手が冷たい人は心が温かいらしい「う゛ぅ〜……さっむ…」
つい無意識に出てしまうこの言葉に、自業自得だが余計に寒く感じてしまう。防寒しているにも関わらず、頬を撫ぜる冷たい北風が寒いを通り越してもはや痛く感じる。
今日はメンバー数人と呑みに行き、ダラダラ呑んでは騒いでハシゴする、といったいつもと変わらない呑み会だった。そして今現在、終電もギリギリの時間に解散し、急いで駅のホームに出る。平日の通勤ラッシュや、休日のお出かけ日和の日とは打って変わって閑散としたホームは、真冬と言えども、人気の少なさに心做しか冷たい風が自分にしか当たっていないように感じる。
少しでも暖を取ろうと、自分の手を擦り合わせ、はぁ〜 と手袋の上から白い息をかける。マフラーに手袋、コートといった、真冬の防寒着大集結の装備でもこの異様な寒さは一体いつまで続くのだろうか。できることなら俺も家の布団でぬくぬく冬眠してたいんやけどな…と日々の労働から目を背けながらそんなことを思う。
ふと自分の横を見上げれば、自分の装備とは比にならないほどスッキリしたシルエットで、眠たそうにゆっくりと瞬きをしているショッピくんが立っている。ショッピくんの帰りの電車の方向が途中まで自分と同じであるらしく、2人で電車を待っているわけだ。
しかし、待っているはいいものの全く会話がなく、自分だけが気まずい空気を感じている。電車が来るまであと5、6分。何か話題を出さへんと。
「ショッピくん、その格好で寒くないん?」
「え?あー…ちょっと肌寒いかもしれないっす」
「俺はもう手がかじかんできたんやけど…カイロとか貼ってきたん?」
「いや?貼ってないですけど。ロボロさんが寒がりなだけなんやないすか?」
心配そうな、しかし心の隅でバカにしているような言い方に冷たい目線を送る。
……あかん 会話終わってもうたわ。
普段どうやって喋ってたんやっけ…と無駄に頭を悩ませる自分が情けなく思ってしまう。
すると次に話題を挙げたのはショッピくんだった。
「そういえば、手が冷たい人は心が温かいって言いますよね。」
「あー、確かにそう言うよな。」
小学生の時のおばあちゃん教師がそんなような事を言っていた気がした。なんだか懐かしく思い、太古の記憶を呼び起こしてみる。
(手が冷たいと心が温かくて、確か手が温かいと…)
んー…と考えていると、ショッピくんの方から「ロボロさんは、」と話し掛けられる声が聞こえた。
「ロボロさんは手、温かそうですよね」
「えー?そうかぁ?」
手袋を外して確認してみるが、そもそもあまりの寒さに手がかじかむほど冷たくなっているので冷たいか温かいかなんて分からなかった。
すると、自分の頭上からボソッと
「こども体温なのに…」
という声が聞こえた。
もう反射的に
「誰がチビじゃ!!」
とお決まりのキレ芸をお見舞いする。
「そんなこと一言も言ってへんけど。」
フフフッといたずらっ子のような悪どい笑いが聞こえるのも、いつもの流れ。もう何十回したかも分からないこのノリは、本当によく飽きないなと感心さえしてしまう。何なら今日も2、3回やった気がするし。
煽られた分、少し仕返しをしてやろうと、
「俺より年下のショッピくんの方がこども体温なんやないの?」
とニヤニヤしながらからかってみる。
「いやいや、ロボロさんほどではないですよw」
とご丁寧に悪意のこもった声色で言うので、ついカチンときてしまった。
「…じゃあ、確かめさせろ!」
勢いよくショッピくんの手を掴み取り、手の温かさを確認する。
やっぱりショッピくんの方が温かいやんけ!と大人気なくからかってやるつもりだった。が、ショッピくんの手は、異常な程に温かった。
想像もしていなかった程の温かさで、声を絞り出さないと発せないくらい驚いてしまい、「え…」としか言えなかった。衝動的にショッピくんの顔を見ると、左右対称だが何故か歪んでいるような笑顔をしていた。目を背けたいのにどうしてだろうか、その姿に目が釘付けになってしまう。
弧を描く口から、
「ロボロさん?」
と呼ばれた。
たしか……たしか手が温かい人って心が……