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    Cattleya404

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    のれん6用
    初恋すれ違い話です。ハピエン

    #ジャミカリ
    jami-kari

    リナリア いくら相手がカリムとは言え、初めてのことはそれなりに緊張する。
     座る位置や夕食、食後の飲み物は熟慮を重ねたし、雰囲気だってわざとらしくならないように注意を払った。やり過ぎは逆に空気を悪くするからほどほどに。
     大事なのはさりげなさだ。偶然を装った必然。翌日の予定にだって気を配った。なにもせずにだらだらしていたって大丈夫なように、簡単につまめるものを食事を冷蔵庫に入れてある。準備は完ぺき。そう、完ぺきだった。
     問題は、相手がカリムだと言うことだけで。


    「これはまた、随分とひどい顔をなさってますね」
    「うるさい、となりに座るな」
    「いいじゃありませんか。仲良くもないクラスメイトが座るよりは僕のほうがずっと気楽でしょう」
    「お前とだって似たようなものだろ」
     うさんくさい笑みを浮かべてとなりへと着席したアズールと、さりげなく距離を取る。無駄にめざといよな、こいつ。
    「なにか、あったんです?」
    「残念ながら、何もない」
    「話したくないならそれでもいいですが……。次の授業は古代呪文語ですよ、教科書はお忘れですか?」
     言われて視線を落とせば、魔法薬学の教科書が鎮座していた。今日、授業の予定はない。教科書を取り違えるなんて、いままでやらかしたことがない。自分で思ってる以上に上の空だったらしい。さいわい古代呪文語の教科書もしっかり鞄には入っていた。危ない、これで持っていなかったらアズールと教科書を共有する羽目になるところだった。
     そういえばカリムのやつ、実験着を机に置いたままだった気がする。
     いつもなら指摘するところだが、昨日も今日もそんな気持ちにはなれなかった。それどころか昨日はろくに会話すらしていない。事前に飯を仕込んでおいたのがこんな形で役に立った。……不本意だが。教卓の前に教師が立ったのが見えた。授業が始まる。指示された通りに教科書を開いて、そうして昨日のことを思い出していた。


    「ジャミルは、いいのか?」
     あと少しで唇が触れる、と言うときに紡がれたことばにいっしゅんいらっとした。いま、どうしても聞かないといけないのか、それ。もっと前でも良かっただろ。こんなときに聞かないでほしい。思いついても黙っててくれ。なんて言葉を飲み込み、頷いた。口にするのは少しこそばゆい。丁寧に作り上げたムードがほどけないうちに唇を重ねた。触れたところから伝わってくるやわい感覚に酔いしれる。ただ、触れているだけ。お互いの唇が触れているだけ。手をつなぐとか、肩が触れるとか、足を絡ませるとか、触れ合っていること自体はそれらと大差ないはずなのに、脳に訪れる快楽は段違いで、幸福な気持ちが身体を巡った。離れて、また口唇をかさねる。ちゅっにあからさまに音を立てた。聴覚が研ぎ澄まされてカリムが合間合間に息をしている音が聴こえる。はあと吐息が漏れるたび、身体がしびれる感覚がした。くらくらする。視界が熱をもったみたいにぼんやりして、もっともっとと求めるようにカリムを引き寄せて抱きしめた。唇は変わらず吸い付いて離れてを繰り返していて、僅かな隙間から腔内へから浸食が許された。ふだん触れることない箇所を舌先でなでる。なにか言いたげな甘ったるい声がこぼれ落ち始めた。服をぎゅーっと掴まれて、うっすら表情を覗き見れば潤んだ瞳がぼんやりとさだまらないままこちらを見ている。かわいい。
    「じゃみる」
     名前を呼ばれて触れるのを止めた。ただ呼んだだけかと思ったが、堪えるために握られた手のひらに力がこもったのがわかった。なにか言いたいことがあるのかもしれない。なんだ、と答えると「いいのか?」と再度問われた。
    「いいもなにもないだろ。……怖くなったなら今日はやめておくか?」
