「お久しぶりです」
そう言って用意した花束を供える。なんだか妙に浮いて見えた。最後に見た時よりも景色に馴染んだ、しかしまだ真新しい墓標は、当然のごとく返事をしてはくれない。それでも言葉を発し続ける。届かなくてもいい。だってこれは、ただの愚痴だ。
「…………遠征、行ってきました。おかげであんたの気持ちが分かった気がしますよ」
墓標をそっと撫でる。思っていた何倍も冷たくて、ますます胎の奥の鉛が重く沈む気分だった。
「……何人も、何人も死にました。ほんと、酷い気分っすよ。目の前で隊員たちが命を賭していく中、俺は安全圏から力使って。部隊長って何なんすかね。分かってるんすよ、最も効率的な最善策を常に行使していくべきだ。けど、俺はあいつらの命預かっちまってるんすよ。他人の命なんてこれっぽちも預かりたくはないですけど、それでもそこに責任は発生する。……そうなった以上、あいつらの命は俺のもんです。俺は、俺のもんを勝手に奪われたり踏みにじられるのは我慢ならないんすよ」
傾いた陽はついに山の向こうに姿を隠し、空は暗い赤紫に染まっていた。強く吹き始めた風が、空を漂っていた雲を押し流していく。立ち上がった途端、冷たい風が首元をかすめる。
「前に出るな、なんて口煩くいってすみませんでした。自分の手の届かないとこで好き勝手やられるのは癪っすもんねぇ。俺も、同感です」
目深にかぶった軍帽の下、濃い紫の瞳に太陽の残り香が光を灯した。