ふぁーすときっす【ゴスフラ】ふぁーすときっす
何故かフランクに好まれてしまった。
最初は他愛ない会話だったはず、あれは確か
"アンタのナイフってどんなの?"
から始まって、お互いに使用する武器が同じナイフだという事で少しだけ親近感が沸き、何となく会話に一体感が出たのがきっかけだ。
その後から、彼はまるで主人に尻尾を振る愛犬の如く、僕の後を着いて回るようになった。別にその程度なら軽くあしらえば問題ないのだけれど……。
―― とある日の霧の森
僕は何となく、森の中にいた。
その理由は相変わらずついて回るフランクを撒くためだった。
ただ、少し話が合っただけの僕に対し何をそんなに固執する理由があるのか正直分からない。24時間視界の端に彼の姿を見るのが少し煩わしいと言うのもあったけれど、そんな僕の気持ちを知ってか知らずか彼は性懲りも無く僕を森にまで探しに来たのには驚いた。僕は彼の姿を視界の端に捕らえたなら慌てて足を速めるも、彼の若さとあの足の速さに僕はあっと言う間に追いつかれ、地面に転がるように飛びつかれた。
『うわっ!?ちょ、何でこんな所まで追っかけてくるんだいフランク。つけ回すのは得意だけどつけ回されるのはごめんなんだけど?』
『……アンタが何処にもいないから』
『は??』
彼の発せられた言葉と共にふわっと酒の濃い匂いが漂った。
『酒臭っっ!!!君酔ってる??』
『酔ってナイ、酔ってらぃって!!』
『いや、酔ってるだろ??身体熱いし』
僕は何となく彼の首筋に手をやったなら
革製の手袋越しにでも、熱さが伝わってくるほどに
彼の首筋は真っ赤だった。
『ダニー……』
『なにさ??』
『俺……』
そう言ってマスク越しの僕の頬に彼の手が添えられ
あろうことか顔を近付けキスをしようとしたのだろうが互いのマスクに遮られ、その瞬間に自分が何をしようとしたのか悟ったようで、フランクはガバっと身体を起こし僕の上から退いた。
『え、俺なにしようとしてたっ!?』
『……』
あー、うん……そう言う感情持ってるんだ??
僕は今しがた彼が起こした言動行動に対し、僕に対する思いが友愛では無く、恋愛感情を有していることをはっきりと悟れたのは彼が素直な性格だからだろうが……。
おいおいおい、19歳の青年に手を出せるワケ無いだろ!
思わず自分にそぐわない道徳心が顔を見せるも、おろおろと目の前で躊躇う彼が少し、可愛く見えてしまった事に自分でも驚いた。
ただ、それ以上に彼を求める感情は無く彼の頭を
フード越しに撫で、その感情を留める様になだめた。
『君は若いから、友愛と愛情がごっちゃになってるだけだよ、さっきのは酔った勢い、ちょっとした勘違いとして見るから気にしないでよ』
『違うダニー……俺、おれっ!!』
伸ばされたフランクの手を掴むことは無かった。
『はいはい、気にしない気にしない』
そう言って立ち上がり、軽く土を払ったなら
僕は彼に背を向けてその場を後にし部屋へと戻った。
だけど……可笑しい。
『あれ、何で僕こんなに胸がどきどきしてんの??』
部屋に戻った後、不意に彼の表情が過りチクリと痛む胸は徐々に心拍を上げ、まるで走馬灯の様に、彼と過ごした時間が脳内をグルグルしていく。
まてまてまて!そんなはずないだろ?こんないいオッサンが二十歳手前の青年にときめくとかある??ないない。
脳内会議でその感覚を否定する理性の僕を、感情達がチクチクと突いた。
必死の抵抗空しく感情に押し負ける様に僕は、
次の日情けなく知恵熱を出し寝込んでしまった。
『あー……なにやってんだか』
僕は布団の中、痛む頭を抑えながらごろりと寝返りを打ったその時にとんとんっと部屋の扉をノックする音が聞こえた。
『ダニー、アンタ熱出したって……』
『あー……うん、移るといけないから入って来ないで……って言おうとしたのに、全く君はいう事を聞かないね?』
ガチャリと開けられた扉には、薬と水が入ったコップをもったフランクが立っていた。
カギ閉めておけばよかった……。
僕の後悔は開かれた扉に虚しく消えた。
『あ、せめてさ?薬位……おわっ』
慌てたように彼が僕へと近付くも、少し浮いた
床板につんのめり、僕の布団に盛大に水をぶちまけた。
『あー……そこ、床板少し浮いてたんだよ……大丈夫かい?フランク』
『ごめん、ダニー、ちょっと拭くもの拭くもの!!』
慌てる彼は、グラスをサイドテーブルに置いたつもりだろうがそれは地面に落下し、グラスは粉々に砕け床に散らばった。
僕は思わずため息を零し、グラスの破片を片付けようとするフランクの手を掴み言った。
『グラス、そのままにしてて……怪我すると危ないからね。後で片しておくからフランク、有難うもういいよ、僕少し寝たいから一人にしてくれる?』
僕は掛け布団を深く被り寝たふりをした。
トボトボと部屋から去る彼の姿に痛む胸を堪えて
その背を見送った。
どれ程経ったろう。
いつの間にか寝入ってた僕はゆっくりと瞼を開いた。
不意に寝返りを打つなら、間近に寝入るフランクの姿にぎょっとした。
『え??何でまた居るの!?』
驚き声を上げかけたマスク越しの口を押え、
何となく彼を起こさぬよう、ゆっくりと身体を擡げたなら、水にぬれていた筈の掛け布団がいつの間にかふかふかの布団に変わり、
視線を落とした床には散らばってたはずのガラスの破片が奇麗に片づけられていた。
『僕が寝ている間に片づけてくれたんだ……』
小さく呟き、彼の甲斐甲斐しさにふと笑みが零れた。僕は眠る彼の仮面を少しずらすなら、心地良さそうに寝息を立てる彼の素顔を見つめた。
眠る姿は普段以上に幼さを感じ、愛らしくさえ見えた。
僕の脳内に何となく霧の森でマスク越しに口づけようとした彼を思い出したなら、あの時もしもマスク越しじゃなかったらどんな感触だったんだろう。
そう興味が湧くならば、無意識に自身のマスクを捲り、その唇に吸い寄せられそっと口づけた。
柔らかな温もりと少し渇いた唇を潤す様に僕は、舌で彼の唇を撫でれば、びくんと彼の身体が揺れた。
『んっ!?は……え?ダニー今、なにした?』
『キス』
『えっ?え???何でだよ!?』
『あー……うん、僕も分かんない。なんでだろうね?
折角だし起きたならもっかいする?』
『ん、ぇえ!?んぐっ!!』
起きたばかりの頭を必死にフル回転させ
あうあうと躊躇う彼の唇を、再度覆うなら、ゆっくりと腕を引き寄せ腰を抱き深く濃厚な口づけを交わした。唾液を混ぜ合い、舌を絡めるその度に不意に閉じていた瞳を薄っすら開き、彼の羞恥心と歓喜に塗れた、何とも言えない表情に僕の胸が、更にざわついた。
あぁ、どうやら僕は二十歳手前の青年に絆されてしまったようだ。
自分の感情を受け入れ、僕は初めての彼とのキスに酔いしれた。