本音しか言えなくなった本歌の話長義が部屋に籠もって数日は経った。国広は体調がすぐれない長義を心配し見舞いに行こうとするも燭台切に止められた。
「今長義くんに会うのはやめてあげてほしいな」
「面会謝絶だと……どれだけ具合が悪いんだ」
「うーん」
燭台切が言うに「長義くんはほら、プライドが高いから」とのことだが国広にはさっぱり分からない。万屋でゼリーやプリンを買い、夜にこっそり見舞いに行くことにした。
「山姥切」
障子の前で小さく声を掛ける。部屋の明かりはついている。中に長義がいる。しかし返事がない。声も出ないほど具合が悪いのかと国広は障子を開けて中へ入った。
「山姥切、大丈夫か」
次の瞬間、がばっと何かがくっついてきた。意味が分からず抱きしめられ国広は目を白黒させて狼狽した。
「国広」
そう呼ばれたのは初めてだった。耳を疑う。長義は顔を真っ赤にして国広を睨みつけている。怒っていることは明白だったが、その口から飛び出してきた言葉に思考が停止する。
「なんで俺がお前に会えなくてさみしくて泣きそうになってるんだ」
「……は」
「お前のことが好きすぎてどうにかなりそうなのになんで会いに来てくれないんだ」
「……やまんば、ぎり」
「お前のことなんて大好きなんだからな」
キョトンとしている国広。対して長義は羞恥で泣きそうな顔をしていた。
その夜どう部屋まで帰ったか国広は覚えていなかった。
「本音しか言えない不具合」
「こんのすけによれば数日で治るはずなのですが」
国広は呆然とした。昨日の長義発言を思い出し国広はぼっと顔を赤らめた。
次の日の夕方頃、不具合が治り長義は部屋から出てきた。国広には決して近付かなかった。その日の夜国広は意を決して長義の元を尋ねた。
「山姥切」
「……こんな時間にノックもなしに入ってくるなんて何を考えているのかな」
「昨日のことは、あんたの本音なのか」
「…」
長義は国広を突き飛ばし部屋から追い出そうとした。しかし国広はそれを許さない。長義の手を取り、もつれ合った末に長義を畳に押し倒してしまった。
「何するのかな」
「山姥切……俺の本歌」
「…」
「昨日の言葉は本当なのかそういうことだと理解していいんだな」
「……それ、は」
顔を赤らめて国広からぷいと顔をそらす。国広はぐっと顔を近づけた。
「……嫌なら突き飛ばしてくれ」
鼻の先が触れるほど顔を近付ける。青い瞳と目が合った。唇が触れる。ふに、と柔らかな感触に国広は体を震わせた。初めての口付けに顔を赤らめる国広が生意気に見えたのでその襤褸布を引っ張った。
「……今の子供みたいな口付けで満足してるのかな」
「本歌……もっとしていいのか」
「……」
「こっち向いてくれ」
「布饅頭のくせに生意気」
お互い初々しく顔を赤らめながら何度もキスする二振りだった。