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    nanana

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    事後の話。かなりイチャイチャしてる。
    付き合っているつもりだった年下彼氏と、恋愛のれの字もわからない年上彼氏。

    #雷コウ
    ##ハンセム

    気狂い達の恋愛模様(雷コウ)「ヤってる時にあんま嫌々言われると萎えるんだけど」
     どの部屋を選んでもたいして変わり映えのない使用目的の限られた安っぽいホテルの一室、一ラウンド終えてベッドにくたばっているやたらと見目だけはいい男に雷我はそう告げた。男は一瞬何を言われているかわからなかったらしい。未だ息は整わないまま、肩で呼吸をしながら左右違う色の瞳でこちらをぽやりと見返した。
    「……嫌々、って?」
    「あ?ヤってる最中だよ、俺が何したってアンタ、全部嫌って首振るじゃねぇか」
    「それはっ……!」
    「それは?」
    「…………」
    「黙ってねぇでなんか言えって」
     いつも腹が立つほどに回る口が今はどうにも動かないらしい。男はベッドに転がったまま悔しそうに何か口を開きかけて、そしてまた閉じてこちらを何か言いたそうに見つめ返した。
     この男が素直に「良い」なんぞ言うはずがないと言う事なんてわかっていたし、本気で嫌がっているわけではないと言うこともわかっていた。けれど視線が合えば反発したがるのはお互い様だ。磁石のS極とN極みたいなもので向かい合っては心にもないことを言いたがる。
     それでもこんなことを言ったのは好いた相手から拒絶ばかりされればそれなりに傷つくわけで、たまには柄でもないことを言ってみるかと思い立っただけなのだ。
    一つわざとらしく大きくため息を吐く。追及を免れたと思ったベッドの上の男も安心したように小さく息を吐いたのを見て、意地悪したくてまた少し柄でもないことを口にした。
    「……あんまり嫌々言われると本当に嫌がってんじゃねぇかって不安になるんだよ。俺、一応好きな子には優しくしたいタイプなんで」
     相手に意地悪したくて口にした言葉なのに、思ったよりもダメージを受けたのは自分自身だった。慣れない言葉はどうにもくすぐったくて、目線を逸らしたまま逃げるようにベッドを下りて冷蔵庫に向かう。いつだって顔を合わせれば反発してばかりなのだ、突然そんな事を言われたって向こうも戸惑うだろう。冷蔵庫から持ち込んでいた炭酸と水を取り出してベッドを振り向く。当然困っているか焦っているか、もしかしたら恥ずかしがっているかもしれないと少しだけ期待した男の顔は予想とは大きく違うものだった。
    「……君は、好いた子でもいるのか?」
     きょとんと心底不思議そうに首を傾げている男の顔と言葉に、思わず喉から零れ落ちたのは、は?と空気の漏れるような音だった。いやアンタだが、という言葉は情けなさすぎてすんでのところで飲みこんだ。
    「……なんでそうなった」
    「いや、今好きな子がどうとか言うから優しくしたい相手でもいるのかと思って」
     今の流れは、だからアンタに優しくしたい、という流れだろう。照れ隠しでもなんでもない、純粋に首を捻っている男はいったいこちらの事をなんだと思っているのだろうか。確かに言葉ではっきりと伝えたことは無い。けれど何度肌を重ねたと思っているのか。まさかとは思うが単なる性欲解消のために抱いていると思っているのか。
     つまり、この男はこちらのことを性欲解消のためならば誰でも抱ける男だと思っているわけなのか。
    「好いた子がいるならば私なんかで優しくする練習していてもしょうがないだろう」
     この期に及んで大人の顔で説教染みたことを言ってくる男の顔を見ていたらふつふつと腹の底から何かが湧き上がる。何も伝わっていなかった悔しさだとか、思いを受け入れてくれているのだろうと勘違いしていた情けなさだとか、あちらは何とも思っていなかったのかと気が付いてしまった悲しさだとか全部ぐちゃぐちゃに絡み合って最終的に出来上がった感情に上手く名はつけられない。
     もういいわ。
     何かがパチンとはじけ飛んだような気持だった。この男がそういう考えならばこちらにも考えがある。恋愛のいろはを年下に教えるため、涼しい顔していい大人を気取っているのかもしれないがそんな顔は見飽きたし、恋愛のれの字もわからないような鈍感男に恋愛のことを諭されたくもない。
    「……そうだな」
     声は意識もしていないのに自然と低かった。持っていた飲みものを二つ、ゆっくりと近くの机に置く。物に当たるつもりなんかなくてごく普通に置いたはずのそれは、予想以上に大きな音を立てた。それでやっと男は何か様子がおかしいことに気が付いたのだろう。ひくり、と喉が小さく動いた。
     一歩ずつベッドに近づくたびに、たじろぐようにして男の体が後ろにずりずりと逃げていく。一歩、また一歩と酷く緩慢な鬼ごっこは、ベッドの一番端っこ、枕元の壁に男の体がぶつかって逃げ場を失ったところで終わりを迎えた。
     トン、と頭の横の壁に手をついて追い詰めて、開いたほうの手で顎に触れる。怯えたような目をした男の体がビクリと小さく震えた。
    「……わ、和食君?」
    「何?」
    「だ、だから練習なんてしてないで――ッ!?」
     これ以上何かを言われる前に口を塞いだ。いつもセックス中にするものとは違う。舌を入れない触れるだけの口づけ。
     初めての口づけに戸惑うように瞳が大きく揺れた。どうして、と零す男はまだ一つもこちらの意図が理解できないらしい。
    「だから本番だよ」
    「え?」
    「優しくする本番」
     混乱したまま、一切頭が回っていないだろう男が、ほんばん、と呆けた声色で言われた言葉を繰り返す。
    「本番って……まるで、君が俺の事を好きみたいな……」
    「みたいっつーか、ずっとそう言ってんですけど。アンタが好きだって」
     普段の自分からは絶対に出てこないだろう臭くて甘い言葉がするする出てくるのは、よくわからない感情で気が狂っているせいだろう。そもそもこんな顔だけしか褒めるところが無いような男の事がわけもわからず好きなのだ、最初から正気ではない。
     正気じゃないのならば何を喋っても、何をしても許されるだろう。
    「で、アンタはこれからどうされたい?優しくしたいんで教えて欲しいんですけど」
     顔色を青くしたり赤くしたり、なんでとどうしてを壊れたラジカセの様に唱えてぐるぐると目を回していた男が、そう問われてついにショートしたように固まったのだった。
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