サマータイムブルース ケーブルカーを降りて坂をもう少し上がり、角を曲がるとモスグリーンの小さなアパートメントが見えてくる。そこの三階が現在の住処だ。期間限定とはいえルームシェアに申し込んだ甲斐はある、見渡しの良い心地良い部屋だった。
以前住んでいた町も坂が多い土地だったが、この町には負ける。海から一気に駆け上がる坂の急勾配、潮の香り、降り注ぐ日差し。木目のボディーが可愛らしいケーブルカーはそこそこのスピードでメインストリートを走りあがる。どこにいくにも坂、坂、坂。そして陽気な笑い声。上に上がる七色の旗も示す通り、懐の深い町だと思う。同じカルフォルニアでもLAの飢えを含んだ渇きとは違う。頭が良くて野心がない街、と評したのは一体だれだったか。
7574