蓄音機には奴の気に入りの音盤がセットされていた。さあ、踊りましょう!と奴本人がいつ言い出さずとも、それが既に物語っていた。
それを見て、諦め半分に肩を竦める。
「どうしておれを誘うんだ」
おまえひとりで舞ったところで、充分きれいだ。
奴はこちらとは反対に肩を怒らせたようだった。しかし直ぐに、こちらよりももっと落としたようだ。
「逆に訊きますけど」
呆れた様子だが、本気で疑問に思ってもいるようだ。
「一人で踊ることのなにが楽しいんですか?」
そんなのおまえ、踊り子に失礼だと思わないか?
思わないんだろうなあ。踊り子は職業だし、見ている観客の心は共に踊るのだろうから。
だから別の切り返しを手渡す。
「絵を描く時はおまえいつも一人で引き篭もってるだろうが。」
おれのことなんかいないみたいに放っといて。とは言わなかった。
「あれはひとりでやっても楽しいから良いんです。」
勝手な奴め。相変わらずだ。
「だからね、二人でやって楽しいことは、二人でやるべきなんです!」
蓄音機から手を離し、その周りをくるりと回って歌うように告げて来る。
充分楽しそうに見える。が、それは言えばきっと機嫌を更に損ねさせる。
と言うより。
「……その相手がおれ?」
「わたしが二人、と言っているのに、わたしの相手がおまえでなくてはどうするのです?今は他にいないのですよ?」
まあまあ満足な答えを引き出せたので、肩を竦めて仕方がないポーズを見せた後、その場で一礼してやった。
蓄音機に急かされる中、どこまでも勝手に二人で踊った。