出来てない鯉月の鯉が推し語りで淫魔を撃退したり何やかやする話【淫魔と鯉月前編】
出来てない鯉月の鯉登がクラシカルな方の淫魔に襲われるけど撃退する話です(大渋滞)
まず「クラシカルな淫魔」とは夜間に現れ人間を誘惑して性行為に及ぶ伝説上の魔物です。
令和の淫魔のように「淫紋、角、尻尾、ナイスバディ」など個々に特有の外見を持つのではなく、襲う人間の理想の魅力を持つ姿で現れます(重要)(諸説あり)
はい、もうお分かりですね。
鯉登を襲いに来た淫魔は月島の姿で現れます。
淫魔が変身するのは「性的衝動にとても抗えられないようなドストライクの好みの相手の姿」なので、厳密には「意中の相手の縋りつきたいけど」ではないはずなのですが、鯉月はお互いがお互いのドストライクなのでそういうことになるのです。(なるのです)
※ ※ ※
さて、鯉登のもとに現れた淫魔。
若く強く美しい鯉登の精を貪ってやろうと、心の奥底に潜む情慾を読み取りその姿を魔力で具現化したら、ガッチビ髭坊主のおっさん出てきて淫魔困惑。
え?合ってる?
これがあの美しい若者の理想の相手なの?
意外と性癖拗らせ(
まあ淫魔は性欲のプロなのでちょっとやそっと拗らせてるくらいは気にしないです。ガッチビ髭坊主の姿で美しい若者を誘惑しに行きますね。
布団で寝てる鯉登の上にぞわりとのしかかって、目を覚ました鯉登を潤んだ瞳で見上げる淫魔。
「鯉登少尉殿…体が疼いて堪らないのです。どうか、一夜の情けを…」
などと囁いてするすると衣服を脱ぎ捨てます。顕になる肌とそそり勃つ美しい秘密。
淫魔のムッワァァは催淫効果があり、男を惑わせずにはおきません。惚れ抜いた男に寝込みを襲われ、ギラついた獣の目を向ける鯉登。
淫魔はゾクゾクします。
愉悦に浸り唇を奪おうと身を乗り出した、次の刹那!
物凄いボディブローがみぞおちに突き刺さり、淫魔の体が浮いて寝室の端まで吹っ飛ばされます。
ゲエゲエえづいて悶絶する淫魔に鯉登は冷たい声音で言い放ちました。
「おいの月島を侮辱すっな」
ギラつく獣の目は、情慾に燃えていたのではなく激怒のためでした。好きな者を下衆な言葉で汚された怒りです。
ゴールデンカムイは解釈違い許さないマンだらけの作品です。キロランケを筆頭に尾形や月島など解釈違い即コロスの勢いで強火ですが、鯉登ももちろん例外ではない。
解釈違いの月島に迫られたことも腹立たしいし、それで陥落すると見くびられたことも腹立たしい。
「あやかし風情が月島を騙ろうなどとは身の程を知れ」
淫魔は動揺を隠せません。人間の情慾は容易く理性を手放させるほどに強く魂と結びついているものです。
それを魔力で操る淫魔に、健康な性欲を身のうちに秘めた若者が抗うすべは無いはずなのに。
慄きながら見上げると、若者は語り始めました。
「いいか。月島は、己がどんなに辛かろうと、他人の体に慰めを求めたりはせん」
「月島は人のために自分の体を差し出せる男だ。命すら躊躇いなく投げ打つ。強く、そして危うい男だ。私はそんなあいつが愛おしいのだ。こんな気持ちを未だかつて他人に抱いたことはない。あれは私の初恋だ。誰にも汚させん。傷つけさせん。あいつが投げ打つ命は私が掴んで引き戻す覚悟だ」
「そこまであの男を思っている私の前で、貴様のその演技は何だ??全く月島らしさが感じられない!見た目は成る程よく似ているが表情が違うからもう別人だ。だから一目で看破されるのだ。貴様に役者としての矜持はないのか?月島の、屈強な外見とは裏腹の柔らかな内面を演じきるにはその解釈が()
※ ※ ※
鯉登がふと気づくと夜が明けており、障子の隙間から光が差し込んできました。
一晩じゅう強火の月島推し論を聞かされ続けた淫魔は、幸せそうに微笑みながら溶けて消えていきました。
性行為こそ叶いませんでしたが、有り余る愛情に当てられてお腹いっぱいでもう精を渇望する必要がなくなってしまいました。
意図せず退魔に成功したものの事情がよくわかってない鯉登は、ニセ月島が儚く微笑んで消えてしまったのでちょっと動揺します。
今のは偽物だったよな?
