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    nasukoDayo

    @gnsn_nasu

    アルカヴェ🌱🏛️として出力しますが恋愛要素薄いのが好きです。

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    nasukoDayo

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    アルカヴェ/モブ→カヴェ描写を微量に含みます。
    前の小説と続きの軸ですが区切ります。
    ★アルカヴェワンドロワンライのお題お借りしました。

    ③【花束】依頼人にまさかの求愛をされて愚痴るカーヴェとそれを聞いているだけのアルハイゼン
    ④【機嫌】自分の小さな作品を部屋に飾っているのを見つけてご機嫌なカーヴェとカーヴェがいることにご機嫌なアルハイゼン

    #gnsnBL
    #アルカヴェ
    haikaveh

    傍にいる人② 依頼人の新居が無事に完成した――それはいい。とてもいいことだ。むしろ物分かりのいい依頼人で、修正はたった一回で済んだくらいだ。そこまでは素晴らしかったんだ。
     だから僕も、新居に飾る花を選んでほしいなんていう専門外の依頼も請け負ったんだ。インテリアとして飾るなら造花を勧めたが、どうしても生花で、それも束でほしいんだと。
     僕は真心を込めて選んださ。僕の作品たる住居が家になるお祝いだぞ? 当然だろ。しかし難しかった。室内の装飾に合う色で、もちろん香りもよくなくちゃならないし、少しでも長持ちする、できれば手のかからない花の方がいい。あんまり希少なものもダメだ。わかってないな、特別すぎるのも問題なんだ。枯れてしまっても、また次が飾れる方が嬉しいだろ!
     そうして出来上がった花束を持って、僕は彼らの家を訪れたのに――持って帰る羽目になるなんて!


     ペラペラと捲し立てている金髪の男は、どうやら既に酔っているようだった。空になったグラスにおかわりを注いで、ぐいぐいと飲み干している。
     その愚痴を聞かされている銀髪の男は、件の花束を見つめていた。スメールローズをメインとし、他は小さな花や葉でまとめられた花束は、今は高級そうな花瓶に生けられている。調和が取れているためか、派手さがないわりに目を引く仕上がりだ。リビングに飾っても邪魔にならず、薄暗い部屋であっても、華やかな香りのおかげで存在感を放つことができるだろう。

    「僕が花束を差し出した時――ああ、受け取ろうとした瞬間の、あの笑顔で依頼が終わってくれたらよかったんだ」

     その後のことを思い出したらしい、金髪の男の顔がぎゅうっと歪んだ。思い切り眉間に皺を寄せ、目を吊り上げている。
     ダンッと、可哀想な程の勢いでグラスが置かれた。

    「あろうことか彼は跪いて……僕の手を取って、甲に口付けて、何て言ったと思う?! おいアルハイゼン、聞いているのか?!」
    「それ程の大声を出されれば、たとえ遮音機能をオンにしていても聞こえるだろう」

     金髪の男は目を伏せ、ムッとした気持ちを吐き出すような深いため息をついた。額に手を当て首を振り、片目だけ開けて花を睨みつける。

    「『ありがとう、プロポーズなんて、嬉しいよ』」

     バンッと、今度は彼の手のひらが机に叩きつけられた。痛かったらしい、無事な方の手でさすりながら彼は怒鳴った。

    「信じられるか?! あの家は、彼が彼の奥さんと住むためのものなんだぞ?! ゾッとしたよ!」
    「それがこの花がここにある理由か」
    「いいや、まだ続きがある。全部話すまで、今夜は寝ないぞ!」

