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    なんとかんと

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    なんとかんと

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    この無配はタイトル通り、『グリムミリタマ』からお話が続いています。

    本編を読んだ方閲覧推奨です。

    2022.5.3
    SUPER COMIC CITY29
    出番のようだ! ULTRA 2022

    #ミリ環
    millimeterRing

    グリムミリタマ〜後日談〜 食糧難は過ぎ去り、季節は巡った。狼の集落には時折北風が吹き抜けるようになったが、元々寒さに強い集落の住人は以前通りの平穏な生活を続けている。
     ──若い狼一人を除いては。
    「環!」
     集落の入口──というものの、ただの森へ続く獣道を囲う木々の切れ目──から、ここでは花弁の色でしか見ないような鮮やかな赤を纏った人間が飛び込んでくる。
     自宅の脇で薪割りに精を出して斧を振り上げていた環は、自分を呼ぶ声に驚き、斧の重さに振り回されてそのまま後ろに倒れた。
    「いっ……!」
    「おっと!」
     背中を強打する覚悟で体を強ばらせる。しかし、体がほぼ地面と水平まで傾きかけたところで、地面とは違う柔らかくもがっしりとしたものに受け止められた。
    「大丈夫かな⁉︎」
    「おふ……」
     光の速さで飛んできた赤ずきんの男の屈強さに環は喉の奥から驚き混じりの呻き声を絞り出す。
    「あ、ありがとう、ミリオ……」
    「どういたしまして!」
     いつの間にか両手で掴んでいたはずの斧は彼──ミリオに取り上げられていた。
     環を腕の中から解放したミリオは、やりかけで放置されていた薪へ斧を振り下ろし、パッカーンと子気味のいい音をさせて見事真っ二つに割ると、そのままの勢いで台にしていた切り株に斧を突き刺し、環の方へ振り返った。
     環はすかさずそんな彼からサッと掌を目線の高さまで上げ、さらに顔を明後日の方向へ逸らす。
    「また服が……」
    「あ! ごめん、急ぎすぎてついうっかり“個性”使っちゃった」
     赤ずきんの男と形容はしたが、今は例の赤ずきんは彼が被っているどころかズボンら共々、彼がここまで来る道のりに散らばっていた。
     つまりミリオは今全裸で仁王立ちしている。二人の様子を見に来た村の狼たちがギャッと悲鳴を上げ、そして何も見なかったことにして立ち去っていく。
     いそいそと衣服を拾い上げ、服を着るミリオの背中を見ながら、環はなんとも言えない気持ちになっていた。
     ミリオが“個性”を使ってまで環を助けてくれたのは、彼が環を好きだから、だそうだ。
     先日の告白は突拍子が無さすぎた。彼の言葉の意味を理解してはいるが、あまりに急で特殊な状況下での告白だったため、心で理解出来ていない。
     そのため、人間と狼との確執が無くなって交流が増えた今でも、ミリオが訪ねてきて幸せそうな笑顔を向けられる度に戸惑ってしまう。
    「良し、着衣完了! 今後はあんまり脱げないようにしないと、また狼の仕業って勘違いされちゃうね!」
     環の内心には気が付かず、ミリオはにぱっと笑って再び振り返った。
     人間からの狼が交流を持てた理由には、ミリオが両者間の仲介をした以外に、“誤解”が解けたからだという理由もある。
     何でも、狼は全裸で森を闊歩するだとか、木を素手で折るほど気性が荒いだとかの人間の間に流れていた噂の原因は全てミリオだったと判明したからだ。それも分かってしまえば、本人の個性や性格的に仕方ないと思えたので怒りは湧いてこなかった。
    「迷惑だったかな?」
    「え……え⁉︎ いや、そんなことは全くない!」
     環がぼんやりとしていたせいか、いつもの勢いを失った声がミリオから降ってきて、環は慌てて首を横に振った。ミリオはだったそれだけで表情をパッと明るくした。まるで太陽のように眩しいその笑みに、環はさっきとは別の意味でミリオを手でさえぎり、目を細めた。
    「き……今日はどういう用事なんだ?」
    「あ、そうそう! まあ、用事がなくても環に会うためにきちゃうけど、今日はあるんだよね!」
     さらりと照れくさいことを言いながらミリオは懐を──その薄い面積の服のどこにあるのかわからないが──まさぐって何かを取り出した。
    「魚屋で珍しくタコが売られててたんだよね! 環の“個性”に合うかと思って持ってきたんだ!」
    「わ……っ」
     突然目の前に生で差し出されたタコはまだ活きが良く、触手を蠢かせてミリオの手に絡み付いている。思わず何も考えず受け取ってしまう環だったが、彼の言う通り、タコを食べて得られる“個性”の力は貴重だ。
    「いいのか? 海の生き物はかなり貴重なのに……」
    「もちろんなんだよね! 君のためなら自分で海に釣りにでも行っちゃうんだ!」
    「う……」
     ミリオから後光が指している。もう、彼の輝くような笑顔すら見えなくなるほどの好意を全身に浴びた環は目を目を開けることすらできなくなっていた。
    「じゃ、俺この後用事あるからもう行かなきゃなんだよね! また来るよ!」
     その言葉に驚いて環が目を開けた時にはミリオのトレードマークである赤い頭巾は集落の出口付近まで遠ざかってしまっていた。
     用事があったにもかかわらずわざわざプレゼントをするために村に来たのかと、環は思わず呆れてしまう。
    「──……ん?」
     しかし、パタパタという奇妙な音に振り返ってみれば、本人よりも正直な環の腰から映える尻尾が激しく左右に振られていた。
     静かにタコを持っていない方の手でそれを抑え、他の狼には見られていなかったことを確認する。
     恐らくミリオには見られてしまっただろう。だから──環が喜んでいることが分かったから、あんなに満足そうな顔で去っていったのかもしれない。
    「……俺は」
     ──俺は、嬉しかったのか。
     口では感謝しながらも、自分の本心を理解していなかった自分が急に恥ずかしくなってきて、環はいつものように口の端をモゴモゴと動かし、一人で顔を赤くした。
     顔の温度を触って確かめようとして、その手にまだタコが絡み付いているのを思い出した。

