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    さめしば

    @saba6shime

    倉庫兼閲覧用。だいたい冬駿

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    POIPOI 49

    さめしば

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    10/1の冬駿SS(https://poipiku.com/3976714/7596085.html)から描いていただいたイラスト(https://poipiku.com/6078609/7766984.html)を元に妄想して書いたSSです。ファンアートへのファンアート。

    ##冬駿

    on our way home「ひさびさに食うとやっぱうめーなあ」
     くしゃり。肉まんの包み紙を握りつぶし、もぐもぐと口を動かしながら幼馴染みが満足そうに笑う。それを横目に僕は、あんまんをぱくりと頬張った。放課後、帰り道のコンビニ、駐輪場隣の空きスペースにて。ふたり肩を並べ、冬の定番商品をともに味わう。空気にはまだ夏の名残りが滲む、秋の入り口の日。
     なあ冬居、外あちーのにマジで食うの? そう言って怪訝な顔で僕を見たのはどこの誰だったか——駿君は結局、熱々の包みを二つ携えて自動ドアから現れたのだった。リクエストした側としては自宅でゆっくりいただきたかったけれど、「せっかくだしあったかいうちに食っちまおうぜ」と心なしかうきうきと弾む声に押され、こうして買い食い行為に勤しむこととなったのである。とは言え、蒸し器から出したてほやほや、ふかふかのほかほかなそれは、時間を置いてしまえばけして味わえない代物だな、とも思った。
    「……ん。ごちそうさまでした、美味しかったです」
     最後の一口まで大事に味わい終えて、ほうと息をついた。「どーいたしまして?」と微笑む幼馴染みと視線がぶつかり、その目尻に滲む優しさに、甘い後味がじわりと増幅するような心地を覚えた。包み紙をぎゅうぎゅうと小さく丸めて、膨れ上がる感情を誤魔化そうと試みる。
    「ほれ。貸せよ」
     差し出された手のひらにいびつな球体をぽんと乗せる。当然の流れとして、ごみは彼の持つレジ袋へと収まった。中には映画鑑賞のお供、スナック菓子と飲み物も入っている。
    「あ、持ちますよそれ。貸してください」
     ほら、と右手を彼に向けて差し伸べた。袋の持ち手を受け取りやすいよう、手のひらは下に向けて。奢ってもらった側なのだからこれくらい当たり前のことだろう。ところが彼は、動きをぴたりと止めて僕の手をじっと眺めたあと、妙に注意深くおずおずと視線を合わせてきた。
    「駿君? 何、どうかした?」
     またいつものように何か突拍子のないことでも言い出すのではと、僕が身構えかけたその時——ぱしっと勢いよく、けれど優しく、右手がきゅっと握られた。二つの手の下で揺れるビニールが、しゃかしゃかと鳴る。
    「……これでいいだろ」
    「へあ、えっと……はい」
     予想外の展開に、間抜けな声がついこぼれてしまった。どうやら、袋を引っ掛けた彼の手が僕の手を迎えに来た——ということらしい。一拍遅れて理解する。
    「あー……さっさと帰んぞ」
    「……うん」
     右手をぐいぐいと引かれるままに帰路に着く。みっともなく狼狽えた僕をからかうかと思いきや、向こうもそんな余裕はないみたいだ。握り返す手のひらの熱さ、赤く染まった耳、いつもより少ない口数。——ふたりでただ歩くために手を繋ぐだなんて、いつぶりだろうか。

     夏の大会を経て僕は、プロ選手を目指すという大きな荷を下ろし、しかしすぐさま新キャプテン就任という次の荷を背負う運びとなった。ほとんど予想通りとは言え、やはり気の重いことに変わりはない。新しい挑戦を前にして、己に喝を入れるための大きな一歩を、僕は必要としていたのだった。引退を翻意した幼馴染みが「まず大学日本一を目指す。そんで日本代表に選ばれて、世界大会で結果を残す。そこまでやってようやく、プロへの足掛かりを作れるはずだ」と展望を打ち明けてくれたことも、大いに影響したのかもしれない。まだ未来は繋がっている、今こそ絶好の機会だ——そんな風に自分で自分の背中を押し、「僕と付き合ってほしい」と彼に伝えたのが約二週間前のことだった。長期戦の心構えなどとうの昔から万全だったというのに、告白から二十四時間と経たずオーケーの返事をもらった時は、正直耳を疑ったものだ。そういうわけで、現在もまだ半信半疑な、どこかふわふわとした心地で毎日を過ごしている。付き合う以前とそう変わらぬ彼の雰囲気と距離感は、安堵に加えて幾許かのがっかり感を僕にもたらしていたけれど——まさか、こんな不意打ちが待っているとは。やっぱり僕の幼馴染みは、いつだって油断ならない。

