ある日の副官02 歓意楼 更衣月に一度の〆日、私は督公の代理で歓意楼に向かう。
崔女将は、こちらの都合も考えず
「夜は忙しいから昼間に」
と言ってくる。
私もそれなりに忙しいのだが、今回は特別だ。
歓意楼で、夏前に誂える装束の打ち合わせがあり、汪督公の夏のお衣装を私がお選びする事になっているのだ。
やはり白地で爽やかな感じがいいだろうか。
いや、紺地の薄物もいいな。
緑も涼しげで良さそうだ。
私はいつもより少し浮き足立っていた。
「丁大人、ご足労かけました」
裏の通用門から中へ入った私に、崔女将は慇懃に礼を言ったが、本心ではそのようには露ほどにも思ってはいない事を、私は知っている。
「仕立て屋が来る前に、今月の帳簿の確認をしましょう」
崔女将の、心の中までぐいぐい入ってくるような、何でも分かっていますよとでも言いたげなあの目が、私は苦手だ。
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