【冒頭サンプル】今はまだ、名前のない関係出会い Side.she
星ひとつない曇空と眼下に広がる真っ黒な水面。境目まで曖昧でジィーっと見ていると吸い込まれて消えてしまえそうな気がした。
「……ぁ……いっ! なぁ! 大丈夫か?」
欄干に手をかけてぼんやりとしていた私にその人は声をかけていたみたいだった。
「……ぁ」
街頭だってろくに無いのに、その人の周りだけキラキラ輝いて見えた。白銀の髪が隠れている月のようで、私を現実に引き戻していく。
「——あの」
不安げに揺れる宝石みたいに綺麗な瞳に私が映っていた。
「身投げなんて良くないですよ! 何か悩みがあるなら、僕で良かったらお話くらい聞きますし!」
端正な顔を歪めて必死に言い募る彼に思わず笑ってしまった。
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