「衣装合わせしようぜ。時間あるだろ」
寮での夕飯も終わり、あとは各々が私用を済ませて寝るような頃合いだった。ワーカホリックで通っている刑部はだいたいこの時間も授業の課題や生徒会、オケ関連の書類やデータを携えているのが周知の光景なので、こんなにも気安く声をかけてくるのは今のところ一人だけだ。
肩に腕を乗せながら上機嫌に桐ケ谷が覗き込んで来る。それだけで、刑部が予めつけていた他の物事の優先順位の何より上にその声が割り込んでくるのもまたいつものことだった。
「風呂までの間なら構わないが」
「おっ、ちょうどいいじゃん」
当然、断られることなど考えてもいない顔で桐ケ谷は刑部の目の前に手のひらを広げてみせる。マジシャンのような仕草で見せられたのは化粧道具だ。黒いアイライナーと水色やシルバーのフェイスペイント。何年か前にも見た光景だった。
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