     出来るだけ優しく聞こえるように返事をする。ほんとうはやめる気なんて欠片もないが、それでも一方的に欲求を満たすだけになるのは避けたかった。初めて、をないがしろにはしたくない。自分が葛藤するのと同じように、カリムだってそれなりの葛藤があるはずだ。ほんとうに嫌なら仕切り直してもいい。……不本意だが。
     カリムの頬を撫でると、大きな眸が手の動きに合わせて細められた。髪をなでる。さらさらで柔かな髪を包み込んで、じっとカリムの答えを待った。
    「こわい、わけじゃない」
     ゆっくりと顔を横に振ったカリムは困ったように視線を下げた。
    「でも、ジャミルは」
    「俺は?」
     思わず急かすようになってしまって慌てて唇をきゅっと引き締めた。危ない。焦るなんて俺らしくもない。まるで余裕なくじれているみたいじゃないか。
    「オレはジャミルのことがずっと好きだから嬉しいけど、……ジャミルだって好きな人と結ばれたいんじゃねえかなって、思って」
    「スキナヒト」
     オウムみたいに相手のことばを繰り返す。好きな人……? カリムは何を言ってるのだろうか。
     俺たち、付き合ってるんじゃなかったのか? それとも俺が他に想い人がいながら付き合ってる、とでも言うのだろうか。
    「オレの思い違いならいいんだけど……。やっぱり無理させたくなくてさあ。先にはっきりさせときたかったんだ」
     丁寧に作り上げた空気が、徐々に薄らいでいくのを肌で感じた。どれだけ先に進めようとしても、自分の気持ちが立ち止まろうとしている。聞きたかったなら、先に聞け。どうして、なんで。ここまできて、どれだけ準備が大変だったと
    「……ちなみに、俺は誰が好きなんだ?」
     必死に状況を保とうとしている自分とは裏腹に、滑り落ちたことばは、もう完全に戦意を喪失したものだった。続けたい、なんて気持ちがかき消されていく。ここまで来たらもう取り返せる気がしない。
    「誰って……うちのとーちゃんだろ。ジャミル、昔からキラキラした目で見てたし会う度に嬉しそうにしてたじゃないか。この間も電話したとき、すっげー緊張して、でも嬉しそうにしてたから、だからまだ好きなんだって。……って、ジャミル? どうした? あ、言わない方が良かったか? でも、やっぱ気になって! こういうことってやっぱり大事だと思うんだ、ジャミル? えっ、大丈夫か、ジャミル!?」


    「っなわけあるか!!」
     思わず叫んだ声に、右から左から、前方の教卓の前から強い眼差しが向けられる。いっしゅん間を置いて、教師から「なにか、変なところがあったか?」と問われ、自分が授業中だったことを思い出した。
    「……いえ、なんでもありません。すみません」
     くつくつととなりから笑い声が漏れてきて、視線だけ向ければ、嫌な形をした眼鏡がこちらを見ていた。
     ……失態だ。
     ぐっとペンを握り締めて俯くと、となりから紙切れがそっと滑り込んできた。いつも持ち歩いているのだろう、上質な紙に控えめな文字が印刷されている。
    「悩みごと相談はモストロラウンジまで」


    「こうみえて恋愛相談は得意なんですよ。恋は万人に共通する悩みですからねえ」
     アズールからの宣伝は破って捨てた。けれど、本体のほうが振り切ろうにも吸いついたように離れてくれない。
    「ラウンジに向かわなくていいのか、繁盛してる時間だろ」
     こんな日は身体を動かして気持ちを切り替えたいが、きょうに限って休息日となっていた。タイミングが悪い。いや、部活が休みの週をあえて選んだんだった。万が一にでも休日が甘く蕩けてしまったら困るから、と思って。……甘いどころの話ではなかったが。こういうとき、自分の計画性の高さが嫌になる。
    「先ほど確認しましたが、本日はフロイドの機嫌が良さそうで。フロイドとジェイドが揃っているなら心配ないでしょう。それより、友人がうかない顔をしていることのほうがよっぽど問題です」
    「俺は友達ではないし、ひとりになれないことのほうが問題だ」
    「悩みはひとりで考えていても悪い方に向かいますよ。話してしまったほうがすっきりすると思いますが」
