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    cql/MDZS/原作、アニメ、ドラマ履修済/天官/さはん/山登り中/20↖️成人済/
    忘羨/曦澄/基本文字書き、たまに絵描いたり、ぬいとお散歩したりします。無言フォロー失礼します/FF自由にどうぞ。とても嬉しい。

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    知己の縁談

    陳情令の藍忘機の中の人にニキビを見つけて書きました
    それだけです!

    思われニキビ(知己の縁談①)町を賑わせる、女達の噂は、いつだって美容や色恋のことばかりだ。
    一人町に降りてきた魏無羨は、買ったばかりの饅頭を口に放り投げ、その話を聞いていた。
    彼女達が声高に嘆く「顔のにきびが治らない話」は多くの男にとってどうでもいい話題だろう。
    しかし彼女達にとってはとても重大なことなのだ。
    それも茶屋の奥から出てきた女将が「顎のニキビは殿方から思われている証だよ」と胡散臭い縁起を語るまでの短い間だったが。
    (思われニキビか、可愛いねえ)
    さっきまでこの世の終わりのように悲壮な表情をしていたのに、もうけらけらと笑っている。
    蝶が花から花へと移ろうように。
    彼女達の話題はいつのまにか、顔の出来物の話から、旬の恋愛話へと移り変わっていた。
    「そうそう、今度、世家の公子が縁談するらしいわね」
    「なんでもとても位の高い方なんでしょう」
    ただ、その会話のなかに聞き捨てならない名前が聞こえたものだから、魏無羨は耳を疑った。
    「なあ姉さんたち・・その話詳しく聞かせてくれないか?」
    ・・含光君がなんだって・・?

    藍忘機が見合いする。その話を魏無羨は聞かされていなかった。この雲深不知処で毎日寝食を共にして・・あんなに側にいるのに。
    確かに藍忘機は言葉少ない男だが、大事なことはいつも魏無羨に伝えてくれていたはずだった。
    (・・それとも藍湛にとっては、大事なことじゃないのか)
    静室に戻ると、魏無羨はそれとなく文机の上からその痕跡を探った。
    しかし、噂を辿るようなものは何もない。
    仕方なく床下の隠し棚を開け、ヤケクソのように酒の龜を引ったくった。
    (それにしたって、話してくれてもよかったじゃないか)
    モヤモヤする。多分それは自分が彼から何も知らされていなかったからだろう。
    生涯の知己だと、そう契ったのに。

    夜も更けた頃、そっと藍忘機は静室の扉を開けた。魏無羨がまだ出掛けているか、遊び疲れて寝ているかと思ったのだろう。
    明かりもつけず、部屋の隅で酒を呷る魏無羨を見つけると、その端正な眉を潜める。
    最近の藍忘機は帰りが遅い。仙督の業務が如何程のものなのか魏無羨には分からないが、いつも涼やかな忘機の目元には僅かに赤みが指していて、疲れ窺えた。
    白い陶磁器のようなその肌もかすかに荒れ、その顎下に赤い点が見える。
    (あ、ニキビ)
    そう思ったが、今はそれを指摘しようと思わなかった。
    その代わり
    「なあ、藍湛」
    「うん」
    「見合いするって言うのは本当か」
    その言葉に僅かにたじろぐ忘機を魏無羨は見逃さなかった。
    「・・本当なのか」
    忘機は魏無羨の前に座ると、何かを考え、やがて観念したように小さくうなずく。
    伏せられた睫毛が、悪いことを咎められた子供のようにも見えた。
    「そんなに畏まるなよ、大方誰かに頼まれたんだろう?」
    「・・・違う、私が望んだ」
    今度は魏無羨が言葉に詰まる番だった。
    急に喉がからからになる。
    魏無羨が期待していた耳障りのいい言葉はなくて、脳が空転した。
    これが、世家の差し金であったのなら、魏無羨は「お前も大変だな」と笑い飛ばすつもりだった。
    「でもさ、お前には向いてないんじゃないか」とか「まだ先でいいだろう」とかいっぱいいっぱい断る理由をつけて
    でもそうでないのなら、魏無羨はなんと声をかければいいのだろう。
    (あの、藍湛が見合いなんて嘘だろう?)
    急に足許が揺らぐような恐怖に襲われる。どろりとした生温い何かが体の中に流れ込むようで気持ちが悪い。
    あんなに近くにいた彼が、急に遠い存在になったように思えて、怖くなった。