絶対偽物だったけど、最期の微笑みはなんか本物の月島に似てた…
とか思ってたら玄関先から威勢のいい声。
「鯉登少尉殿!お迎えに上がりました」
【後編に続く】↓
【淫魔と鯉月の話 後編】
(あらすじ)見る者の理想の性的対象の姿をして現れるタイプの淫魔が月島の姿で鯉登の寝床に現れ誘惑するものの、強火月島推し解釈違い許さないマンの鯉登は一目で看破して解釈の甘さを一晩中お説教して撃退したのであった(イマココ)
※ ※ ※
夜が明けて玄関先に月島の声。
あれは本物の月島の声だ、と思うものの念のため鯉登は軍刀を掴みます。
玄関にはいつも通り外套と軍帽にキチンと身を包んだ月島。
鯉登が乱れた着物に軍刀を携えて走ってきたので目を丸くしましたが、静かな声で
「おはようございます」
あぁこれは本物だ、おいの好っな男じゃと安堵する鯉登ですが、安堵した次の瞬間に月島が妙なことを言い出します。
「鯉登少尉殿。それは…一度抜いたほうが宜しいのでは」
軍刀を鞘から抜けと?なぜ?と思いつつ鯉登が手元に目を落として驚愕。
そこには見たことないほどいきり立って着物の裾を持ち上げている自分自身の美しい秘密が。
朝起ちのレベルじゃありません。
性欲を刺激する淫魔の魔力は鯉登に効かなかったのではありませんでした。鯉登は常人なら正気を失うほどの性衝動に襲われていたにも関わらず、武人の精神力と月島への愛のために陥落しなかったのです。
が、妖魔を退け愛する男を目にして体の中の淫らな残り香に火が点いてしまいました。
いやちょっと待て。
一度抜けってそれは、そういうことか。
月島がそんなこと言うなんて、やっぱりコイツも偽物か?軍刀をきつく握りつつ「こんなもの厠へ行けばおさまる」と鯉登が返答すると月島は
「無理だと思います。私も小便しましたがおさまりませんでした」
軍刀を取り落とした鯉登を一瞥して
「初恋って本当ですか」
※ ※ ※
時は戻って昨夜。実は月島の元にも別の淫魔が訪っていました。何なんでしょう淫魔のカーニバル的な日だったのかもしれません。
ちなみに10/31でした。
月島のもとに現れた淫魔はもちろん鯉登の姿をしています。月島の好みのタイプはもちろん鯉登なので当然です。
淫魔が部屋に入る前から危険な気配を察して身を起こしていた月島。戸を開けたのが鯉登だったので安堵しかけますが、様子がおかしいとすぐ気づきます。
美しい青年将校は上気した頬で月の膝の上に乗り、月島、と悩ましい声で呼びながら月島の手を美しい秘密に触れさせました。
「体が疼いて辛いのだ…お前の中にこの熱を受け止めてくれ…」
※ ※ ※
「でも、あなたは他人の体に慰めを求めるような方ではないので」
玄関に立ったまま淡々と昨夜の出来事を報告する月島。彼が淫魔に対して鯉登と一言一句同じ思いを抱いたらしいことが嬉しくて堪らない鯉登ですが、
「…のでこれは偽物だと思い、あなたを下卑た言葉で侮辱したのが許せず」
うんうん。
「で、頭にきたのでめちゃくちゃに殴ってぶっ殺しました」
なんて???
