オレのー」

    彼はその細い腕が、折れてしまうのではないかというほどの荒々しさで両手を雀卓にたたきつけて、血を流しながら叫んだ。

    「こら」

    穏やかな声が、世界に波紋のように広がった。

    「出るな、入るな、打つなと 言ったのに」

    しげるくんの背後から、白い腕が伸び、血まみれのちいさな体を抱きしめる。
    しげるくんは抵抗したが、ゆっくりと気を失い、だらりと背後の男に身を預けた。

    昼間のはずであるのに、男の姿は影絵のようで、明瞭と見えない。
    暗いシルエットに浮かび上がる、薄い鷲色の瞳と刹那、目が合う。
    男は腕に収まる彼の 濡羽色の髪に鼻先を埋めたようだった。

    「ぜんぶ破ったね」

    伊藤さんが言った。
    その口元が三日月のように撓んだ。



    「赤木しげるという男を知ってるか」

    同卓になった年配の男が、だれに問うでもなく話し始めた。
    「伝説の雀ゴロだよ。俺くらいの年の麻雀うちで、その名を知らない奴は居なかったね。」
    煙草の煙とともに吐き出される「赤木しげる」の逸話はにわかに信じがたいものばかりだ。
    武勇伝は一人歩きするうちに雪だるまのように肥大するものだが、一人の人間というよりもはや怪異譚のようである。
    その赤木しげるとやらは、伊藤さんより強いのであろうかと、私はそればかりが気になった。
    どこかでその名を聞いたな、などと、鈍った頭では気づかなかった。
    しかし、”合っている”と思った。
    「赤木しげる」という名の「麻雀の強い男」が、とてもしっくりくる、と思われたのだ。
    それがまるで世界に不変の法則のであるかのように。
    ほいじゃそのアカギというのは、今どうしてるんだい と同卓の誰かが訪ねた。
    私は相手の河と手出しを追うことに夢中になっていた。
    「さあね、とっくの昔に死んだらしい」



    惚れた相手から奪うのに、一番いいものは何だろう。
    男は考えた。そして思い至った。
    それは「名」であると。

    その人は気高く、聳える誇はどれほど見上げようと その頂きを望むことができないほどであった。いくら試合に勝っても、惚れてしまった男が勝負で勝てることはなかった。
    その人の矜持は決して奪えない。

    名はその人間の魂と深く結びつく、いわばその人そのものである。
    名は体を表す。読んで字のごとく。
    だから男は、その人から名を奪った。不思議なことはなにもなかった。博奕に負ければ、賭けると約束した代償は、どんなものでも差し出さなければならない。彼らの世界の決まりだった。
    この世に理不尽でないことと、不思議でないことなど何もない。
    彼らはそういう、純粋な世界でいきている。

    その人の名は男の左手のひらで、夜明けに向かう黄金色の煌めきを放っている。
    大きさは林檎くらいで、ずっしりと重い。食べてしまいたいほど、愛しかった。
    だから男は食べることにした。
    けれど、名はふたつもいらないな。男は考えた。
    ならば、自分の名前をその人にやろう。
    男は右手のひらに、自分の名前を掴んだ。それは夜更けに向かう群青色の漣を宿している。

    男はガリガリとその人の名を食い、その人に無理矢理自分の名を食わせた。
    それは素晴らしいことだった。
    名は体を表す。魂と名は一つに結びついており、死ぬまで、いいや死んでも、本来離れることはない。
    馬鹿が死んでも治らないように、名は死んでも変わらない。本来ならば。

    男は激しい痛みにのた打ち回った。己の中のその人の「名」が、自分の魂と反発している。
    その名が自分を食らおうとしている。
    冷や汗が止まらず、体の内側を針で刺すような痛みが全身を襲う。
    嬉しかった。惚れた相手と一つにならんと食い合っている。
    愛し合っていると言って過言でない。裸で抱き合って求めあうことと、なんら変わらない。

