彦星を待つ / ✡️🎀−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
仕事を一時中断し、人の気配の消えた廊下にクロービスは立っていた。アプリの一番上の履歴から、ちょうど1日前の相手に通話を開始する。そうすれば今日も1コールもしないうちに、弾んだ声が耳へと届く。
「クロービスさん、お疲れ様です!」
「……君はこんな時間でも元気そうだな」
「ふふっ、いっつも時間きっかりにかかってくるんですもん。楽しみに待ってました」
無邪気な満面の笑みのアステルが脳裏へと浮かび、クロービスはほうと息をつく。張り詰めていた気が緩み、少し表情を和らげて窓の外を見れば、空に一筋の光が見えた。
「あっ、流れ星だ。今日は七夕ですし、願い事も叶いやすいかもしれませんね」
君はまた根拠のない話を、と呆れながらクロービスは本日の用件へと入る。
「今週末の予定はどうかね? 私は午前中は荷物の受け取りがあるから、明日の午後からならば空いているが」
「私は大丈夫です。それじゃあ、お昼を持っていくので、一緒に食べましょう!」
「ああ、君の好きにしたまえ」
電話口の向こうで小さく聞こえるやったあという歓声に、ではまた明日、と淡々と告げてクロービスは会話を終わらせる。アステルのまた明日という返事を受けて通話は終了した。
そのまま通知欄をタップすれば、ペアのマグカップの発送メールが目に入った。配達業者のサイトから、最寄りの営業所までは到着していることを確認し、クロービスは休憩を切り上げる。
「あれが、可愛い、か……?」
主に朝の洗面所で見覚えのあるしかめ面を思い出しながら、クロービスは自席へと帰っていく。その足取りは日が変わったあとの予定に、少しだけ軽くなっていた。