寒い季節は「そういえば、こたつを出したぞ」
何気なく、聞き逃しなそうなほど些細な世間話を装う。それがお決まりの誘い文句だった。
長年独居する自宅の玄関に肩に荷を下げた青年がのっそりとした動作で潜り入るのを土方は愉快な気持ちで迎えた。
「ふむ、来たな」
そう頷いた土方が上がれと促すと青年はむ、だかん、だか、あやふやな声を漏らした。そしてわずかに顎を引いて目を伏せる。吊り下げ照明の灯りがそれを照らし、白い頬に長い睫毛の影が落ちた。
「また、しばらく世話になる」
「ああ」
ささやかすぎる叩頭と裏腹な律儀な挨拶に土方は苦笑を噛み殺して再度頷いた。
それを認めた青年は、ほんの一瞬息を止めたように土方には見えた。それを照らしふうっと鋭く吐き出して、またのっそりした動作で靴を脱ぎ出した。框をふんでそこを上がるとそろりと身を屈め振り向き、脱いだばかりの靴を手早にそろえてまたこちらに向き直った。そうして肩の荷とは別に手に下げていた包みをのそりと掲げたかと思うと、土方の方にぐいと突き出してみせる
1913