フジキセキと新米教師※ハリポタパロ
※フジキセキ(生徒)×トレーナー(新米教師)の百合。
「ルーモス」
手に持っている杖の先端から光を出した。
皆寝静まっている頃に、私は見回りをしていた。
私は、今年の新学期にホグワーツに就任した。
まだどの科目の教師をやってもらうか決めてないから、好きなように授業を見学してくれ。なんて校長が言うものだから、今は研修という名のそれぞれの科目の補佐をしている。
お前は、気に入らないと言われる時もあるし、助かったと言われることもあるが、私は魔法を学ぶ事も試す事も好きだ。
だから、大変ではあるけれど、生徒たちの笑顔を見ると心が暖かくなる。
今回は、フィルチが足を痛めた為に私が見回りをする事になった。
少し眠たいが、去年までここで生活していた身、まるで自分の寮をこっそりと抜け出したような感覚。
少しソワソワした気持ちで生徒が抜け出していないかの確認をする。
「あ、そうだ。」
1番手っ取り早いものがあるじゃないか。
私がまだ在学中に見つけた紙切れ。
今回戻ってくる事になったから、返そうと思っていた紙切れ。
紙切れに杖を当て唱える。
「... われ、ここに誓う。われ、よからぬことをたくらむ者なり」
手に持っていた紙切れは、少しずつシミを広げ、ホグワーツ城全体のマップになった。
みんな寝ているな...スリザリン、レイブンクロー、ハッフルパフの寮を見ているとグリフィンドール寮を1人の名前と足跡が動き回っている。
_フジキセキ。
グリフィンドール5年生の監督生。
困った人を放っておけない優しい子とマクゴナガル教授から聞いている。
友達に囲まれながら生活している彼女を遠目から見たことがあるし、よく友達を驚かそうと悪戯している姿も。
授業には真面目に取り組んでいるし、魔法も上手で綺麗だ。
私は、何故か彼女と面識があるように感じている。
だけど、私の記憶の中では彼女と会話した事もないし、学年も寮も違っている。
それなのに、頭の何処かで引っ掛かりを覚える...。
「...なにしてるんだろう?」
談話室の出入口に行ったり、暖炉の傍に行ったりとウロウロしている様子。
私は、ここら辺に誰かいないか地図を見ながら、フジキセキの名前を見ていると、
「あ、出た」
彼女の名前が談話室を出て廊下を歩き出した。
これは困った子だ。
見逃してあげたいが、ルールはルールなので、私は彼女を追う。
気付かれないように、足音を消して。
フジキセキは、ゆっくりと動き、天文台の所までやって来ていた。
遠くから、カチャリとドアが開く音がする。
多分彼女は外に出た。
私は地図を見た。
彼女は動いていない。
どうやら、ここでなにかしているようだ。
灯りを消して、ゆっくりとドアに近付き、そっと開ける。
彼女の後ろ姿が見えた。
座り込んでぼんやりと空を見上げている。
時折尻尾がパタリパタリと上下に揺れたり、耳が左右に揺れたりしている。
私は、ホームシックだろうか...?と考える。
1人になりたい時があるのかもしれないが、そろそろ秋も終えて冬になる季節。
「いたずら完了」
長時間そこに居させるのはダメだと思い、地図を紙切れに戻してポケットに仕舞い、扉を開けて声をかけた。
「駄目でしょう?監督生が、夜中抜け出して」
「...先生」
私は、彼女の傍まで行き、羽織っていたストールを彼女に羽織らせ、横に座った。
彼女は、ありがとうと言い、空を見上げる。
「なにか悩み事?」
「...いや、そうじゃないんだ...ちょっと目が冴えちゃった、先生は?」
「先生は、フィルチが足を怪我したから、代わりに見回りしてる。」
それを聞いてフジキセキはバツが悪そうな表情をして、察する。
犯人だなフジキセキ...。
フィルチがゴムボールに足を滑らしたとか言っていたから、誰かの悪戯だろうと思ったらここに居た。
