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    2niwt_bb

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    いろいろ解決して、翠石邸で一人隠居暮らししようとしていた若頭とそんな若頭を誘拐してきたバーテンの、仲良く二人暮らししてるほわほわ匋依。

    責任 思ってたのと、ちがう。
     口に出せば、またきっとこのくどい説教が長引くのだろうから、口にはしないけれど。
     ふよん、ふよん、目の前に置いた器の中に、スプーンを突き刺す。まだ食べている途中だったのに。
    「おい依織、聞いてんのか!」
     まるでそれを咎めるように名前を呼ばれて、視線をじとりと目の前の男に遣りながら、ぶすぅと頬を膨らませてみる。子どもっぽいだろうか、いいや実際、今の気分は、まんま母親に叱られている子どものようなものなのだろう。そんな経験は、一度もないけれど。
    「聞いとらん」
    「そんな可愛い顔してもダメだ」
    「んぶぅ」
     反抗期の子は、きっとこんな風に、親を困らすのだと想像で、素っ気ない返事。すかさず、膨らませた頬を片手で容易くつぶされ、素っ頓狂な声が出る。ちがう、やっぱり、思ってたのと、ちがう。
     じとりと睨み合うこと数秒、頑として譲る気がないらしい旦那の様子に、よもや根負け。ふい、と視線を逸らして、スプーン一杯に、フルーチェをすくい上げた。旦那がまた、何事かを言いかけるより先に、ぱくり、果肉の美味しいところは、最後に取っておこうと、思っていたのに。
    「あっ、こら! だーかーら、一箱は食いすぎだってぇの、もう明日にしろって!」
    「んぁっ、あー! なんでやぁ、俺まだ食べれるもんっ!」
    「そういうことじゃねぇって、さっきからずっと言ってるだろうが!」
     なんとなく、予感はしていた。それくらいもう、長い付き合いだ。とは言え、納得できるかと言われるとそれはまた別の話で、ひょいと器を取り上げるという実力行使に出られて、ぶーぶーと反論にもならない文句を垂れてみる。
     スプーンを持っていないほうの手を伸ばしてみるが、軽々かわされ、おまけに、もう冷蔵庫に仕舞ってしまおうという魂胆らしい。キッチンの入り口は旦那のほうが近くて、さっさとこちらに背を向けて歩き出したのに遅れをとるまいと、椅子から立ち上がった。
    「晩飯足りてないのか? でもあんま量増やしても、昼間はほとんど動いてないだろうし、それだと……」
    「や〜やぁ! まだ食べたいぃ〜!」
     キッチンの中、旦那の背中にぺたりとへばりついて、器にラップをかける手元を肩越しに覗き込む。ピンと隙間なく被せられたラップに、旦那の性格が出る。
     そこにまで手を出そうとは思わなかったが、代わりに、ぐりぐりと肩に顎を押しつけて、甘えた声を出してみて。
    「まあ昔から燃費悪かったからな……夜中にテキトーなもん食われるよりマシか? 俺が休みのときに、外に連れ出すとして……」
    「なぁ〜なぁ〜、……旦那ぁ?」
     以前はこれで、イチコロだった。
     アニキがそんなんでいいのかよ、今回だけだぞ、ほんと依織は仕方ねぇな。
     きっと微塵も困っていないくせに、困ったように眉を下げながら、旦那は俺を、甘やかす。この男の中に、俺を拒絶するなんて選択肢は欠片もないのだろうと思わせてくれる、そんな、ぬるま湯のような優しさに、いつも、浸されていた。気づいていたわけではない、今になってやっと、思い知ったのだ。そうでなければ、自分はこの先、ここ以外の場所での息の仕方も、忘れていっただろうに。
     そうしてくれれば、良かったのに。またこれも、口には出さないけれど。
     ここに拐われてきて、一週間ほどで、それは、まざまざと突きつけられた。最初の頃こそ、これは、とってきた獲物が食べ頃になるのを待っているか、美味しく育てている最中かのどちらかに違いないと思えるくらい、どろどろに甘やかされて過ごしていたはずだが、いまやそれも、遠い記憶。
