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    nanana

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    不眠症の男とその恋人の話。同棲してる。

    #雷コウ
    ##ハンセム

    砂時計はまだ落ちない(雷コウ) 好きな人の前では安心して眠れる、なんていうのはソシャゲのストーリーの定番で。

     ゲームのストーリーを流し読みしてしまうタイプではあるのだけれど、それは流し読みだとしても覚えてしまっているほどの定番ネタだ。オキなんたらなんていうホルモンが出てウンヌンカンヌン。それは別に覚えておく必要もないし、思い出す必要もない。
     目覚めた瞬間に空になっている腕の中を見ていつも苛立ちと悔しさの混ざり合った感情に意味もなく叫び声をあげたくなる。どうせまた、と舌打ちをして起き上がって机を見る。昨夜あれだけ乱れて鳴いていた男が、そんな事実は無かったのだと思わせるように淡々とパソコンで何かを叩いていた。
     その背中を眺めながらため息を吐くのは何度目だろうか。
     最初は気に喰わないだけの男だったのに、いつの間にか存在が膨れ上がり、それが恋なのだと自覚した時にはもう後には戻れないところに来ていた。自分の趣味の悪さに辟易して、仕方がないから腹をくくった。まるで脅されているようだった、とのちに男に言われた人生最初で最後の告白。逃げる背中を何度も捉え続けて、大人の余裕も矜持も全部かみ砕いた結果、漸く今「恋人」と呼べる関係に落ち着いた。
     不眠症である、というのは昔から知っていた。ハンデッドの癖に年中クマを作って、色白のせいか余計に悪く見える顔色を無理矢理聖人面で誤魔化しているのが昔は嫌いで、今では大嫌いで。でもそれならば、いつか、そういつかの話だ。自分の腕の中で朝陽が高く昇るまで安心して眠ってくれる日がくるのではないかと思っていたのだ。
     その日は未だにやってこない。昨夜きつく抱きしめて寝たはずの小さな体は、いつの間にか音もなく拘束を外れていなくなっている。空っぽになった腕の中と、とうの昔に冷たくなっていたベッド半分。
     七歳差。一生かけても、どうやっても埋まらないそれのせいにはしたくない。ただこの男に、よく眠れた、という朝を腕の中で突き付けて、このカミサマに負けを認めさせたいだけなのだ。

    ***

     小さな物音がした。パソコンを叩く音を止めないで耳だけを動かす。どうやら年下の恋人が目を覚ましたらしかった。
     もし視線が本当に刺さるものだとしたならば、頭からつま先まで隙間もないくらいに矢が刺さっていただろう。そんな馬鹿みたいなことを考えてしまうくらいには思考が駄々漏れた視線を浴びた。
     この男が存外わかりやすい男である、と気が付いたのは「好きだ」と真っ直ぐに告白されたあとからだった。というよりもむしろわかりやすくなったのだと思う。曰く、アンタ鈍いんだから言わねぇとわかんねぇだろ、らしい。
     若さゆえの真っ直ぐさに気圧されて、躊躇いも、戸惑いも全部晒されて身動きが取れなくなったところを捉えられて今の関係に至る。
     この視線がまた眠っていないことを非難する視線だというのはわかっている。
     毎回目を覚まして温かいその腕の中から出ていく瞬間は、罪悪感に心の中で一つごめんと唱えている。もうこれはどうしようもないものなのだ。過去の過ちと向き合っても、過ちを抱えて生きていくと決めても、何をしたところでそれでもこの不眠症は治らない。そういうふうにこの体は出来ている、過ちが無かったことにはならないようにそれが覆ることはない。
     そんなどうしようもないと本人が諦めていることを、それでも、と足掻いてくれることが何よりも嬉しい、なんて一生言う事は無いだろう。それに救われている、だなんて口が裂けても口にしないだろう。それを聞かされることはこの男の気高さがきっと許さない。
    「和食君、起きたのかい?」
     振り返って顔を見る。君が俺の事を鈍いというのなら、最後まで鈍い私を演じよう。視線の意味なんて気づかないふりをしてなんでも無いように、おはよう、と告げる。
    「……はよ」
     不満そうな顔をした年下の男がまだ諦めていないのを感じ取って申し訳なさと嬉しさで胸が張り裂けそうになる。
     男が明けたカーテンからは眩いばかりの太陽の光。
     眩しいのは果たして陽の光なのか、この男なのか。
     一生言わないと決めた言葉。ふと、生涯で一度きり伝えてもいいかもしれないと思いついた。

    今際の際にそれを伝えたら、どれだけこの男が怒り狂うのだろうかと考えてその時が酷く恋しくなってしまった。
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    nanana

    DONE付き合ってない雷コウ。
    次に会った時には、プレゼントされたのだというもっとよく似合うグレーがかった青のマフラーが巻かれていてどうしてか腹立たしかった。
    吐き出した冬を噛む(雷コウ) 以上で終了だ、と男が持っていた資料を机でトントンとまとめながら告げた時、窓の外には白い雪がちらついていた。数年に一度と言われる寒波は、地元である高知にも、今現在訪れている福岡にも珍しく雪をもたらしている。それがどこか新鮮で少しだけ窓の外をぼんやりと眺める。男もつられたように同じように視線を向けた。
    「雪か、どうりで寒いわけだな」
     二人きりの福岡支部の会議室。ちょうど職員の帰り時間なのだろう、廊下の方からも賑やかな声がする。
    「こんな日にわざわざ福岡まで来てくれた礼だ。もつ鍋でもご馳走しよう」
     こんな日に、というのはダブルミーニングだ。一つはこんな大寒波の訪れる日に、という意味で、もう一つはクリスマスイブにという意味だ。雷我がこの日を選んだことに深い意味はない。たまたま都合のよかった日にちを指定したらそれがクリスマスイブだっただけの話だ。夜鳴のメンバーと予定したパーティの日付は明日だったからクリスマスにはイブという文化があるのを忘れていたせいかもしれない。
    2302

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