    「断る。お前に弱みなんて見せられるか」
    「まあそう仰らずに。解決の糸口を見つけるきっかけだと思ってくだされば」
     なにをいっても食い下がるアズールを振り払うのにも疲れて、適当な場所に寄り掛かった。
    「じゃあ悩みを聞いてくれるか。どこかのタコが離れてくれないんだ。吸盤ごと焼き尽くすにはどんな魔法がいいと思う?」
    「カリムさんとの喧嘩が拗れるのは珍しいですね」
     カリム、という単語に眉が寄ってしまったのがわかった。当たったとばかりにアズールの口端がつり上がったのがみえて、ため息がもれる。……失敗した。
    「……別に、そういうこともあるだろう」
    「おや珍しい。てっきり否定されるのかと思いましたが」
     楽しそうにこちらを見るアズールの目。嫌なかがやきだ。
    「アズール、君の目はきらきらしてるな」
    「急にどうしたんです? 話題のそらし方が雑すぎません!?」
     びっくりしてまたたいた眸はもうきらめいてはいなかった。動揺して大きく目を見開いてこちらを見る様子はちょっと面白い。
    「別に思ったことを言っただけだ。人は、好きなものを見てると目が輝くんだとさ」
    「ああ、そうですね、そういった話はよく聞きます」
     気を取り直すように眼鏡の位置を修正したアズールがことばを紡いだ。
    「確かに人のお役に立てることは好きですからね。それがにじみ出てしまっているとはお恥ずかしい」
     いけしゃあしゃあとよく言ったものだ。役に立つことが好きなんじゃなくて人の弱みを握ることが好きなくせに。
    「でも、輝いている、と仰るなら、あなた方のほうがよっぽどだと思いますが。最近はあまりのまばゆさにフロイドがサングラスをかけてのぞき見していたの、気づいてませんでした?」
    「俺たちが?」
     たしかにフロイドは最近よくサングラスをかけていたように思う。てっきり地上で見つけた珍しいものを見せびらかしてるのかと思っていた。色が濃いものからほとんどサングラスだとわからないものまで複数所有して楽しそうにしていたのを覚えてる。
    「ジャミルさんとカリムさんですよ、もちろん」
     まさかのことばに思わずことばに詰まる。やっぱり自覚なかったんですね、と笑われて釈然としない。カリムは騒がしくて元気なやつだから似たような嫌味をはかれたことはあるが、一緒にされるのは納得いかない。カリムと一緒だなんて、そんなことがあってたまるか。
    「……まあご自身で相手を見つめてるときの様子を確認することはできないですからね。よろしければ今度撮影しておきましょうか? まばゆすぎて映らないかもしれませんが」
    「断る、要らないだろ別に」
    「でも、とても素敵な写真になると思いますよ。カリムさんもお喜びになられるでしょう」
    「そう、かもな」
    「おや、歯切れの悪い。そういえば痴話喧嘩中、なんでしたっけ」
    「喧嘩と言うほどではない。……カリムには、俺が別の人間を好きに見えているらしい」
     言うかどうか悩んだが、オクタヴィネルの三人組は俺がオーバーブロットをした現場に立ち会っている。つまり俺がカリムのことを嫌いだと言ったしゅんかんをカリムとともに見聞きした。
     なら、カリムの思惑に近いかもしれない。少なくとも言った側の俺とはまた違った見方が出来るはずだ。まあもしも今後このネタでゆすられるようなことがあれば、思い出さないよう”お願い”すればいい。
    「それはそれは」
     あれから数ヶ月のときを経て、まさか付き合ってるだなんてあのときのだれもが思ってなかったに違いない。少なくとも俺は思いもしなかった。カリムのことを好きになるなんて、そんなことはまったく。
    「ジャミルさんが思いを寄せていることになっている相手のことは伺っても?」
    「地元の人間だな。カリムと俺の共通の知り合いだ」
     なんとなくカリムの父親とはいえなくてことばを濁す。そこは大事なところでもないだろうし。
    「カリムさんはどうしてその方のことをジャミルさんが好きだと思ったか、仰っていましたか」
