ときめいたら負け無し付き合うまで知らなかった事が多すぎたんだ、きっと。
在学中はただ見ているだけでいっぱいいっぱいだったし。
カッコイイ大人で合理主義者の担任に冗談めかして何度か告ったもののあっさり流されたのだ。
それも何度も、だ。卒業式の後。これで最後だからと本気だとぶつけた告白。
「いいよ。今まで教師として接していようと我慢していた。俺もお前が好きだよ」
珍しく頬を赤らめた先生に苦しいくらい抱き締められて初めてキスされた。
それから数ヶ月経ち、お互い忙しい身だしいっその事同棲するか、となって。
思っていた以上に決断が早い。そんで手も早かった。
優しいくせに強引でかっこよくて。だけど意外と可愛い所もあって。
一回り上も年上だしデカくて顔が怖い相手を可愛いって思ったのも初めてだった。
そうやって一つずつ彼の事を知って行く度にどんどん好きになっていったし我儘言って甘えてもいいんだって解った。私、人に甘えるの得意じゃねーし。
可愛くない態度や言動もあの人は笑いながら可愛いよ、って言うから毎回赤面しちまう。
「勝己」
回想から引き戻してくれたのは低くも優しい先生の声だった。いけねぇ、デート中だったんだ。
「何?」
照れ隠しにジュースのストローを噛む私を見つめてくる優しい眼差し。
「いや俺、もう一個頼もうかなって思うんだが勝己も何かいるか?」
「えっ?もう食ったんか?早すぎ!」
彼―消太さんは物を食うのが意外と早い。そして結構大食いだと知った。
現にちょっとデカめのバーガーをもう食い終わって包み紙を丸めているし。
「じゃあ追加でアップルバイ食いてぇ」
「解った。注文してくるから待ってろ。口元に塩ついてる」
立ち上がるついでに人の口元をなぞるな。そんで舐めるな。
むうっと膨らました頬を長い指で撫でて「可愛い」って。恥ずかしい!
周りの視線を無視するように残ってたバーガーにかぶりつく。
ンだよ、ちっちゃくて可愛い、ってうるせぇ!私を可愛いって言うのは消太さんだけで充分なんだよ!
「お待たせって、何拗ねてるんだ?俺がいなくて淋しかったの?」
「別に拗ねてねぇ・・・・・・。それよりアンタまだ食うんか?」
戻ってきた彼のトレイにはバーガーとポテトのLサイズと私のアップルパイが載っている。
「勝己が半分食ってくれるだろ?」
って言ってる側から包みを剥いて大口でかぶりついているし。
昔はゼリー飲料ばっかりで固形物食ってンのか?って思ってたんだけどな。
「じっと見つめてるが食いたいのか?」
「・・・・・・いらねぇ」
ふっと目を逸らし少し冷めたポテトを口に入れジュースを飲んで誤魔化した。
「結構美味いぞ」
「うん。じゃあ一口だけ貰うわ」
あーんと口を開けかぶりついた時に飛んだソースを長い指が拭っていく。
何気なしに指先の行方を目で追えば当然のように消太さんは舐めとっているし。
こんな風に恋人らしい事するのもこの人が初めての私。
「勝己、ゆっくり食っていいよ」
「・・・・・・き」
「ん?」
蕩けそうなくらい優しい声で私だけに見せる笑顔とか。
「好きだって言ってンの!これ以上ドキドキさせんな!」
「ありがとう。俺も好きだよ」
でも、そう言うのは二人きりの時にね?って私の唇を素早く塞ぎ笑う消太さん。
そうだった。公衆の面前で何てハズイ事したんだろ・・・・・・。
熱く火照った頬に触れてきたデカイ手がひんやりとして気持ちよくて思わず擦り付けてしまう。
「可愛すぎて心臓もたないな、こりゃ。残りはテイクアウトにして家に帰るか」
素早く残りのアップルパイとポテトを袋に詰める彼を手伝いながらこの後どうなるんだろう?と考えてまた顔が熱くなる。
「うん」
帰り道も腕を組んで他愛無い話をしながらもエロい事考えている自分がいて。
「・・・・・・消太さんがメシ食ってるの見てたらドキドキして変な気分になっちまった。だから責任取ってくれ」
「解った。その代わり覚悟しとけよ」
本当にときめいたら負け無しとはよく言ったもんだよな。