月島に似た姿をしている淫魔を鯉登は一発殴っただけで少し罪悪感があったのに、同時刻の月島は微塵も罪悪感など無く鯉登の姿をした淫魔に馬乗りになって半刻ばかり殴り続けたようです。さすが解釈違い絶対許さないマンです。
「お、お前それがもし万が一本物の私だったらどうするんだ!」
「本物のあなたがあんなこと言う訳無いですが、万が一本物だったらそれはそれで許せないのでぶっ殺します」
作中最強クラスの解釈違い許さないマンは火力が違います。今後も私は清く正しく生きるぞと決意する朝起ちの鯉登。
で、激おこの屈強に半刻マウント殴りされた可哀想な淫魔は気がつけば鯉登の姿をしておらず獣のような醜い姿を晒して事切れていました。
灰になって瓦解を始めた亡骸を見て冷静さを取り戻した月島に、恐ろしい予感が走ります。
「あやかしはあなたの姿をしていた。あなたが危ないと思ったのです」
※ ※ ※
返り血の付いた服を急いで着換えて夜中の街に飛び出した月島は鯉登の自宅に走りました。
月は淫魔が月島の心を読んで鯉登に化けたと知らないので、淫魔が鯉登から姿を奪ったのではと想像したのです。
果たして到着した鯉登の家から怒鳴り声がする。やはり、と戸を叩きますが返事がない。緊急なので裏庭へ。
寝室と庭を隔てる木戸を蹴り壊して侵入しようと決意したところで漏れ聞こえてきたのが
「あれは私の初恋だ」
「そこまであの男を思っている私の前で、貴様のその演技は何だ?」
「……!…!!(以下延々と朝まで続いた熱い推し語りと演技指導)」
※ ※ ※
「というわけで、先程まで庭におりました…」
盗み聞きして申し訳ありませんと頭を下げる月島ですが違う違うそこじゃない。
「あなたの声をずっと聞いて朝になって、気づいたら私もその、前が。外に出て草むらで用を足してみましたが全く無駄だったので、その」
もし、あなたが嫌でなければ。
軍帽の鍔を引き下げて顔を隠して、顕な耳が赤い。
月島が好きだ。いつかは思いを伝えようと、その時が訪れるのを鯉登はずっと待っていました。
でもどんなに心からの言葉で伝えても月しましたはきっと信じてくれない。上官と部下の関係以上を望んでいることが伝わらない。
月島の病的な自己評価の低さを突破するタイミングを、鯉登はずっと見出だせずにいました。
ところが「第三者への激昂」という思いもよらぬ形でその壁を突破したのです。
本人不在の場で激怒して我を忘れて叫び散らかした内容に嘘偽りがあろうはずがありません。
自己評価低いマンの月島も信じるしかない。
淫魔を消滅させた激火力の推し語りは、推し本人にも届いて心の壁を粉砕していたのです。
「誰にも汚させん。傷つけさせん。あいつが投げ打つ命は私が掴んで引き戻す…本心なんですか」
記憶力抜群の有能補佐の言葉責めに鯉登は撃沈です。
「せからしか…こんな形で知られたくなかった」
朝起ちしたままの姿で真剣に凹んでいる鯉登に月島は堪えきれず笑います。
「全くです。こんなの信じるしかないじゃないですか。俺はどうすればいいんですか」
無言で半刻殴って淫魔を殺した屈強があどけない笑顔で笑うので、鯉登はたまらず裸足で三和土に降りて月島を抱きしめました。
外套の下に、確かに兆している月の美しい秘密を感じます。
「どうすればも何もない」
お前は思う通り私に伝えろ。
私はお前の言葉なら信じる。
抱きしめあって朝っぱらから兜○わせ状態という無様な姿での、どこまでも真っ直ぐな言葉。
しかしそれは昨夜の美しい偽物の鯉登の姿より強く月島の中を貫いたのでした。
【後編の後編(ちょっとだけ性描写)に続く】↓
【淫魔と鯉月 後編の後編】
出来てない鯉月の鯉が相手の理想の性的対象の姿になって現れるクラシカルなタイプの淫魔を強火の推し語りで撃退した話(大混雑)
の続きの続きの18禁
※ ※ ※
「私があなたの初恋って本当ですか」
「こんなの信じるしかないじゃないですか、俺はどうしたらいいんですか?」
「お前は思う通り私に伝えろ」
「私はお前の言葉なら信じる」
早朝の光に照らされる玄関先で交わした会話(二人共おっ勃てている)の後の話です。
奥の寝室に通された月島は派手に破れて血痕の付いた襖にビックリします。
「ああ、淫魔を殴り飛ばしたときにな。お前を下卑た演技で汚されて頭に血が上った」
「私の偽物はどんな様子でしたか」
「……服を脱いで下半身を顕にしながら、膝に乗ってきた。『体が辛いので情けを』と私に乞うた」