    そしてその人ものた打ち回った。男の名に浸食される魂と体をどうにか自分に押しとどめようとしてもんどりうっている。男の名の力は凄まじく、そんじょそこらの人間に背負える代物ではなかった。
    並みの人格ならば、あっさり消えて男と同化しただろう。
    しかし、さすがの彼も抵抗空しく、その体は男の名によって侵され、弱々しくなっていく。
    それでもその人が男の名に完全にのまれることはなかった。彼は屈しない。
    そんなところがかわいくて、憎たらしい。
    額にぷつぷつと脂汗を浮かべ、血の気の引いた青ざめた顔で、その人は男に呪詛めいたI LOVE YOUをささやいた。

    「ふざけるなっ…!」

    「返せよっ…!オレの、名っ…!」

    男は呵々と笑った。

    「いいとも。かかっておいでよ。いつでも、いつまでも。」

    男はその人の名を呼びたかったが、その人の名は最早自分の名になってしまったので、なんと呼ぼうかと思案した。
    おまえさま、とでも、呼んでやろうかしら。



    私は伊藤邸を追われ、二度と敷居をまたぐことを許されなかった。
    正確には、伊藤邸にたどり着くことができなかった。何度通った道を辿っても、あの屋敷は姿を現さなかった。
    まるで魔法のように、別の場所に着いてしまう。
    冷静に考えれば何もかもがおかしなことだったが、私はもうずっと、正気ではなかった。
    伊藤さんと卓を挟んで向き合ったあの時から、ずっと。

    夏休みが明けてからも私は雀荘に通いつめ、やがて大学を辞めた。
    就職もせず、ひたすら麻雀を打った。ひどい時には、吐くまで打った。
    それは願掛けであった。いつか伊藤さんともう一度。たった一度でいいから、麻雀を打てますようにと祈るように打ち続けた。私は何よりも麻雀を優先し、親の葬式にも行かなかった。
    それはまさしく破滅に向かう凄惨な日常であったが、何かに命を燃やす日々は確かに幸福かもしれなかった。

    気が付けばあれから何十年かが経過し、年老いた私には麻雀以外なにもなく、雀荘の経営に失敗した際の借金だけを抱えて生きていた。
    あれから、結局一度も伊藤さんには会えていない。
    それでも希望は捨てきれなかった。今日がダメでも、明日には。
    そんな細い明りに縋って精神を保った。

    その日は珍しく、昼間に出かけていた。
    職業斡旋所に向かわなければそろそろ生活が危うかったからである。
    こうして外を歩いていると、あの夏の日を思い出す。あの時よりずっと凄まじくなった、刺すような夏の暑さ。
    熱にやられ、しげるくんに連れられ出会った、伊藤さんのことを。

    あの不思議な「秘密の部屋」のことを。

    暑さにたまらず、公園の自動販売機でソーダを買う。
    木陰のベンチに座って、ぼんやりと歩道を眺めた。
    ソーダの缶が、泡を吹いて地面に落ち、ころころと転がった。こぼれた炭酸が土に吸い込まれて、大陸のような形を作る。
    私は見た。

    歩道を通りすぎる人影。
    背の高い総白髪に、目に痛いほどの赤いシャツ。白いスーツ。
    その手に連れられている、緑の虫かごをさげた小さな男の子。大きな麦わら帽子を被っている。

    私は走った。老いてうまく動かなくなった体に鞭打って、転がるように公園を後にして、懐かしい彼らのもとへ。

    私は全身に汗をかき、息を切らしながら、彼らの行く手を遮る。
    伊藤さんはあの日と変わらない、白皙の男前だった。
    しげるくんもあの日と変わらない、大きな目をしたかわいい少年だった。

    私は涙を流し、夢見るように言った。
    あの時は決して言えなかった言葉を、今なら。
    ああ、ああ、お久しぶりです、伊藤さん。
    この日をずっと待っていました。
    どうか、どうか私ともう一度、あの日のように麻雀を打ってください。

    伊藤さんは、形のいい眉を器用に片方だけ寄せ、言った。

    「アンタ、誰だっけ」















    魅入る
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