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    Khr5fIre

    @Khr5fIre

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    Khr5fIre

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    NY軸。カプはあるんだかないんだか。

    調子の悪い探偵さんの話。 権力者というのは、どこの国でも似たようなものらしい。
     米国のお偉方の警護任務を終えた感想はそれだった。絢爛に着飾り社交の場に出ては、やれ業績だなんだと自慢話を垂れ流す中年たち。はっきり言って無意味な場で、こんなものなら護衛対象には引きこもってもらったほうが手っ取り早いと思うほど。
     ほんの数時間のうちに、かつて父の関係で放り込まれたパーティーでの記憶が何度蘇ったかも分からない。そのたびに舌打ちしたくなるのを堪えたので、自分にしては上等だと褒めてやりたいくらいだった。
     防寒性の低い正装のせいで一日じゅう寒かったことも、苛立ちに拍車をかけていた。
     
     だが、それも今や終わったこと。
    「おかえりシャーリー。おつかれさま」
    「ん、帰ったぜ」
     既に外していたタイはその辺に放り、ボタンは上から二つを外す。セットした髪を適当に崩せば、ようやく人心地つけた気がした。
     堅苦しい格好は、いやに肩が凝る。
    「豪快だね、シャーリー」
    「こういうの苦手なんだよ……」
     リアムに軽口を返しながら、ソファに転がる。
     飲まされたワインの影響か、はたまた気疲れか。気道が半端に塞がるような、不快なもやつきが胸に詰まっていた。アルコールに弱い体質ではなかったはずだが、うっすらと頭痛もする。
     これだから、酒は嫌いだ。
     目蓋の重みに逆らわずに視界を塞ぐと、リアムが近づいてくる気配がする。
    「それ、借り物でしょう? シワになるよ」
    「んー」
     喉の奥で呻く。服についた知らない女の移り香も、べたつく整髪料も、寝心地のよくない正装も、なにもかも明日でいい。
    「……シャーリー?」
     見ていなくても、リアムがすぐそばで立ち止まったことは分かる。語尾の疑問符の意図を拾うことすら億劫だった。
     明日やるから、と不明瞭に告げると、ソファの端が少しだけ軋んだ。肘掛けにリアムが寄りかかったらしい、とぼんやり思った。
     ふと、ひんやりとしたものが目元を覆う。それがリアムのてのひらだと気づくまで、数秒の時間を要した。
    「……?」
     触れられた場所から、じんわりと熱が奪われていく。発散し損ねた酒精が、ようやく逃げ場を見つけたような気がした。
    「シャーリー、熱があるよ」
     柔らかな指摘。
     ただのアルコールの作用だろうと思うのに、渇いた喉に言葉が引っ掛かる。
     反論しようと目を開けても、リアムのてのひらが見えるだけだった。
     もう片方の手が、不意に首に触れる。反射的に首を竦めると、リアムの手もぴくりと揺れた。
    「ごめん、驚かせてしまったね。……脈も早いし、汗もかいている。お酒のせいではなさそうだね」
    「……マジか」
    「うん。大真面目」
     触れていた肌が離れ、目に光が飛び込んでくる。思わず、きゅっと目を閉じた。その拍子にずきりと頭痛が走って、更に眉間に皺を寄せる。
    「その様子だと、自覚症状はなかったのかな」
    「あー……、酒のせいだと思ってた」
    「君でも間違えることがあるんだね」
     薄く微笑みを乗せた声が、優しく響く。
     病は気の持ちよう、というのはどうやら実際にあるらしい。
     そうか、俺は熱があるのか。
     リアムの声に諭されたように、体が腹の奥からじんわりと重くなっていく。氷柱が端から溶けていくように、神経が鈍っていく自覚があった。
    「シャーリー、せめてベッドに行こう? ここだと体を冷やしてしまう」
    「ん……後でいいだろ」
     理があるのはリアムのほうだと分かっていても、なにもかもが面倒くさい。とにかく今は、寝てしまいたかった。
     寝落ちのことをとやかく言えねえな、とぼんやり自嘲する。
    「もう、仕方ないな」
     リアムの気配が遠ざかり、そして再び戻ってくる。どうやらブランケットをかけてくれたらしい。
     その後もなにやらリアムは動いていた。細かいことは気配を探るのが面倒になってやめたが、暖炉だったり、キッチンだったり、おおよそ俺のために何かをしてくれていることは分かる。

     夢とも現ともつかない微睡みに、輪郭を融かしながら沈むような熱っぽさ。こんなに体調悪かったのか俺、と思ったことすらどこかに流れていく。
     暖かく、そして柔らかいブランケット。
     いつの間にかこの身に馴染んだ部屋。
     静かに動くリアムの気配。
     そのどれもが、ゆっくりと頭脳を鎮めていく。
    「……おやすみなさい、シャーリー」
     最後に耳に届いた言葉は、ひどく心地いい音をしていた。
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