    「俺がキラキラしてるからだそうだ。他の人と話すときより緊張したり、嬉しそうにしていると」
    「なるほど」
     こちらのことばにアズールが意味ありげに頷く。理解しているのかはさておき、聞く姿勢の演技は上手いな。
    「ジャミルさんはカリムさんが過去に好きだったお相手のことをご存じですか?」
     質問が変わって、答えを探すべく記憶をさかのぼる。
     カリムの初恋はずっと昔にアジームに仕えていた召使いだったと思う。女性と言うには幼い雰囲気をまとった彼女は、今の自分たちと同い年ぐらいだったろうか。仕事をしている彼女の後ろをカリムがよくついて回っていたのを覚えてる。仕事の合間合間にカリムと遊んで楽しそうに笑い合うふたりの姿は今でも色あせることなく記憶に留まっていた。
    「それは、どうして? カリムさんが仰っていた、とか?」
    「いや……」
     そういえば、カリムから直接は聞いていないかもしれない。そもそもカリムとそういう話をした記憶がない。
     たぶん、自分も彼女のことが好きだった。自分がいないところでふたりが遊んでいると気持ちがもやもやしてなんだか嫌な気持ちになったので。彼女を見上げるカリムが笑う。頬がとろけたように緩んで、遠くから見ていても空気がはなやぐのがわかった。彼女もカリムが来ると嬉しいのか、はたまた遊ぶことも仕事だったのか、他の人に怒られないか心配になるほどカリムにかまって笑っていた。
     そのうち彼女は結婚したとかなんとかでいなくなってしまって、俺とふたりで遊ぶ時間が増えても、カリムは時々彼女の話をしていた。好きな人の知らない一面を他人から聞くのはあまりおもしろくない。こんなことをした、あんなことをした、こういうのが好きだって言ってたなんて、指折りカリムが教えてくれる度に嫌な気持ちになった。カリムが相手のことを思い浮かべながら笑う度に、カリムのことが嫌になって、耳を塞ぎたい気持ちになった。俺だって、だって。
    「カリムが彼女と会うたび、嬉しそうに目を輝かせて、声を弾ませて、いつも嬉しそうでそれで」
     言いながら違和感を感じている自分に気づく。似たようなことを、誰かがが言っていなかったか。
    「よく見てらっしゃったのですね」
    「……俺も相手のことが好きだったんだ。だからカリムが話をしているともやもやして」
    「カリムさんとジャミルさんに想いを寄せられるとは、お相手は随分と魅力的な方なんでしょうね。さぞお美しいことでしょう」
     美しい、と言われて首を傾げた。そうだっただろうか? よく笑っていたのは覚えているが、それ以外のことはあまり覚えていない。
    「どういうところがお好きでしたか?」
     聞かれても思い出せない。そもそもあまり話した記憶もない。ただ相手と楽しそうにしているカリムをみると胸がざわめいて、カリムが笑いかけるたびに羨ましい気持ちになった。
     あれ?
     そういえば彼女と話したことがあっただろうか。彼女がカリムとよく遊んでいるのは見ていた。けれど彼女はカリムがこちらに気づいて駆け寄ってくると仕事へ戻っていく。ふたりで遊んでいるとこちらを見ている彼女と目が合うことはあっても、話をしたことが、……あったか?
    「ちなみに僕もカリムさんの初恋のお相手、知ってるんですよ」
    「は?」
     突如告げられたことばに間抜けな声が出た。なんだって?
    「寮長会議の合間にヴィルさんに聞かれたことがありまして。役作りの参考にしたいから、と。そのときにカリムさんにも訊ねられていたのが聞こえてきまして」
     聞こえてきた、だなんてわざとらしい。聞き耳を立てていた、の間違いだろ。
    「カリムさんは好きになった相手がひとりきりだそうです。いまもむかしもずっとお変わりないそうで。やっと付き合えるようになったから幸せなんだ、と仰っていました」
     こちらをみてにたり、と笑うアズールのことばがただの単語の羅列として耳を通り過ぎていく。ひとりきり、かわらない、付き合えるようになった、幸せ。やっと付き合えるようになったから幸せ……付き合えるようになった、今も付き合ってる……? って、俺か!?