     ぐるると息巻きながら、彼はグラスに酒を注いだ。それを飲み干していく様を、銀髪の男は片眉を上げて見ていた。語り終えるのが先か、寝落ちるのが先か、と考えながら。

    「はぁ……信じ難いことに、あれは彼の奥さんの前で行われたんだ……」

     ふらふら、と持ち上げた頭を両手で抱え込み、恐ろしいものを目にして怯える子供のように震えながら彼は話を続ける。

    「もっと信じ難いことに、彼女はこう言った……」

     悪夢を忘れようという風に、彼は頭をブンブンと横に振った。

    「『あなたばっかりズルい! カーヴェさん、私と結婚して!』」

     彼は両手で顔を覆って絶望を隠した。指の隙間からそれはもう深い深いため息が漏れる。

    「どうしてこんなことになったんだ……」

     そこから先はボソボソと、話を聞いてもらうためというよりは、とりあえず口に出して整理するためという風に語り続けた。

    「僕はただ、頼まれたから用意しただけなのに……飾るためだと言うわりに、花束がいいとしつこいから、妙だとは思ったが……それがまさか、あんな形で利用されるなんて予想できるか? 少しでも長く楽しんでもらえるように、手入れの方法も調べたってのに……。彼らは僕のデザインに惚れ込んでくれて、それで依頼したんだと言っていた。それはとても有難いことだ。だからこそ、僕自身に惚れてどうする!?」

     ガバッと顔を上げた直後、彼は机に伏せった。忙しないその様子を、銀髪の男はじっと観察している。顔を上げずにぶつぶつと呟かれる文句を聞き流しつつ、発端の花を見遣った。

    「せっかく、祝いのつもりで花瓶まで用意したのに。僕は家庭を壊してしまったのか? いいや……」

     金色の髪が揺れる。ゆっくりと体を起こした彼は、頬杖をついて唇を尖らせた。

    「最終的に、彼らは幸福そうだった。『同じ人を好きになるなんて、やっぱり気が合うね。最高のパートナーだ』とかなんとか言って……僕を巻き込む必要がどこにあったんだよ。そんなの、僕の建築を隅から隅まで褒めてたらいいだろ。仕事の話しかしてないってのに、どうやったら僕に惚れるんだ?」

     こくり、こくりと、首が揺れるのに合わせて、ふわり、ふわりと、金色も揺れる。眠たそうに落ちていく瞼を縁どる睫毛は長く、こんな風に疲れが出ている表情でも、一般的には美しいとされるものだろう。
     それがくるくると色を変えて、優しく微笑みかけてくるのだから、勘違いする輩がいるのも頷ける。加えて中性的な容姿だから、勘違いに性別を問わなかった。

    「思わず……報酬は要らないから返せ、と……それがこの花がここにある理由さ」

     なんとか語り終えた彼も、眠気の限界らしい。再び机に伏せってうつらうつらと舟を漕いでいる。

    「カーヴェ。眠るならちゃんと横になれ。そんな姿勢で吐いたらどうする」
    「吐くもんか……」
    「酔っ払いの言うことは当てにならない。俺の手が借りられる内に横になるんだ」
    「うん……」

     寝台にもなる大きなソファーに彼を寝かせると、銀髪の男は酒で赤らんだ顔の彼を見下ろした。しばし眺めたのち、彼の人柄が詰まった花へと視線を移す。

    「せっかくだ、この花を長持ちさせる方法を聞いてやろう」
    「うん? あぁ……雑菌を繁殖させないことだ。水を替えることと……時々、茎の先端を切り直すこと」
    「それで、この花はどうするつもりだ」
    「どう……ってそりゃ、この家に飾るしかないだろ。花に罪はないんだ……責任は取るさ……」

     むにゃむにゃと返事をする彼の瞼はもうくっついていて、おそらく数秒もしないうちに返事は寝息しか期待できなくなるだろう。
     この家の主である銀髪の男は、ルームメイトの彼によって勝手に飾られることが決定した花に手を伸ばした。