    「・・いつから」
    もうやめればいいのに。
    なぜ人は痛いものに触れたくなってしまうのか
    「・・先月だ。だがずっと考えていた」
    「ヘぇ、何かあったのか」
    先月といえば、魏無羨が長旅から帰ってた頃だ。魏無羨のいない間、見知らぬ仙女と恋に堕ちるようなことでもあったのだろうか。

    だが、藍忘機はその質問に答えなかった。
    その代わり小さく声を漏らす。
    「・・・君のせいだ」
    その短い言葉は、大きなうねりとなって魏無羨の心を蝕んだ。

    (・・俺のせい?)
    襲い来る衝動や感傷を、魏無羨はどこか他人事のように聞いていた。
    どうやら魏無羨の脳は、酷く嫌なことがあると、直ぐに記憶の底に終うことに長けているらしい。
    だから魏無羨は藍湛の目を見つめながらも、とてもその意味を深く考えられず、それどころか代わりに酷く場違いなことを思い出していた。

    「大人のニキビは嫌ねぇ、なおりにくいし、同じ個所に繰り返しできやすいの。一度できたら、いつまでもじくじくと痛むのよ」

    藍湛の、美しい顔に傷を付けた吹き出物
    「不敬だな・・」
    よりにもよって、あの含光君の眼前に居座って、自分だけのもののように振る舞っている。
    その赤い汚点が、なぜか自分のようにも思え、泣きたくなった。

    「そっか、頑張れよ。景気づけに天子笑を分けてやる」
    綺麗な顔で笑って、魏無羨は再び、ぐいっと酒を呷った。

    ・・・・
    それからの魏無羨は絶不調だった。
    ぼおっと呆けては、ウサギに噛まれても気づかない。

    考えたこともなかった。
    藍湛に妻子ができたのならば、いつも一緒にいる俺はどうなるんだ?
    よく考えてみれば、この関係が変わるわけではない。知己と妻子はおそらく別項目だ。
    だが、今のままではいられないと分かっていた。
    きっと違う。
    ずっと一緒になどいられない。
    同じ場所にいても。
    同じ時を過ごしても。

    ー・・藍湛が、妻の肩を抱き、子供の手をとる。
    それを、魏無羨は隣で見ている。
    透明な隔たりの外側にいるように、干渉もできず、ただただ覗くことしかできなくなる。

    あの肩は、俺が借りていたものだ
    あの手は、俺に触れていたものだ
    あの眼差しは、俺にだけ向けられるものだ

    それはとても窮屈で、辛抱難く
    想像しただけで魏無羨は息が詰まりそうだった。
    (おれの、だった)
    妻や子に嫉妬しているなんてどうかしている。
    はあ、とため息をついて、魏無羨は池を覗き込んだ。
    自分がどうしたらいいかわからない。

    水面には情けない顔の自分が写る。
    不満そうな泣き出しそうな表情その顎に
    ・・・赤い点をを見つけた

    (にきび・・・)

    その時に不意に思い出したのだ。

    木漏れ日の中、雲深不知所の蔵書閣で見つめた、藍湛の顔に赤いにきびをはじめて見つけた時のこと。
    座学時代、二人で向かい合い家訓を清書しながらも、その小さな発見に魏無羨は心を奪われていた。
    (へえ、あの堅物にも、にきびなんてできるんだな)
    ・・・普段は頭が堅くて暗いし面白味もない
    藍忘機はその綺麗すぎる仏頂面で、背筋を凛と伸ばし筆をすべらせていた。
    それはまるで、高僧の描いた上等な水墨画のように美しいのに
    その顎に残る赤い染みが妙に俗的で、まるで天上人が地上に落ちてきたみたいで
    魏無羨はその顔から目が離せなくなった。

    さわわーと風が鳴って、視線に気づいた藍湛が顔を上げる。
    「・・・なんだ」
    「なんでもない」
    一瞬揶揄ってやろうかと考えたが、すぐに思い直し魏無羨は慌てて顔を伏せた。
    緩む口許を書物で隠す。
    (あの藍湛ににきび・・)
    自分だけが知っている秘密が、なんだかくすぐったくて、妙に嬉しくて
    誰にも教えず、ずっと自分の胸に隠しておきたいと思ったのだ。

    自分を盗み見る魏無羨に居心地悪そうに忘機が身を捩る。その様子がまた魏無羨の笑みを深くする。
    「なんだ」
    「だから、なんでもないって」
    そのささやかで他愛もない時間が、何よりも愛しい。
    (あ、、、俺)
    大事なものが手を掠めた気がして、気づいたら魏無羨は静室へと走っていた。

