I "Frustrated" You.(🎙×🚽×🎙)あのジジイに向ける感情がバラバラで難しいのだ、と充電中にぼんやり思う。
大抵は全部『苛つく』で片付けている筈なのだが、度合い、いや、波?が違う気がする。
例えば実験でうっかり死にかければそれこそとんでもなく『苛つく』し、
珍しく料理を褒められたらそれはそれで変な風に『苛つく』し、
ふと薔薇が香れば仄かに『苛つく』のだ。
クライゴア限定で。
あのクソジジイ限定で、だ。
今だってそうだ、薔薇の柔軟剤を微かに纏った白衣をハンガーにかけて。
暖かな日差しと南風にふわっとあおられた、眩しい白がなんだか『苛つく』。
彼が白衣に袖を通す姿はありありと浮かぶ。
白衣を着た後ろ姿をぼおっと見ていたこともあった。
箒を履く手が止まっていると声をかけられて、怒られちゃいないのに『苛つく』。
『苛つく』度に、コアの奥がきゅうっとむず痒くなる。
硬くて柔らかいテノールの声が甘ったるくほぐれても、
逆にジブンの聴覚センサの近くで優しく低く囁かれても、
すがっても、すがられても、吐息も排熱も、『苛つく』で片付けていいのか。
初めて、疑問に思った。
「……そうか、そうか」
クライゴアに打ち明けたら、僅かに微笑んで頷いた。
馬鹿にされてる訳じゃあないのに、その微笑が『 』。
……?
「マイク、今の感情をどう喩えたい。
ああそうだ、苛つくは禁止だぞ」
「エ、アー……」
難問だった。
さてどう答えよう、きっとコイツの望む答えだろう。
うっかり言ったらなんだか負けた気がして嫌だ。
そもそもジブンだって変だ。
散々独立したいと宣っているのに結局この研究所に落ち着いている。
別段家事炊事が嫌って訳ではないし、それに、それに。
ああそうだ、こう答えよう。
「……ソノ。
クライゴアがイナイと落ち着カナイ、とイウカ、エエ、そうデアリマス!
苛つく禁止トカ言いマシタケドネ、苛つく『対象』ガ居ナイと───」
ちゅ。
頬に、やわい感触。
「……頑固だな、マイク。
誰に似たのやら、ふふ」
「~~~~~ッ、ソウイウトコデアリマス、クソジジイ」
ああもう、『苛つく』。
アンタはどうして、そういう事ばかり。
せいぜいもう500年は長生きしやがれ、『苛つく』クソジジイめ。
………
……
…
(ロボットにも思春期があるもんなのかのう、興味深いな)
〆