君は花ではなく、僕も星ではない 人混みで目が合った。やけに目の大きな男で、知り合いだったかと思ったが、京に俺を知っている奴なんているはずがなかった。
「そち」
人混みを掻き分けて目玉男が声をかけてきた。深緑の直垂を着て、顎髭があるが眉は薄く、どこか表情が嘘くさい。やはり見たことがない顔だった。
「そち、弟はおるか?」
突然の問いに驚くよりも不快さが勝る。その気持ちが正直に顔に出たのか、目玉男は薄い唇に笑みを浮かべた。小馬鹿にされたようで腹が立ち、見下ろすように睨め付ける。だが目玉男は怯む様子はなかった。
「弟がなんだってんだ。いるにはいるが、それがあんたと何の関係があるんだ」
脅すように言ったが、やはり男は怖がる素振りも見せなかった。むしろ嬉しそうに顔を綻ばせる。
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