    ・・・・
    文机の前で静かに書を認める忘機は、魏無羨を見て驚いた顔をした。
    「魏嬰?」
    今までに見たことのないような顔をした魏無羨に動揺する忘機の腕を掴む。
    「嫌だ」
    「魏嬰」
    誰にも渡したくない。
    この男は、自分のものだ。
    生涯「知己」という名の、自分の男だ。 

    「なあ、藍湛、縁談を止めないか」
    「・・なぜ」
    「なぜって・・・」
    口から生まれてきたと言われた。
    生来の脳の回転の早さもあり、つらつらと言葉が浮かんでは、消えていった。
    だが、不思議と肝心な言葉をさけてしまう。
    「俺が嫌だから・・・じゃいけないか」
    「何が言いたい?」
    くんでほしい、でも、この男には無理なんだろう。
    二人の間に奇妙な間がもたらされた。
    手は繋がったまま、その居心地の悪さに喘ぎながらも、その言葉を口にすることを躊躇する自分がいる。

    (お前は?俺をどう思う?)

    知己だと誓ったその口で、違う思いを伝えようとしている。この感情を、全身で求めてやまない衝動を、泣きたくなるくらいの愛おしい気持ちを、
    ぶつけてなお受け入れてもらえるだろうか。
    藍湛にその気がないのであれば、せっかく分かったこの感情は俺の独りよがりで朽ちていく。

    (知己ですらいられない)
    躊躇いは大きな恐怖となり魏無羨の心に影を落とす。だけど
    蟲毒の底へと墜ちて行った時
    雨の中、別々の道を選択した時
    崖の上でその手を離した時
    いつも魏無羨の最後の記憶には藍湛がいた。絶望や悔恨に苛まれている時ですら
    何度離れようとしても何度捨てても何度忘れようとしても
    ずっと心の奥にいる。

    (きっともう手遅れだな)
    一度は朽ちたこの身だ、もう悔いを残したくはない。
    泣かばやけくそのような気持ちで、覚悟を決めた。
    どうせ終わらせるのなら、きっぱりと藍湛に引導を引いてもらいたい。
    (お前になら傷つけられたっていいんだ)

    腕で顔を隠して、口元だけが小さく動く
    「・・・きだ」
    心臓の音がうるさくで聞こえない。
    ありったけの勇気を振り絞って吐き出した精一杯の告白は、自分の耳にすら届かない。
    それなのに、真っ赤な顔で少し見上げた先で、藍湛が驚いた目をしていたから、魏無羨はもう顔をあげることすらできなかった。
    本当に姑蘇藍氏は耳がいい。
    「あの、な、藍湛・・・その、いいんだ。お前が・・いらないなら、すててくれ」
    真剣に自分を見つめるその視線に堪えきれなくなって、そう嘆いたとき
    魏無羨の体はその大きな腕に抱き締められた。

    「・・ら・藍湛?」
    「悔いがある」
    耳元で低く唸る声を以前聞いたことがある。俺を選べなかったことを後悔していると
    だが今、その響きはそれとは別のことを伝えようとしているように感じた。

    「私は、きみがいるから落ち着かない、我慢できない。君を・・傷つけそうで怖い」

    藍忘機の目に映る魏無羨はいつも眩しかった。生涯の知己だと笑い、いつも光の方にいる。
    世家を捨て夷陵老師を名乗っていた時ですら、その瞳には強い眼光があった。
    忘機はいつもそれを、春の訪れを待つ子供のように羨望してみていた。
    魏嬰、私には臼ぐらい感情がある。

    しんしんと埋め尽くす、ただ暗くて深い雪の中を佇んでいる。
    消えてしまわない感情だけが、ずっとずっと頭上から降り積もるばかりだ。

    愛しい、君が欲しい、閉じ込めたい
    君だけを愛している。

    だけどそれは「知己」に抱く感情としてふさわしくない。
    情欲はどんどん大きくなって、やがてこの身は埋もれてしまう
    いづれ無防備な君を、その春光ごと傷つけてしまうだろう。
    そうなる前に
    「私は区切りをつけようとした」
    なのにきみはいつも、飛び越えてしまう。
    はじめて出会った時のように

    急に黙ってしまった藍忘機に、魏無羨は惑った。この胸に広がる期待に身を委ねてしまっていいのだろうか。
    その胸に抱かれ、魏無羨は大きく息をはいた。胸がいっぱいで泣きたくなった。
    「藍湛、お願いだ。ずっと俺のものでいてくれ」
    「共に在る」

