旅立ち君の名前はまだ誰にも知られていない。
人間の世界では特にそうだ。
16年間、君は森の奥深くに存在する、
天族の集落、イーリスで育った。
君は長く伸ばした赤毛を、ポニーテールに束ね、緑色の衣装に身を包み、腰には剣を、背には弓矢を携えている。自然と共存するために身につけた君の武勇の証だ。君は森の木々を駆け抜ける風に耳を傾ける。その音はだんだんと鮮明になっていく。
この世界には人間と天族がいる。
グウェンドリンという天族が、当時、赤子だった君を森で拾った。天族は普通、人間には見えない存在だ。だが君は違った。グウェンドリンは言う。君は特別なのだと。
そして君には確かに見える。
風を操る天族の姿も、その声も。
「おい、いつまで木の枝に引っかかってるつもりだよ、馬鹿」
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