「先生、ごめん」
「ん?なんの事?最近テストばっかだったし、息抜きにはいいんじゃない?まぁ、人を使っての悪戯はよくないけどね。」
「...はい」
フジキセキの耳が垂れ、顔を伏せる。
頭をポンポンと撫でる。
「先生は、なんで私を見つけられたの?こっそり出てきた時は、誰も居なかったはずなのに」
「あー。それはこれのお陰」
私は、ポケットから紙切れを取り出す。
首を傾げるフジキセキに、私はいたずらっ子の笑みを向け、杖を紙切れに当てて言う。
「われ、ここに誓う。われ、よからぬことをたくらむ者なり」
先程のようにシミがホグワーツ城全体の地図になる。
その様子をキラキラとした瞳で見つめるフジキセキに、私は笑った。
「これ...全員の名前?」
「そ、これで誰がどこにいるのかひと目でわかるっていう代物なんだ。作った人凄いよね。まぁ...いたずら目的で作ったんだろうけどね...」
いたずら完了と言うとシミは消え、ただの羊皮紙に戻る。
私は、その羊皮紙をフジキセキの前に差し出す。
「私が持っていると、いつかフィルチに持ってかれちゃいそうだから、フジキセキにあげる。もう秘密の通路とかも暗記しちゃったし。」
「え、いいのかい?こんな凄いもの...」
「いいのいいの。こういうのは、生徒が持ってた方が楽しいでしょ?灰色の学園生活に刺激をってね。やりすぎは怒るけどね」
私がこの羊皮紙を見つけたのは図書室で呪文を調べようと本を漁っていたら、本の中に入っていた。
最初はゴミかと思って杖でつついていたら、羊皮紙から文字が浮きでたのを覚えている。
『退屈な学園生活にスパイスを』
と。
なにかあると色々試して、友人にはもうやめて捨てなさいよと言われたが、頑固な私はこれの解読に時間を有した。
そして見つけたあの言葉に私は、凄く達成感を得られた。
彼女は監督生だし、そんなに悪いことには多分使わないだろうと思う。
フジキセキは、私から羊皮紙を受け取ってくれた。
「先生、ありがとう」
「いえいえ、私もそれどうしようか考えてたからさ、フジキセキも誰かにあげたくなったらあげるといいよ。そうやって想いを繋げていってあげて」
「想い?」
首を傾げるフジキセキに、私は頬を緩めて言う。
「そ、こういう退屈な学園生活にしたくないなって思う人達に繋げていけば、きっと学園生活は楽しいものになるでしょう?作った人達はそんな想いで作ったんだろうし、それを繋いでいくのも私たちの役目じゃないかなーっと思ってさ。まっ。これは私の解釈だけどね。あははっ」
「先生って意外とロマンチストだね」
「そんな事ないよー。さ、そろそろ寮に戻りな。」
私が立ち上がり、フジキセキに手を差し伸べた。
フジキセキは、私の顔と手を見て、そっと重ねる。
引っ張ってあげると、フジキセキは立ち上がる。
「...ねぇ、1つ聞いてもいい?」
フジキセキの顔を見て私は聞いた。
「私とフジキセキ、どこかで会った...?」
「...会ったよ。でも..."まだ"教えない」
フジキセキが人差し指を口元に持って、言われた。
チラリと、私の右手を見る。
私の右手には黒い手袋を付けている。
人に知られたくない傷がずっと残っているから。
咄嗟に右手を隠してしまった。
「ごめん、先生。いつも片手だけ手袋してるから気になっちゃった。」
「あー、そうだよねぇ...なんでかわかんないけど、傷が残ってるから見せたくないんだよね。痛々しいし。」
あははと苦笑いして、私は踵を返す。
「...先生は、私を救ってくれたんだよ」
「フジキセキ?なにか言った?」
くるりとフジキセキの方を見ると、首を左右に振り、なんでもないよ。と伝えた。
フジキセキをグリフィンドール寮の扉を潜るまで見送ってあげて、私はまた静まり返った城の中を見回りするのであった...。