脱皮の話 穴ぐらと形容するに相応しい室内は外からの光を拒むように遮光の布で窓が覆われ、室内の灯りも消されている。
中央に置かれた布団の上には猫が丸まるようにとぐろを緩く巻いて寝息を立てる一振りの刀。きゅ、と寄せられた眉根を見て、灯りを点け、傍に腰を下ろした。
「……悪夢でなければいいんだが」
柔らかな髪を撫でてやると、平常よりも体温が低いことに気がつく。ろくに動かず、飯も日に一度しか食べないのであれば当然なのだが。
着物の裾から伸びる黒い鱗が並ぶ見事な龍の身は、数日前に比べると微かに色が薄くなってきたように思える。
──この身体が成長することなど無いというのにどうして「脱皮」などというものがあるのだろうか。
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