    藍忘機が近づいてきて、時間がゆっくりになったように感じた。
    思わず、魏無羨はきゅっと目を瞑る。
    (変わってしまう・・)
    そこには足を踏み外すような怖さと、
    それ以上に興奮があった。
    (俺の全てを、藍湛の手で変えて欲しい)
    藍忘機の指がそっと添えるように顎を持ち上げた。
    今や心臓は破裂しそうなほど胸を打っている。

    唇が触れる刹那
    「いたっ・・」

    ひりつく痛みに思わず、眼を開けてしまうと
    同じように驚いた顔で、固まる藍湛と目が合う。

    「いや・・・その、にきびが痛くて」
    「・・」
    真顔の藍湛が何を考えているか分からなかったが
    流石に雰囲気がなかったかと反省した魏無羨の唇が、噛みつくように奪われたのは、それから数秒のことだった。

    ・・・・

    口吸いの感傷は、する前より後に来る。
    (す・・ごかった)
    その凄まじい余韻に魏無羨は呆けたように空をみた。
    魏無羨の想像等可愛いものだった。
    啄むというよりは、噛みつかれた。
    今までのうっ憤を晴らすかのような藍湛の口付けは獰猛で、激しく、魏無羨はその肩口にしがみつくのが精いっぱいだったのだ。
    べとべとに濡れた唇に魏無羨のにきびはひりひりと痛み出したが、それもこの胸いっぱいに広がる甘酸っぱい気持ちに比べれば、些細なものだ。
    照れくさくなり、魏無羨は何かしゃべらないと落ち着いていられなくなった。
    「なんで俺までニキビができたのだろうな」
    「・・・知っている」
    薄い肌にふくりと膨らんだそれを見ていたから。
    夜中にずっと、痛々しいと思い、そっと触れたこともあった、としみじみと忘機は語る。
    「よくみているな」
    顔が赤くなるのを止められなくて、つい魏無羨は視線を逸らす。
    「それだけじゃない」
    「なんだ?」

    「・・君は寝相が悪すぎる」
    長旅で人肌が恋しくなったのか、それとも雪に囲まれたこの場所が寒いのか
    魏無羨は、夜な夜なしがみついてくるのだ。
    忘機が引きはがしても引きはがしても
    お構いなしにその長い脚は、忘機の下半身に絡みつき
    寝返りを打った頭が、忘機の胸に頬を摺り寄せる。
    「・・・・」
    おかげで毎夜忘機は眠れない時間を、家訓を諳んじ費やすことになる。

    「仙督の雑事で忙しかったわけじゃなかったのか」
    「それは、さほどでもない」
    真剣に述べる含光君のことだ。それは嘘じゃないのだろう。
    「ははは、なんだ、全部俺のせいじゃないか」
    「君のせいだといった!」
    おかしくて、なんだか涙が出てきて
    魏無羨は、ごまかすように忘機の胸に顔をうずめた。
    「なあ、藍湛知っているか?、
    そのニキビはな、俺に思われている証拠らしいぞ」


    おまけ

    思春期ニキビ:10代に終えるニキビ
    思春期における皮脂の過剰分泌によって毛穴が詰まりやすくなること


    強く触ったにきびは包皮が破け血が滲んでいた。
    自分の顎にできた初めてのにきびが気になった忘機は、つい力加減ができずに悪化させてしまっていた
    その様子を藍曦臣が咎める
    「おいで忘機、ああ、できものができてしまっているね
    ちゃんと毎日顔を洗っているかい?」
    洗いました・・と答えようとして、忘機はふと思い出した。
    「・・今日はまだ洗っていません」

    それが原因でしょうか、と尋ねると曦臣は首を振る
    「この吹き出物は一日洗顔を忘れたくらいではできないよ
    だが、毎日の習慣は大事だから、以後はしっかり行いなさい」
    「はい、わかりました」
    忘機は曦臣から小さな塗薬をもらうと、恭しく一礼をし、席を外した。
    何故洗顔を怠ったのか、理由は簡単だった。
    彼と喧嘩していたから。
    顔を洗う暇などなかったし、すっかり忘れていたのだ。
    頭の中は、彼の返した言葉や仕草や悪戯で溢れていて
    考えないようにしていても、いつの間にか忘機の頭の中は彼でいっぱいになってしまう。

    毎日・・・洗顔・・天天ったら天天・・・

    今日は朝から座学にい出なくてはならない。
    彼が大人しく座っているとも思わず、無意識に忘機は顎に指を触れた。
    ちくりとした痛みで思わず我に返る。
    その痛みはとても些細なものなのに、
    胸に大きく広がっていくように感じるのは何故だろう。
    「魏嬰・・」
    呟いたその言葉の響きと共に・・・
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