トモダチを終わらせて 別に監督生が女だから好きになった訳では無い。それでも、こいつのこの鈍感さに、オレが男だと意識して欲しかった。
「……? どうしたの、エース」
デュースは部活だし、教室で勉強会をしようと言えばグリムは授業後足早に逃げていくことも計算通りだった。まんまと2人きりにされているのに、警戒心ってものがこいつにはないんだよな、と顔にかかるその髪をユウの耳にかけた。
ほら、また。お前はそうして何も知らない顔をする。オレがお前に触れること、その行動一つ一つに大きな想いを込めているのに、何も受け取ってくれないんだ。
「なあ、監督生。オレお前のこと好きだわ」
平静を装って、ぽつりと本音を零した。
「えっと……私も、その、好きだよ。エースは最高の友達だと思ってる」
「うん。オレはお前を愛してるけどね」
告白にしてはとても味気ないシチュエーションと貧相なセリフだろう。でもきっと、これがオレたちには最高のプロポーズだ。指輪とか薔薇とか用意するのはガラじゃねえし、お前もそれは望んでないだろ……?
「あの、エース」
「お前は? お前にとってオレは友達止まり?」
意地悪に返事を促せば、案の定ユウは困ったように眉を下げた。
「好きって言っていいの……?」
弱々しく零れた本音を聴き逃したりはしなかった。
「私、エースのこと、ずっと好きだったけど、でも……」
「うん」
「エース、恋愛はもういいって感じだったから、伝えたら迷惑かなって思って」
「だから?」
「だから、友達って言葉に隠してたのに……」
「へえ」
案外ポーカーフェイスが得意なんだね、そう言えば恥ずかしそうに視線を逸らされた。隠すことをやめたその表情は、ずっとオレが望んでた、オンナノコの顔をしていた。
「ねえユウ、キスしてもいい?」
「き、聞かないで」
真っ赤な顔を隠すように俯くユウの柔らかな髪を梳く。耳たぶに軽く口付けを落とせば、そこは更に熱を持った。
「唇は?」
「だめっ」
白くて華奢な手で慌てて口元を覆い隠す仕草すら愛おしかった。片手を彼女の手の上に被せて指の隙間を空けるように自分の指をねじ込んでいく。
「ま、待って」
そう動いたユウの唇がオレの指の腹にあたる。柔らかくて、それでも少し乾燥していた。
「お前、リップクリーム塗ってないの?」
「塗ってるよ!」
「ふうん」
赤く染った頬に唇を寄せれば、ユウは擽ったそうに身を捩る。
「や、やめてエース」
「お前がその手を離せばやめるけど」
「エースの手があって離せないんです!」
「へーえ?」
彼女の開いた口に中指を軽く突っ込んで、下の歯を優しくなぞる。
「ひぁっ」
衝動で、オレの手の下に包まれていたはずの彼女の指がするりと抜けて落ちた。
「離せんじゃん」
にやりと目を細めて笑えば、もう彼女は泣きそうな顔をしていた。虐めすぎたかもしれない。オレはようやく重ねられた唇を早々に離して、あとは彼女をただ優しく見つめた。
「エースのいじわる」
「唇を焦らしたのはそっちですぅ」
「もう顔が熱すぎておかしくなりそう」
「まだキスしかしてないけど?」
「充分です! ステップ進むのが速すぎる!」
ぐいぐいと胸を押されて、強制的に距離を取らされた。でもさ、と彼女の手の甲を撫でる。
「こうやって手を繋ぐことも、頭を撫でることも、それこそ健全なお泊まりだって、お前がトモダチって言い張る間に済ませちゃったから」
放課後の誰もいない教室は、遠くから部活中の生徒の声だけが届いて、それが余計に背徳感を与えた。
「だからこれは妥当なステップ」
警戒が解け無防備に開いていた唇を再び重ねる。やっぱりちょっと、乾燥していた。