「はい」
「お前が、自分が辛いからと…他人の体に慰めを求めるはずがない」
「はい」
「それどころかお前は、人のために自分を投げ打つ男だ。私はお前の…」
「あぁ、その辺りからは聞いておりました」
「まて、ちょっと待て月島」
淡々と相槌を打ちながら月島は鯉登の褌をずらしてゆるゆると美しい秘密に触れていました。鯉登は必死に目を逸らして刺激の強さに耐えながら話していたのですが、とうとう月島が身を屈めて秘密の先端に舌を伸ばしたので流石に叫びました。月島の肩を掴んで押し返します。
月島は素直に身を引きました。
「やはり私ではお嫌でしょうね」
一晩強火の推し語りで煮られてもなお、首をもたげる月島の屈強なる自己卑下です。危うい空気を感じ取って鯉登は己の羞恥を捨てる覚悟を決めました。
「そうじゃない!その、私は童貞なのだ!」
クソデカボイスの告白に月島は目を丸くします。知ってますけど…と困惑していると
「だからその…どういう行為が一般的に愛し合って行うものか知らんのだ。お前のそれはそういうものか?」
「え…?」
「愛し合う者同士の行為から逸脱した過剰な奉仕を、私のためにしようとしているのではないかと聞いている」
月島は、鯉登が聯隊旗手を意識して童貞を守っていたことを知っていました。童貞の若者が淫魔の術による異常な性衝動に晒されているのなら、それは耐え難い苦しみのはず。どんなことをしてでもその苦しみを速やかに取り除きたい。
自らも同じ苦しみに身を焼かれながらも月島は鯉登を楽にすることだけを考えていました。自分のことなどどうでもいいからと。
それをズバリと鯉登に読まれたのです。
「もしお前のそれが一方的な奉仕なら、私には必要ない。もうバレてしまったのであけすけに言うが、私はお前が好きだ。お前と愛し合って枕を交わす関係に、なりたい…」
どこまでも真っ直ぐなことを言っていますが、ずっと月島に美しい秘密を握られているので目は固く瞑っているし声も震えている鯉登です。
月島は、その肩から不意にすべての荷が降りた気がしました。と同時に堪えきれない愛しさと衝動が腹の底から込み上げて来ました。
「私も大して経験豊富ではないです」
月島が朗らかな声で話し始めたので鯉登は驚いて目を開けました。月島は穏やかに微笑んでいます。
「…それに、本当にお慕いしている方と寝るのはこれが初めてです。なので一般的な、好いた者同士の閨事がどのようなものかは私にも分かりかねます。ただ少なくとも今のこれは」
月島は身を屈めて、坊主頭を鯉登の褐色の腹に擦り付けました。
「これは私が、こうしたいからするのです。あなたへの献身ではない。私自身の情欲です。あぁそうだご報告が遅れましたが…」
「あ!」
鯉登は悲鳴を上げて月島の頭を掴みました。硬い髪を刈り揃えた坊主頭が上下に動いて下腹を擦るざりざりとした痛み。伝わる体温、汗ばんだ感触、耳の裏の赤さがよく見える。
「あなたが好きです。お慕い、ふっ、ひておりまふ、鯉登ひょういどの」
「あぁぁ!馬鹿!そこで告白するやつがあるか…ッッ!!」
※ ※ ※
「今思えばあれは」
と鯉登が語り始めました。裸の月島の腹をゆるゆると撫でています。濡れて粘つく感触に月島がぞわりと背中を震わせると、鯉登はすまんと言って手を引きました。
「あれは、とは何のことですか」
月島が問うと
「昨夜の淫魔が我々の姿を借りて出てきたことだ」
月島は眉間に皺を寄せました。思い出したくもない汚らわしい光景です。ずっと秘めた思いを寄せていた鯉登少尉(偽物)が身勝手な欲望に身を任せて自分を貪ろうと跨ってきた。解釈違いもいいとこです。
「それがなにか」
「あれはおそらく、我々の心や記憶を読んで、我々が交わりたいと思う相手の形を取って出てきたのだろうと思う」
大正解。ですが知る由もない月島は怪訝そうに「何故そう思うんです」と質します。
「お前の姿をしたあやかしは私の前で裸になったが、腹の傷が革帯の位置で途切れていた」
鯉登は手を伸ばし、いいか?と尋ねて月島が頷くのを見てから腹の傷に指で触れました。へその左横から右鼠径部まで達する大きな傷跡です。
「樺太で見た傷跡が印象に残っていたのだろうな。私の記憶ではお前の傷は革帯の下で止まっていた。だが実際のお前の体を見ると」
指がするすると傷跡をなぞって降りていきます。月島は息を詰めました。際どいところを鯉登の指の関節がそよと掠めて、鼠径部を通り越します。
