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    idea_beecham

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    idea_beecham

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    身内向け!
    イデア秘話:DDsで行方不明だった1週間のこと。

    イデア秘話血濡れのソウルクリスタルを握りしめて、イデアは嗚咽を漏らして泣きながら蹲っている。これは夢だと、分かっているのに抜け出せない。
    目の前に横たわるのは、かつて彼女の恋人であったグ・ベル・ティアの肉体だ。バハムートの発した放射能で焼かれた顔は愛した彼の面影を消し、生臭い血の匂いに包まれている。
    焼けた肉の、おそらく口であった場所がぱかりと開いていて、生前の彼の声がそこから漏れ出した。
    「イデア……いつか、グリタニアに家を買って…二人で住もう。そうして…僕ら、家族になろう。アーノルドに、お礼を言いに行こう…。」
    ぽっかり開いた穴からはまだ声が響く。
    「イデア……だから、僕の魂を返してくれ………。」
    イデアは耳を塞ぐ。長い耳を折り畳んでも、その声は遮断されない。彼が自分の生を呼ぶ声が反響するように脳に響く。胃のものを全て吐き出しながら、彼女は泣き続ける。
    それでも、血濡れのソウルクリスタルを胸に抱いていた。

    ─────────

    グ・ベル・ティアから受け継いだソウルクリスタルが瞬いた瞬間、イデアの脳内に破裂するように、誰かの記憶が流れ込んできた。
    何処かの戦場で、必死に死にかけている男にエーテルを流し込む誰かが、諦めたように肩を落とす。それから、不意に顔を上げ一点を見つめる。力を使いすぎたせいで充血した瞳が、食い入るように何かを見つめると、手を伸ばして空を掴んだ。そして、掴んだ何かをそのまま飲み込む。
    その顔は────イデアにそっくりだった。
    彼女はゆっくり、老婆のように背中を曲げ、嗚咽を漏らす。イデアの兄の手を掴むも、彼の手から小指が落ちた。そのまま、彼女は胸に手を抱いて、静かに泣き続けた。



    「……イデアちゃんッ!」
    はっ、と名を呼ばれて顔を上げる。流れ込んだ記憶の映像と、周りの風景が混濁しイデアはよろめいた。
    「……行かなきゃ。」
    「どうしたの?イデアちゃん、具合悪い?」
    彼女の顔を覗き込むのは、人一倍仲間思いのアウラだ。視界の端に映る仲間たちも、一様に心配そうに此方を見つめている。
    「兄さんの…恋人に…会いに行かなきゃ…。」
    バクバクと心臓が鳴る。汗が噴き出る。目の焦点が合わなくて、イデアは深く息を吐いた。
    「どこか、行きたいの?ノクティも行くよ…!」
    心配そうな仲間の声に、目を閉じて頭を振る。握りしめたままのソウルクリスタルが手の肉に刺さり、僅かに痛む。だが、その小さな石は優しく、温かく、光を携えていた。
    「すぐ、行かなきゃ…!!」
    「イデア…!」
    見守るように後ろに立っていたエレゼンの男性が、手を伸ばした。彼が自分の名を大きく声を張り呼ぶのは珍しい。だが、それをお構いなしに彼女はその場を走り去った。


    先の戦いで受けた傷の痛みを無視して無我夢中で走り切り、着いた場所はグリタニアの冒険者居住区だった。一角に携える、一人用の小さな家。幻術士ギルドに所属する、ミコッテ女性の家だと門番は言っていた。
    ……中に入り、部屋を見渡す。なぜ自分がこの家の鍵を所持しているのか。なぜ自分は、この家までの道を記憶しているのか。バクバクと心臓が派手に音を鳴らす。煩くて、耳がどうにかなりそうだった。
    辺りには、エーテル学の書籍、白魔法に使う幻具、何かの方程式が描かれた紙やエーテル増強のためのマテリア。そして…あった。幻術士ギルドが発行する、身分証明書が机の上に置いてあった。カラカラに乾いた喉で、唾液を飲み込むと小さな声で文字を読み上げた。
    「……Idea・Beecham、…幻術士ギルド所属の…白魔道士。」
    …小さな紙から顔を上げ、机の横に置いてあるものを見つけた。
    恋人である、グ・ベル・ティアの生前使っていた、槍が立て掛けられていた。蒼の竜騎士に憧れて特注で作成したと言っていたそれは、穂先が真っ赤に染まっていた。

    ──────

    そこから、彼女が何をしたかはあまり記憶がない。覚えているのは、急に溢れ出した悲しい記憶に襲われ、いつまでも自宅のベッドに横になり窓から外を眺め続けたことだ。自分を抱きしめた腕が、優しく見つめた瞳が、誇らしく槍を掲げた後ろ姿が、一夜にして焼け潰れた悲しみに、彼女は涙も出なかった。
    そして、そんな悲しみ果てる彼女の手の中で、ベルのソウルクリスタルは温かく光り続けていた。

    優しい光を見つめるうち、彼女は少しずつ頭の整理を始めた。
    最初に思い浮かべたのは、仲間達のこと。急に走り出した彼女を、日頃あまり体を動かしたがらないショーン、冷静に最善策を見つけるクロディス、彼ら二人が真っ先に足を動かして追いかけてきた。
    人一倍仲間思いなノクティは、いつもの優しい笑みも消えて必死な様子だった。謝るなら、最初に彼に謝るだろう。
    彼らは今、何をしているのだろうか。もしや自分を探しているのか。
    次に思い浮かべたのは、竜騎士として空を飛ぶ自分のこと。傷を受け足がよろめいた時、温かなエーテルが自分を包み大きく切れた皮膚が再生したこと。いつも自分が、彼にしていたことをショーンが自分に施したのだ。
    背中を誰かに預けるということ。その勇気と恐怖を、白魔道士だったイデアは何も知らなかった。
    次に……ベルのソウルクリスタルを考えた。優しく光を放ち続ける美しい石には必ず光源があるはずだ。本来ならば、持ち主エーテルに反応し発光するはずのクリスタルは、体の中のベルのエーテルに反応しているのか。それとも、イデアのエーテルか。

    そのうちに、ふつふつと思い浮かんでいた答えを、否定したくなった。彼のエーテルを解き放つ唯一の方法に、疑問が浮かび始めた。
    この自分の生命ごと彼の魂を、星界に還す。5年間毎日抱え続けた思いは、冬の雪解けのように消えていく。
    目を閉じた彼女の瞼の裏に、「強くなったね」と笑う仲間の顔が浮かんだ。


    ──────

    「クロディス、ショーン、ノクティへ。

    お久しぶりです。1週間も顔を出さずにごめんなさい。リンクシェルにも応えなくて、ごめんなさい。モグレターを出すのは初めてで、ちょっと緊張しています。
    今日、みんなでフォールゴウド、浮かぶコルク亭に来てくれませんか。待っています。

    イデアより。」



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