コマンド 聞こえてきたマルコの言葉に耳を疑った。
「な、なに言って……?」
そう尋ねるのにも心臓は早打ち、汗が垂れる。ビリリと身体中を舐めたその言葉に硬直したまま動けない。
「Stay だよ、ジャン。聞こえたよね?」
ダメ押しの台詞が決定的だった。
たまたま。偶然。なんてありえない。それは命令(コマンド)だ。感じたことのないほどのグレアに眩暈がする。
「そん、な。……マルコ、いつから……こんなの、違う、違う」
「何が違うっていうの?」
今だってその笑顔はオレの知ってるマルコの顔じゃなくて全身に鳥肌がたつ。黒い洞のような口の中から、赤く細い舌が蠢いて口端を舐めていったのをただ見ていた。
「ふふ。ジャンこそ。今更サブが発現したの? ね?」
「……知るか……っ」
正面に立つマルコから目が離せない。この硬直を解いてくれと思いながら、命令に沿って留まるオレを褒めてくれと、ありえない二つを願う。
「kneel」
膝ががくんとおちる。他人の言葉に支配される身体が奥の方で悦びはじめてる。床と向かい合って、ぽたり垂れたのは汗じゃなくて浅ましい涎で、半開きのままはぁはぁと呼吸が上がっているのが分かる。
嘘だ。やめてくれ。だってマルコがこんなことするはずがない。と、侵された脳の片隅で理性が叫んでいるけど、もっともっととせがむ耳鳴りに熱が一斉に集まる。
「look」
天井からの明かりが逆光となってマルコの顔が良く見えない。
「いいこだね」
って、オレたちの関係はそんなんじゃなかったはずだ。
「マルコ……?」
昨日までの日常はどこで壊れちまったんだろう。今日は昨日の延長で、明日も今日の繰り返しの、平和でつまんない日々が続いていくと思っていた。オレはオマエの隣で、くだらない何かで笑っていて、それだけでよかったはずなのに。
目の前にしゃがむマルコが同じ高さの目線で笑いかけた。
「strip」
「え……」
「strip だよ、ジャン。出来るよね? 全部、俺に見せてほしいんだ、ジャンの全て」
嫌だと動かない口の代わりに、するすると指が胸元のボタンを外す。それが何を意味するか理解して怖くなった。
全て。スベテ。統べる。オレを支配するマルコがいる世界。
ベルトの金属が擦れて手間取ったのは、せめてもの抵抗か、この後の期待かオレにはもう分からない。
「『――』」
次の命令(コマンド)は鋭い針のように直接、脳髄を刺した。