     プレゼント。贈り物。
     ── “個性”に合う。

     ミリオは好意だけでここまでしてくれているのだ。環が何か恩返しをするのは当然の礼儀というものだろう。突然思い立ったことではあったが、案外良い考えなんじゃないだろうか。
     人間に歩み寄ると自分で決めたばかりなのだ。その努力くらいはしてみたい。
     環はそう思いながら、心ここに在らずと言った表情で。しかし、その尻尾を浮かれるようにふらふらと揺らしながら歩き出していた。

     ・ ・ ・ ・ ・

    「え、環がいない?」
    「おー、お前もどこにいるか知らんのか?」
     環にタコをプレゼントした次の日。再び朝イチで狼の集落に駆け込んだミリオは、狼のファットガムから「環、お前んとこおらん?」と声をかけられた。
     なんでも、昨日の朝にミリオと話しているところを見たのを最後に、彼の姿を誰も見ていないらしい。環は、集落の食糧難が解決してからは集落内の仕事に精を出していたため、丸一日どころか次の日になっても見かけないというのは不自然であると、ファットは分厚い脂肪に覆われた体を揺らして言う。さらに「てっきり人間の村に嫁ぎに行ったんかと思ったわ〜」と冗談混じりに言う様子から、まだそこまで環の不在を深刻には思っていない様子だった。
     しかし、ミリオは違う。既に日課と化している環との朝の顔合わせがないと一日が始まらない──とまでは言わないが、不安が募ってしまう。
     あのやむなく盗みを働いてもなお生真面目だった環が誰にも無断で家を開けるだろうか。村が食糧難だったと言う話の経緯は押しかけ交流を続けていく過程で聞いた。
     環の身の回りでまた何か問題が起きて、誰にも相談できないまま悩んでしまっているのではないだろうか。それを解決しようと行動を起こした結果、何か問題に巻き込まれてしまっているのではないだろうか。
     常時明るく振る舞うミリオも、らしくなく表情が硬くなる。じっとしていられず、集落をキョロキョロと見回し、目についた獣道に向かって駆け出した──瞬間、その草むらの奥から環がひょっこりと顔を出した。
    「うわっ⁉︎」
     喜ぶ間もなくミリオは駆ける勢いを殺すことができず、正面衝突を避けるために咄嗟に“個性”を発動させて環をすり抜けた。
    「わぶっ……⁉︎」
     透過できずに取り残された衣類が環に被さり、溺れているような環の声が聞こえてきた。“個性”を解除してUターンし、慌ててそれを助け起こしにかかる。
    「環! 大丈夫⁉︎ 怪我はない⁉︎ 俺もうめちゃくちゃ心配したんだよね!」
    「そ、そんなになのか……?」
     いまいちミリオの心配が伝わっていない環は、また全裸になっているミリオを見て、驚いた表情をした後、クスッと小さく笑った。
    「おっとと! またやっちゃったんだよね……」
    「気にすることない……もうな」
    「……“もう”?」
     ミリオが首を傾げて環を見ると、その小脇には風呂敷に包まれた何かが大事そうに抱えられているのに気がついた。環はその包みを取り払って、中身をミリオに差し出した。
     その中身の赤色はミリオにとってとても馴染みある色で、受け取ったそれを広げてみれば、また馴染みのある形とリボンが付いている。
    「こ、これ……」
    「ミリオの着ていた赤頭巾と同じものだ。ただ、魔女が作った特別製で、ミリオの個性に呼応して透過するようになっている。これで毎回裸にならなくて済む」
     つまり、環はこの魔法の頭巾を手に入れるために、ミリオのために一日かけて魔女のところまで行ってくれたと言うことだ。
     淡々と説明をする環の顔をミリオはぽかんと見つめる。それに気がついて、環は少し顔を赤て咳払いをした。
    「い、色々と……たくさん良くしてもらっているから……そのお礼がしたくて……ぷ……プレゼント、だ」
    「っ環〜〜〜〜ッ!」
     環の話が終わるが早いか、ミリオは爆発した感情に任せて環に飛びついた。



     おまけ:魔法の赤頭巾着てみた

    「すごい、ぴったりだ! 本当に俺の“個性”に反応して一緒に透過してるから毎回ちんちん出さなくて済むんだよね!」

    「……すまない。特別なのは頭巾だけだから、どっちにしろズボンは透過したら落ちる……」

    「あっ」
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