君と本気で交えたい【続】ちょっぴりゴストリ要素あり注意!保持するナイフ総数は半分近く減っていた。
それも、行く先々彼の姿を捕らえたと思って
投げたナイフは見事木々や草場に突き刺さる、もしくは弾かれるだけで
彼の身体にいまだ傷一つ付けていない。
本気の隠密がこれ程とは正直、僕は焦りと共に、絶対に当ててやると言う
執着心に支配されつつあった。
一度手にした一本のナイフを握りしめ、僕は徐に岩場の陰にしゃがみ込み
彼が一瞬でも姿を現したであろう位置を思い出していた。
『人ってのは案外、動きにサイクルがあるはず。
ナイフを当てるには先読みが大事、か……彼が現れるのは何時も僕の死角を狙って来る
ナイフだけじゃなく……バット掴んでくるかナイフじゃ届く前に弾かれる。
バットならリーチもある……不意突いて狼狽けた所に思いっきりナイフ連投してやる!
持ってなかったバット持ってたら吃驚するだろうなゴスフェ……うくく』
僕は思いついたことに対し、ニマつく唇を隠す様に手で覆うなら、
一度ナイフを仕舞い、静かに呼吸を整えて気配を最小限に抑えた。
慎重に、最初の場所へと向かった。
駄々洩れだったトリックスターの気配が途絶えた。
漸く感情を抑える事が出来たらしい彼に少しは進歩したかと
鼻を鳴らし、ゴーストフェイスはナイフを一度腰に収めてしまうなら、
気配が消えた彼を認識する術は、今は目しかない。
先程まで感じていたその場所へとゆっくり近づくも
やはり息遣いもない。どこへ消えた?
注意深く付近に目を凝らし、踏みしめられたであろう
草のしなりと完治していない彼の肩から滴った血痕等、微かな残証を拾い上げた。
『血の跡が伸びてる……元居た場所へ戻って行った??僕を探すの諦めたのか?』
まさかなとゴーストフェイスは彼の痕跡を辿って行った。
歩むその足は上手に音を隠している。
草を踏みしめる音、掻き分ける音を殺す術は熟知しているようで
ゴーストフェイスは的確にトリックスターへと距離を縮めていた。
徐々に近づくに連れて彼の気配も薄っすらと悟れるようになっていたが
駄々洩れだった気配は先程までとは違い、明確な場所は把握出来ない。
鼓動が少し早い。
ゴーストフェイスは胸にそっと手を当て小さく深呼吸をした。
それが隙となった。
―ヒュンッ
電子音を交えた振り被る音が、ゴーストフェイスの左側面から響き
その正体を捕えると共にナイフを素早く腰から引き抜き、バットを
刃で食い止めるも、彼の左手首からスライドし放たれた凶器はゴーストフェイスの
マスクと共に肩を僅かに滑り裂いた。
『くっ……バット忘れてたわ……てか、わざわざ
バット取りに戻るとか……そんなに僕にナイフ刺したい?トリスタ』
『……ッは、当然でしょ??僕の練習付き合うとか言って到底ナイフ当てられない
程にガチで隠密し出すゴスフェが悪いんでしょ?
まぁ君が素直に"的"になんてなってくれない事位分かってたけど……。
僕を殺す迄言われちゃさ?僕だって本気にならざる負えないのは
トーゼン君は知ってたよね?ほら、このまま押し込むよ??』
『ぐ、ぅ……』
徐々にゴーストフェイスの身体が
地面に抑え込まれて行くなら、
ナイフを持つ手が徐々に震える。
トリックスターはその苦悶に喘ぐ
ゴーストフェイスの表情に
自然と口端が歪んでいく。
両手でさらにバットに重心を掛け
バットとナイフが軋り合う音を一層強めるも、
不意にゴーストフェイスの抵抗が緩まり、全力でバットに伸し掛かっていたトリックスターの
身体は透かされた。
『う、わわ……急に力抜……っ!?』
『甘いな……重心乗せすぎだよ……トリスタ』
勢い任せに全体重をバットに乗せていたトリックスターの身体はゴーストフェイスが力を抜き、
刃先を下へとずらす事で重心が傾き、バットがナイフを滑り見事透かされたことで
前へとバランスを大きく崩したトリックスターの、
目の前でゴーストフェイスの身体が
躍る様に反転し風を切るように向けられたナイフの切っ先はトリックスターの喉元へと目掛け薙いだ。
―あ、やば僕死んだ
そう思ったトリックスターは無意識に強く瞳を閉じた。
―チュッ
強く瞳を閉じた先に待っていたのは唇に柔らかな感触だった。
想像とは違う展開に戸惑い思わず見開いたトリックスターの目の前には
ゴーストフェイスのマスクを僅かに引き上げた顔がそこにあった。
『はい……勝負ありだね』
『は???え??何で今キス……?』
『お?険しい顔が薄れたね、君終始眉間に皺寄ってたよ?』
『へ?』
ちょんちょんっとゴーストフェイスの指先が
トリックスターの眉間を突いたなら、
その口元は微かに嬉しそうな笑みが浮かんでいた。
『少しはイライラ治まったかい?
良かった良かった。
トリスタ。ここ最近連敗続きで、
不機嫌なのは何となく分かってたよ??
スマホで戦績見れるの忘れてただろ。
君そういう時直ぐ自分の殻に引き籠って
人と距離置くから分かりやすいしさ……。
こうして、本気でヤリ合うのも大事かと思ってね?
どう??割と楽しかっただろ??』
ゴーストフェイスの言葉に対し、現状況を漸くトリックスターは理解した。
それと同時に心に掛かっていたモヤモヤしていたものが、スゥっと抜け落ちた爽快感を得たことも確かだった。
『……僕の、為に?』
『キラーってさ、ストレス溜まるのは良く分かるからね……。
ただ、イライラ任せに儀式に出たって何にもメリットないからさ。
君は素直だから気配も動きも心境の変化で大きく変わる。
余裕をもって向かわないと、駄々洩れな君の気配と単調な動きが分かると、サバに揶揄われるのも当然だよ??ちゃんと"先読み"と"駆け引き"を
考えられる精神状況で向かわなきゃね?
一応僕キラーの先輩だし?』
『ゴスフェ……』
トリックスターは和らいだ表情を見せ、目の前のゴーストフェイスを両手でぎゅっと抱きしめた。
珍しく抵抗なく腕の中に納まる彼の両手がトリックスターの背後へと延び
ポンポンっと慰める様に背を撫でるも、不意に肩に痛烈な痛みを感じた。
『いだぁっっ!!!』
『気持ちは嬉しかったけど!!僕の肩本気で刺したことは許してないから!!』
どうやら、ゴーストフェイスの肩にはトリックスターが刺したであろう羽の様なナイフが突き刺さっていた。
『こンの、人が親切心で諭してやったのに肩にナイフ突き刺すとか、マジ殺す』
『やられたらやり返す!!!』
『どこの銀行マンだよ……そっちがその気で来るなら今度こそ、本気で殺してやる』
『隠密させないから!!!』
『わっ!ちょ、こら、離せっ!!!』
『こうして抱きしめてたら隠密出来ないでしょ??』
『……ふーん、そう思う??
ホント甘いなトリスタは』
『ゴスフェも抱き締められるし逃げられないから一石二鳥でしょ?』
ゴーストフェイスの視線が
トリックスターを見つめたなら
言うまでもない……。
ゴーストフェイスの無防備が発動するまで
……3,2,1……
結局はゴーストフェイスの勝利となった。