移り香ヴィンさんの香水、意外だったなあ。
「聞こえますよ」
「……いや褒めてるんだけど」
もっと薬品というか、煙草っぽい香りかと思ってた。そう言われて小さく笑った。
「そこはさすがに意識したんじゃないですかね」
まあ、僕たちもイメージを伝えて形にしてもらったんですし、調香師さんが頑張ったんでしょうね。
「私、先生の香り好きだぞ?」
「僕もレイン君のトワレ好きですよ。もちろん、レオス君のも」
オリエンタルでいい香りだと思います。
「寺っぽいよな」
「……レイン君、褒めてます?」
「褒めてるぞ?」
あんまりエデンでは感じない香りだけど、嫌いじゃないし。
――面白い会話だと思った。けれど、割り込む必要性も、怒る理由も思いつかず。
「言いたいことを言ってくれますねえ」
化学薬品とか煙草とか、若干無理を言った覚えはあるし、それをプロがどう商品にするのか楽しみでもあった。寺とストレートに言われてさすがに笑ってしまったけれども。
「それでも見事とは思いますよ」
煙草の匂いと合わさるとガラッと印象が変わります、と聞かされてはいた。けれど正直ここまで変わるとは思わなかった。
「……私がそばに居ると印象が変わる、というのもなかなかに面白いですねえ」
ましてやエデンではめずらしい香りだ。いいマーキングになるかもしれない――と一人ごちて、指の煙草の灰を落とす。
「マーキングするほど、執着する相手がいればの話ですが」
――逃がしたくない被験者ならGPS埋め込んだ方がはやいんですよねえ。
とこぼしたのを同期に聞かれ、軽く引かれたのは別の話。