グリムミリタマ〜後日談〜 食糧難は過ぎ去り、季節は巡った。狼の集落には時折北風が吹き抜けるようになったが、元々寒さに強い集落の住人は以前通りの平穏な生活を続けている。
──若い狼一人を除いては。
「環!」
集落の入口──というものの、ただの森へ続く獣道を囲う木々の切れ目──から、ここでは花弁の色でしか見ないような鮮やかな赤を纏った人間が飛び込んでくる。
自宅の脇で薪割りに精を出して斧を振り上げていた環は、自分を呼ぶ声に驚き、斧の重さに振り回されてそのまま後ろに倒れた。
「いっ……!」
「おっと!」
背中を強打する覚悟で体を強ばらせる。しかし、体がほぼ地面と水平まで傾きかけたところで、地面とは違う柔らかくもがっしりとしたものに受け止められた。
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