ショーン秘話 これは、復讐ではない。言うなれば、自殺だ。
死者の迷宮、その案内人の数歩前でショーンは心の中で呟いた。あの日、彼の全てを奪った死者の迷宮は、未だに冒険者たちを飲み込んだままそこに鎮座している。
…仲間が心臓を穿たれ、アンデッドにさせられたあの日。ショーンは傷つき倒れ、一瞬にして肉が腐っていく仲間を背に、本能的にその場から駆け出した。幸いして、いや不幸だったか、彼は癒し手であった。敵から逃げ延びるには、十分の距離を保っていたのだ。
彼は仲間を見捨てようだとか、自分だけが助かろうと思っただとか、そんな理性的な考えを持っていたわけではない。ただただ、死の恐怖から逃げ果せたのだ。足を動かす間、なにも見えなかったしなにも聞こえなかった。ただ感じるのは、迫ってくる死の恐怖のみであった。
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