    「この家――なら、どこに飾っても同じだな」

     そう言った、という実績のためだけに呟くと、花瓶ごと持ち上げて自分の寝室へと共に向かった。近くで嗅ぐと強い香りだが、ベッドから少し離れた棚の上なら丁度いいだろう。
     そうして、奇妙な事件でやってきた花は、家主の寝室に飾られることとなった。美しさへのこだわりは理解できずとも、部屋に花があるのは悪くない、とは思えるのだから。





    「――花?」

     カーヴェがアルハイゼンの部屋に入ったのは、掃除のためだった。いつものようにやろうとしてドアを開けた瞬間、いつもだったら有り得ない光景に出迎えられたのである。

    「あいつに花を飾る趣味なんかあったのか? ……うん? この花……なんだか見覚えが――あっ!」

     そこでカーヴェはようやく思い出した。酔ったおかげですっかり忘れていたが、珍妙な依頼人のせいで花束を持ち帰る羽目になったのだ。

    「どうしてアルハイゼンの部屋に……? 僕が置いたとは思えないし。まさかあいつが自分で? いやいや、そんなはずが……でも、現にこうしてあるわけだし」

     花瓶は机とベッドの間にある棚の上にちょこんと乗せられていた。机にいる時には眺めることができ、眠る時には香りを楽しめる、そんな位置だ。

    「ふぅん。あいつにしては悪くない場所じゃないか」

     カーヴェは己が時間をかけてじっくり選んだ花を見つめた。いったいどういう風の吹き回しかは知れないが、カーヴェが君の部屋に飾れとごねたところで自らの意思がなければ従わない男だ。であれば、少なからず気に入ってくれたということだろう。

    「まあ、あいつにも草花を慈しむ心くらいはあるだろう。美しさへの理解とはまた別の感性だからな。ああほら、また本を出しっ放しにしている! 部屋の中のことまで口を出したくはないが、花瓶の傍に置くのは有り得ない! 濡れてしまったらどうする気なんだ」

     本を読みたいからスープは嫌だと言うくせに、と、ぶつぶつ文句を言いながらカーヴェは本を片付けた。
     そう頻繁に部屋の中まで掃除はしてやらないが、明日からまた依頼でしばらく家を空けるのだ。きちんと掃除してから行ってやろうというわけである。
     カーヴェは美しい花を見遣った。なかなか悪くない気分だ、と口元を緩めながら。





    「――花?」

     数日後、依頼人との話し合いが一段落したところでカーヴェは家に帰ってきた。掃除をしていなかったのだろう、埃が溜まっているからまずは掃除だ、と。自分の部屋と共有スペースの掃除を終えてから、最後にアルハイゼンの部屋のドアを開けたのだ。

    「あいつ、まだ飾ってたのか」

     出発前と同じように、カーヴェを出迎えてくれたのは花だった。花の数が減っているようだから、枯れてしまったものを片付けたのだろう。

    「ちゃんと水も換えてるみたいだな……アルハイゼンのやつ、花の世話の仕方なんて知ってたのか。まあ、あれだけ本を読んでいるんだ、そういうことも書いてあるだろ。ティナリに尋ねるって手もあるしな」

     少し高さも変わっているようだから、おそらく茎の切り直しもしているのだろう。数日前と遜色ない美しさが保たれているのは非常に喜ばしいことだ。

    「どういうつもりかは知らないが、この花だって一応は僕の作品だ。まあ……うん、大切にしてくれて……ありがとう」

     思わず呟いてしまった言葉が音として再びカーヴェの脳に戻ってきたところで、カーヴェはびくっと体を飛び上がらせた。体ごと首をキョロキョロと動かして周囲を確認し、誰もいないことに安堵する。

