花の話長義の胸元に花が咲いた。それは自分にしか見えない。最初は双葉がちょっと出ていたのに日々成長していくそれを見ながら、これはなんなのだろうかとぼんやり考える。痛みなどの感覚はない。しかし国広を見ると、胸に根付いたそれが疼き痛みを訴えてくる。息苦しくてとてもじゃないが傍にいられない。一方の国広は花が見えないので長義の体調が悪いんだろうかと心配するもはぐらかされる。
長義は大きな蕾になったそれを見て「このままこれが咲いたらどうなるのだろう」と怖くなる。憔悴する長義を国広が心配し詰め寄るも誤魔化される。長義は国広にこの花を見られそうで、まるでこの花が自分のどうしようもない欲を映し出しているかのようで、よくわからない気持ちになって「近寄るな」と言うも国広は聞かない。純粋に心配している国広はぼんやりとした違和感を覚えた胸元に触れようとする。その瞬間に苦しくなり長義はその場に蹲ってしまう。胸元を見ると、藍白の綺麗な花が咲いていた。長義の様子がおかしいことに気付いた国広はその胸元が不自然に膨らんでいるように感じた。服を脱がすと白い胸元に綺麗な花が咲いているのが見えた。国広に見られてしまったことに長義は羞恥を感じる。「綺麗な花だ」国広が花に口付けると、長義はくすぐったくて身を捩った。花には神経が通っているらしい。国広は何度も何度も花にくちづけを落としていく。長義は触れられるたびに身体が火照っていくのを感じた。顔は赤く蕩け、目元に涙が滲み出ている。国広はそんな長義が愛おしくなりそのままキスをする。
長義は(ああ、俺は、偽物くんのことが好きだったのか)と自覚する。その時、花はゆっくりと散り、長義はとても強い倦怠感を覚えた。花が散り落ちていく。長義は漠然と(花が枯れたら俺は折れるんだ)と思った。力を振り絞り、国広に「好きだ」と言おうとしたものの、徐々に意識が遠のいて言葉は口から出なかった。
ぱきん、といやな音が響いた。
想いを自覚すると枯れる花が咲いた長義の話。