「実はこの傷は、内股にまで達している」
裸になっても普通に立っていると見えない位置まで傷は届いています。砲弾で受けた傷が搬送中の振動で裂け広がったもので、本人以外には医者しか知りません。本人すら、鏡でもよく見えないので忘れてることがあるくらいです。
それを話すと鯉登は愉快そうに「知っている人間がもう一人増えたな」と笑いました。
「つまり現実の我々の姿をあやかしは写し取ったのではない。私の前に現れたあれは『私の記憶する月島』の姿で現れたのだ。腹の傷は小さく、肌の細かい傷も少なかった。イチモツもここまで大きくなかった」
「成る程。確かに私のもとに現れた偽物も、よく似ていましたが実物より立派なチ」
「月島ァ?」
「なんでもありません」
(ひとしきりイチャイチャ喧嘩しておりますしばらくお待ち下さい)
※ ※ ※
「なので、あやかしは現実の姿を写し取ったのではなく、我々の心や記憶によって作り出された幻を纏って現れたのだと考えるのが、妥当だと思う」
若さを武器にどうにか月島を組み敷いた鯉登は肩で息をしながらそう続けました。
若く瑞々しい鯉登の胸を眺めながら「そうですか」と答える月島は「あぁ綺麗だな」「あやかしなど比べ物にならないな」などと思ってます。鯉登は知る由もなく続けます。
「異類婚姻譚に似ているな。狐女房の類は主人公の理想的な美女の姿で現れるという。つまり昨夜のあやかしにとってお前は私の理想的な美女…おい笑うな」
「すみません」
組み敷かれているので動けない月島は精一杯顔を背けて耐えていましたが、こらえきれずに吹き出しました。
「だって美しいあなたならともかく、こんな傷物の年増の男を捕まえて」
「そ、そんなふうに言な。そんなお前を好いている私がおかしいことになるだろうが…」
実際かなりおかしいです。
傷だらけで愛想も愛嬌もない。厳つさしかない、髭で坊主で年増の不細工な小男。月島は自分を極めて客観的に捉えているつもりです。
そんな男の体に、鯉登はまるで宝物のように恐れ慄きながら触れました。生娘を抱くように慈しみながら、やがて我を忘れて名前を呼び半刻程も激しく揺さぶり続けたのです。
体の外にも内にもその証の残滓を感じていますが、それでもなお月島は信じられない思いでいます。
こんな眩しい人が俺のことを好いてくれているだなんて、あり得るのだろうか。
一晩中強火の推し語りでじりじり炙られ、先程まで生身の体を灼熱で幾度も貫かれてなお、まだ顔を出す屈強な自己卑下の悪癖です。しかし、
「お前は今夜の異形を忘れたいと思っているだろうが、私のもとに訪った偽物のことだけは覚えていてほしいのだ。よすがとして」
暗い思考は鯉登が奇妙なことを言い出したので中断しました。よすがとは?
月島、と絞り出した鯉登の声は掠れていました。
「今すぐ、私の想いを信じてくれなくていい。この先ずっと共に生きていく中で、何度でも言葉と行動で伝えて行く。その積み重ねの先にいつか信じられる日が来る。来なければ、生涯伝え続けるだけだ」
「……はい」
「それでもなにひとつ私の言葉も行動も信じられない日には、今日のことを思い出してほしい。人ならざる者が証したのだぞ、私が」
「すみません」
月島は遮りました。
「嘘」に翻弄されてきた人生でした。言葉で伝えられるものに対して月島は縋りついて信じたい気持ちと殴りつけて拒絶したい気持ちの両方を持っていて未だに折り合いを付けかねています。
心が形を取って目に見えたら信じられるのに。
何度もそんなことを思いました。
昨夜、鯉登の元に「好いた者の姿で現れるあやかし」が月島の姿で訪ったという事実は、まさに否めようもなく鯉登の想いを目に見える形にして明らかにしたのです。
一筋の滴が月島の頬を流れました。
鯉登は突然の涙に動揺して「どうした?どこか痛むか」などと組み敷いた月島の肩をさすったり手をさすったりあわあわしました。その手の甲に、月島は低い鼻を擦り付けました。
「大丈夫、もう信じています」
「月島、」
「あなたの想いを信じます。よすがも言葉も充分受け取りました。今はもう少し…」
拳骨が淫魔を殴ったせいで傷だらけの手を伸ばし、月島は鯉登の頭を自分の胸に抱き寄せました。
「俺のわがままですが、もう少しだけ『行動』をください。明日の、よすがに」
終
2022.11.11シエ脳筋