    「あいつはまだ仕事中のはずだ、いるわけない。大丈夫だ。……聞かれてないよな? あいつ、たまに妙なタイミングで出てくるからな……」

     もう一度、注意深く周囲を見回す。しんと静かな家には何の気配もなく、カーヴェ一人きりのようだ。改めてホッと息を吐き出し、花の前に立った。 

    「君は、聞いてたよな……伝言頼むよ――なんて」

     取り消すようにぶんぶんと頭を振って、カーヴェは箒を握り直した。いつもより、少しだけ、丁寧に掃除してやろう――と、考えながら。


    「ふふん、今夜はそうだな、好物でも作ってやるか。何にしようか……ステーキ? あいつは単純な料理が好きだからな。盛り付け甲斐がないよ、まったく」
    「――君は、独り言の声量に気を遣うべきだ」
    「うわっっ?!」

     妙なタイミング、というのはカーヴェが夕食の材料を買いに店を見て回っている時のことだったらしい。ぬっと背後から現れて声をかけてきたのは、あいつことアルハイゼンである。

    「そんなに大きな声で言った覚えはない! 君こそ登場の仕方に気を遣うべきなんじゃないか?!」
    「知り合いがいたから声をかけた。それのどこにおかしな点が?」
    「強いて言うなら君の方から声をかけている点じゃないか? まったく」
    「なかなか面白い指摘だ。そんなことより、随分機嫌が良さそうだな。理解ある依頼人だったか?」

     機嫌がよさそう、という言葉にカーヴェはピクリと反応をした。眉を顰め、気まずそうにアルハイゼンを見上げる。

    「そ、そんなに浮かれて見えたか……?」
    「もし旅人たちが君を見かけていたなら、カーヴェはご機嫌だったと報告しただろうな」
    「そんなにか?!」

     カーヴェはハッと口元を押さえ、視線だけをきょろきょろと動かして周囲を確認した。幸い、大した注目は集めていないようだ。
     確かに気分は良かった。しかしそこまで浮かれていたつもりはないのに、こうもわかりやすいと指摘されると気恥ずかしくもなるものだ。依頼人が起因であればそうもならないが、生憎上機嫌な理由を作り出したのはじっとカーヴェを見つめている彼である。

    「………花を」

     その視線に耐えかねて、カーヴェは口を開いた。

    「部屋に、飾ってくれているだろ」
    「花? ――ああ」
    「僕が選んだものだ。……悪い気は、しない」

     ふっ、とアルハイゼンは鼻を鳴らした。僅かに口元を綻ばせている。

    「それで! 今夜は何を食べたいんだ?」
    「この前のステーキは悪くなかった」
    「まったく、素直に美味しかったと言えばいいだろ」
    「ほう。大建築家殿は棚の設計もさることながら棚に上げるのもお得意のようだ」
    「き、君ねえ……! 作ってやらないぞ?!」
    「なるほど。お優しいカーヴェ先輩ともあろうお方が随分卑怯な手をお使いになる」
    「こんな時ばっかり先輩なんて言葉を使う君の方が卑怯じゃないか?! ふん、作ってやろうじゃないか、前よりもっと美味しいステーキを!」
    「ほう? それは楽しみだ」

     上手く乗せられたフリをして、内心ほっと息をつく。友人とも家族とも呼べない奇妙な間柄の彼に礼をする機会を逃したくはなかったのだ。
     こうなったら合流したのをいいことに、予算は全てアルハイゼンに任せて材料をグレードアップしてやろう――そう決心して店を探すカーヴェの後ろにアルハイゼンがついていく。

    「お、今日もいい獣肉を仕入れているみたいだ。おいアルハイゼン、せっかく合流したんだ。君が出せよ」
    「俺と会わなかったら払う気があったとは驚きだな」
    「仕事をしてきたからな! 収入はあるんだっ」
    「君は使い切らないと気が済まない性分らしいな。そういえば、あの花瓶も高そうに見えたが」
    「うぐっ……あれはその……いいだろ別に!」

     目を引くほどの声量ではないものの、わーわーと言い争いながら彼らは歩いて行った。
     もし、アルハイゼンを知っている者がこの様子を見かけていたなら、きっとこう言うだろう――アルハイゼン書記官が珍しく上機嫌だった、と。

     
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