狛日本は良い。本の世界は決まりから逃れられないからだ。物語のなかで主人公は、紆余曲折にあい、思い悩み、行動する。するとあたかも不確定要素の中で物語が進んでいくように思うが、実際は書き手がそのように踊らせているだけでたどり着く結末は同じである。
筆者が意図を持ってこの文を認め、インクが紙に文字を刻みつける限り、物語は変わりようなく進んでいく。それがなんとも心地よい。ミステリなんかは特に顕著だ。ボクは一つの答えについて、ああだこうだと予測し考えれば良い。
例えば、あの扉の向こうから不穏な気配がする、と文字がいえばそうなのだ。空が透き通るように青く、風が心地よいといえばそうなのだ。文字は文字の刻んだその通りに空間と感情を作り出す。「私はこの色を明るいと思ったがあの子は暗いと言うかもしれない」とか、そういう細かい齟齬を生むことがない。なんて潔いのだろうか。望んでもいないサプライズなど、展開しないのだ。作者によって綿密に練られたシナリオは、ディナーのコース料理のようにバランスの取れた喜怒哀楽を運び、食後のデザートまでをエスコートする。ただ変わりなく、一筋に結末へ向かって伸びる物語がそこにあり、読者は読み終わった後満足げにナプキンで口を拭けば良い。
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