     何もことばが浮かんで来なくて、黙ってアズールを見つめ返すことしか出来なかった。沸き上がってくる感情を押し込めるように息を飲み込む。
    「好きなお相手のことは、皆さんよく見てらっしゃるんですよね。些細な変化もよく気づかれる。そこに不安要素があると、まあ大抵は間違った想像に足を引っ張られる訳です。たとえば、嫌いと言われたことがある、とか」
     人差し指を自身の唇に当てながら、アズールがうさんくさい笑みを顔に貼付けた。
    「どうです? お心当たりはありますか?」


    「ごめん、ジャミル。……怒ってる、よなあ」
     自室に戻ってベッドへと倒れ込み、まどろみかけたしゅんかん、いつもより控えめにドアをたたく音がした。カリムだ。ドアを開けて招き入れる。しょんぼりとした様子のカリムはちらちらとこちらの様子をうかがっている。
    「別に、怒ってない」
     カリムは俺のことばに少し安心したようだった。ほっとしたような表情を見せて、いつものように近寄って来たので、肌を寄せてとなりに座らせる。
     ほんとうにカリム相手に怒ってなどいない。ただ呆れているだけだ。カリムは俺が好きでもない相手と付き合うような人間だと思っていたことに。
    「ジャミル、あのさ」
    「お前、小さい頃面倒見てくれてた召使いの人、覚えてるか?」
     彼女の名前を口にすると、おう、と軽快な返答が返ってくる。
    「なんとなくだけど覚えてるぜ。よく遊んでくれたよな」
    「あのとき、お前はあの人のことが好きなんだと思ってた」
    「えええ!? そうなのか? そう、だったかなあ」
     うーんと考えるように瞳を閉じてカリムが唇を尖らせる。思いもしないことを言われた、という感情が垣間見えて笑ってしまいそうになった。真剣に悩む様子が少し面白い。差し出されたようなそれに自身の同じものを重ねると、動揺した変な声が漏れ聞こえてきた。
    「じゃ、ジャミ……んっ」
     わずかに開かれた隙間から舌をねじ込んで、あとは勢いに任せて腔内を貪った。唾液が絡んだ音がして、合間にカリムの甘い嬌声が入り交じった。歯の裏を舌先でなぞり、快楽で震える身体を包み込む。存分に堪能してから唇を離すと、くたくたになったカリムが脱力するように寄り掛かってきた。
    「ジャミル、だめ」
    「なんで」
    「だってジャミルはとーちゃんのこと」
    「好きじゃないぞ」
    「え?」
     言って、語弊があると困るから言い直す。
    「恋愛的な意味ではな。もちろん人としては好きだし尊敬している」
     カリムの父親はただの家柄にあぐらをかいているお飾りの当主ではない。しっかりとした政治的手腕と商人としての器を兼ね備え、一族をさらなる繁栄へと導いている。
     自分と言えば代々仕えているとはいえ、ただの使用人の子どもで、とてもではないが気さくに会話出来るような立場ではない。緊張するのは当たり前のことで、人として尊敬出来る方に認められていると思うと背筋が伸びた。褒められると誇らしい気持ちになれる。うれしい。
     好きか嫌いかと言われれば、好きだ。でもそれはあくまで雇用主として。お人柄は素晴らしいと思うが、恋とかそういった類の感情は持ち合わせていない。そもそも結婚してるし。
    「そう、なのか?」
    「そうだよ。お前の勘違い。……でもまあ、お前が俺のこと、良く見てるのは分かったよ。鈍いけどな」
     ついでに自分がずっとカリムを見ていたことも。
     こちらは死ぬまで口になんてしてやらないが。
     ぽかんとした表情のまま固まったカリムを引き寄せてキスをするといっしゅんたじろいだのが分かった。けれど舌先が絡み始めると求めるようにぎゅっと抱きついてくる。再び絡み合う舌の合間から唾液が零れそうになって、より深く口付けを交わした。そのままシャツのボタンへと手をのばす。だめだと分かってる。明日のご飯だって用意していない。学校だって普通にある。予定だってぎっしりだ。ムードもなにもありはしない。初めてはちゃんと準備して大事にしたい、でも。
     いっしゅん唇が離れて目が合った。カリムはなにも言わない。憂いを帯びた瞳が求めるように見つめてきて、再びふれ合った部分から伝わる熱量に身をゆだねた。
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