残り香が晒す傷跡(雷コウ) 水面に浮かんだ泡のような、明け方の葉についた露のような、そんな夢とも紛うような一時の事。十八から二十歳になるくらいの間、嫌いな男を抱いていた時期があったのだ。
どうしてそれが始まっただとか、どうして一夜の過ちで終わらせなかったのだとか、そういうものはもはやわからない。ただ、確かにそんな時期が存在していた。
それが終わったのは、そう、あれは二十歳の誕生日の事。二十歳の誕生日、という自分にとってそこそこに大きなイベントだったから記憶している。丁度誕生日がHEADばかり集められた会議だったのだ。恒例になった会議の前日の夜のホテルでの逢瀬。いつものように適当に抱いて、適当に眠りについた誕生日当日の朝。目覚めたときにはベッドの隣は空だった。触れてみてもそこにぬくもりは無く、とっくの昔に男はこの部屋を出て行ったのだと知る。目覚めた時にいないのは初めての事でもない。それなのにどうしてか今日は心がざわつく。いつも通りにベッドサイドの机に置かれていたホテル代金がいつも以上に他人行儀に見えた。
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