「メイメイさんがそんな事、できるはずありませんから。信じてますよ。」
何の根拠もないのに、自然と口をついて出てきた言葉に自分自身で土浦一色は頷いた。
人間離れした、目にも止まらぬ速度で距離を詰められて尚、脅威が振われそうになったというのに、それでも信じるというのだ。場違いな発言だろう。
「ふふ、不思議な人。」
しかし彼女もまた場違いに微笑む。纏う色は違えども、紛れもない一色のよく知る、箱庭の主人だ。
一色が彼女を見間違うわけがない。見間違える筈が、ないのだ。
彼女は自分自身を、メイシア・メイルナリアの楔であり、闇であり、心の叫びであり、巣食う一匹の獣であると称した。メイシア・メイルナリアをそのままで居させるわけにはいかないと、そうも言っていた。聞き間違えなどではない。
『私にはあれが、メイメイじゃないけど、メイメイに見える。多分あれ、メイメイの中にある何かなんだと思う。あれもメイメイなんだよ、一つの。』
本を手にするよりも前、この場に姿を見せた彼女に対して、これまでを共にしてきた天牙彼花の言っていた言葉を思い出す。
(多分、違わない。)
最後の力を手にしても、目の前に彼女がやってきてくれたというのに、絶好の機会を逃してしまった。常人では到底追いつくことの出来ない光景に近づく術はこれ意外になかったから。何の迷いもなく選択をすることが出来た。だというのに、歯痒い。
届けたい言葉があるのに、伝えなくちゃいけない言葉があるのに、何もまだ掴めていない。