     旦那からの小言は、日を追うごとに増えてきている。昼過ぎまで寝てるな、朝飯も食え、夜更かしが過ぎる、毎日甘いものはやめろ、でも肉はつけろ痩せすぎだ。大したことではない、本当に、些細なことばかり。けれど、ずっとそうして生きてきた自分からすれば、身体に染みついた生活習慣。すぐさま治すのは難しくて、旦那もそれはわかっているらしくて、だから、必ずあとにはこう続く。
    「俺も気をつけるから」
     お前を甘やかさないように、そう言われている気がした。
     べつに、不満があるわけではない。ズボンのポケットにティッシュを入れたまま洗濯に出していたときは、正座までさせられてしこたま叱られたのはさすがに堪えたが、自分はここで、旦那の世話になっている身だ。だから、手間を掛けさせないようにとは思っていて、でも、くだらないことは許してもらえる仲だと思っていて。
     旦那を迷惑をかけるようなことではないはずの、自分の悪い癖。今まで許されていたあれやこれや。こんな関係になっても、それは、変わらないものだとばかり思い込んでいたのかもしれない。
     つまるところ、旦那が寝ている隙にこっそり食べていた夜食のデザートを取られたことが気に食わないのではなくて、自分はただ、この男に甘やかされないことに、慣れて、いなくて。それがどうにも、ほんの少しだけ、寂しいと思ってしまっている自分がいて。
    「……前まではなんでも、許してくれたのに」
     ぽつりと、思わず口にしていたのは、放っておかれる、なんておまけの攻撃をくらったからに他ならない。手を止めて、一人でぶつぶつ言っている旦那には、どうせ聞こえていないだろうと、旦那の背中にのの字を書きながらの独り言。
    「はぁ?」
    「へっ!?」
     その、はずだったのだけれど、唐突に、呆れたように投げかけられた旦那の声に、落としていた視線を、条件反射で上げた。
     背中にくっついていたものだから、声を発するのと同時に頭だけを振り向かせた旦那の顔が間近に迫って、思わず、よろける。ふらりと後ろにたたらを踏んで、そこまで広くはないキッチンの中、何かにぶつかってしまうと咄嗟に身構えはしたものの、しかし、ぐいと腰を抱かれた強さに、それも杞憂に終わる。
     何が起こったのか、平和ボケした今の思考では、すぐにはわからなくて、パチクリと目を瞬かせる俺の眼前には、やっぱり、呆れたような色を浮かべた、男の、呆れるほど綺麗な顔。
    「まあ確かに、前はそうだったかもな」
    「へ? え? なに、これ、え?」
    「でも今は、そういうわけには、いかねぇだろ」
    「なに、だんな、んぇぇ?」
    「これからはもっといろいろ言わせてもらうさ、お前の人生預かったんだから」
     心臓が、口から飛び出したと思った。
     気取るわけでもなく、さも当然、当たり前のことだと言わんばかりに告げられたそれの、破壊力たるや。
     飛び出しそこねた心臓が、狂ったように鼓動を速めていて、体温が急速に上がっていく。腰が触れるくらい引き寄せられた身体、旦那に触れているところが、火傷しそうなくらい熱くて熱くて、悲鳴を上げることもままならず、はくはくと空気を食む唇。喉の奥がカラカラに渇いていく。
     嬉しいやら、恥ずかしいやら、ぐちゃぐちゃになった感情に、きっと、耳まで赤くなっている自分を真っ直ぐに見つめて、何照れてるんだと言わんばかりに不思議そうに首を傾げてくる色男に、もう何もかもが、限界だった。
    「〜〜っ、も、もう寝ますっ!」
    「あっ、おい、依織! ちゃんと歯磨いてからにしろよ!」
     旦那の腕からもがいて抜け出して、脱兎のごとく逃げ出した。洗面所に駆け込んで、秒で歯を磨く。リビングから何やら音がしているうちに寝室へと転がり込んで、潜り込んだベッドの先が、決まりきった定位置なことに頭を抱えて、いつの間にか、そこが旦那の匂いだけでなくなってしまっていることにも気がついてしまって、ついぞ上げた悲鳴は、全部枕に押しつけた。
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