     よいしょ、と鞄を肩に掛け直す彼の声が僕の意識を引き戻す。
    「ああクソ、鞄おっもいわ。赤本借りすぎちまった」
     下校前、進路指導室での様子を思い返す。確かに、強豪カバディ部のある大学の赤本を片っ端から手に取っていた覚えがある。今日は練習が休みだからと久々に一緒に帰る約束を取り付けて、待ち合わせをした後は彼の希望で進路指導室に立ち寄ったのだ。
    「急にどっか破れたりしねーだろうな……部活やってた頃より重いぞこれ」
    「そもそも置き勉に慣れちゃってるせいでしょ。駿君の場合」
     僕の言葉に彼はぐぬぬと唇を歪め、小さく「うるせえよ」と吐き捨てた。どうやら図星を突いてしまったらしい。ショルダー部分を握ってもう一度掛け直す仕草に、自然と鞄のほうへ視線が吸い寄せられた。一年生の頃から使い倒してずいぶんくたびれてしまった、エナメルのスポーツバッグ。彼が部活動に懸けた約二年半を共に駆け抜けた、毎日の相棒とも呼べる品だ。駿君はそれを、「もう慣れちまってるからな。今さら変えるのも気持ちわりーし」と言って、引退後も通学のお供にし続けている。なんとなく、確たる根拠はないけれど、もし彼が二重の意味で——部活からも競技からも——この夏をもって退いていたなら、鞄もまた潔く持ち替えてしまったのではないかと、僕はそう考えている。彼が今もこのスポーツバッグを大事にしているという事実それ自体が、カバディとの繋がりを保ち続けている証みたいに思えるのだ。そんな些細なところに喜びを見い出していることは、本人には絶対に知られたくないけれど。

     コンビニから自宅までの道のりも半ばを過ぎた頃だった。
     ふたりでよく通った駄菓子屋の二軒隣、コロッケが評判の精肉店前に差し掛かる。その店先から漂う、食欲をそそる匂いが鼻をくすぐった瞬間——不確かな既視感が僕の脳裏をかすかによぎった。風に乗って届く香ばしい匂い、繋いだ手にぶら下がる重み、揺れるビニールの奏でる音。隣を歩く横顔は、うんと幼い。
    「……あの、駿君。なんか……こういうこと、昔もあったような気がするんだけど」
     右手にぎゅっと力を入れ、「こういう」の意味するところを強調してみる。彼はちらりと僕を一瞥してから、すぐに正面へと視線を戻した。
    「……お前の言うそれと、おんなじ記憶かはわかんねーけど。俺も、うっすら覚えてるよ」
     どことなく照れ臭そうな横顔が、言葉を続ける。
    「母ちゃんと駅前のスーパー行ったらさ、お前とおばさんにばったり会ったんだよ。俺も冬居も、小学校入る前くらいの話かな」
    「え、全然覚えてないです」
    「そりゃそーだろ、お前のがガキなんだから」
     彼の語った記憶によれば、二家族連れ立って買い物をする最中に「この後お茶しよう」と母親同士で話がまとまり、じゃあ一緒に食べるおやつを買ってあげると、僕たちふたりに選ばせてくれたらしい。普段ならねだっても買ってもらえない食玩をふたりで物色して、たいそう楽しかったのだとか。
    「んで、お菓子とジュース入れた袋持たされて、手ぇ繋いで歩いて帰った……らしい」
    「らしい?」
    「よく覚えてんのは俺じゃなくて母ちゃんの方な。『はじめてのおつかいみたいで超〜かわいかったんだから! ほんと、写真撮っとけばよかったー!』ってさ、あの番組見かけるたんびにこの話始めやがんだよ」
     とっくに耳タコだっつの。彼は心底うんざりといった様子で唇をへの字に曲げたけれど、おばさんの物真似があんまりにも生き写しだったから、僕は思わず吹き出してしまった。
    「コラ、何がそんなにおかしーんだよ」
    「だって、そっくりすぎて……ふふ」
    「冬居にもいっぺん聞かしてやりてえよ、マジで」
    「そうだなあ、いつか自分で聞いてみますよ」
     こんなきっかけで、幼い頃の思い出が自分の中に増える、なんてことが起こるとは——それも、ほぼ毎日使っているこの道で。不思議なくすぐったさに唇が緩む。薄ぼんやりとした記憶に浮かぶ横顔が、彼の語った思い出を知る前より幾分くっきりとした像を結んだ。あの頃はまだ、僕の視線より高い位置にあった、幼馴染みのあどけない笑顔。そして、引っ張ってくれる小さな手のぬくもりまでもが、今この場に蘇ったように思えた。
    「……ね、駿君。ちょっといいですか」
     僕が立ち止まると、彼は振り返って小首を傾げた。
    「ん? どした……って、うわ、お前」
     握り込む力を一旦緩めて、角度をずらしてまた彼の手を捕まえる。別の形に、しっかりと繋ぎ直す。指と指を互い違いに絡め合う、ただの幼馴染みは絶対にしないであろう繋ぎ方だ。肌の密着する面積がさっきまでとは段違いで、なるほどこれは親密な間柄でしか許されないものかもしれない、とひとり納得する。
     目に見えて慌てる彼をよそに、袋の持ち手の位置をごそごそと整え終えた。
    「ん、これでよし。……いいでしょ?」
    「……事後承諾じゃねえかよ」
     恨みがましい目で睨みつけられたけれど、目の端を赤く染め上げていては迫力など無いに等しかった。長い付き合いを経てもなお、記憶にない類いの表情だ——そういう顔を、見せてもらえるようになったんだな。胸に湧き上がる感情のままに、ぎゅっと握った手を引いて前へ歩み出す。
    「昔とは違うこと、試してみたくって。せっかくだから」
    「……まーた調子乗ってやがんな」
    「駿君、今日は僕のしたいことに付き合うって言ってくれたじゃないですか」
    「ったく……たまーに厚かましくなるよなあ、お前って」
     ぽんぽん飛び出す文句とは裏腹に、この手が振り解かれる様子はない。何だかんだと言いつつも、彼はいつだって僕を受け入れてくれるのだ。
    「……つーかさあ。冬居のやりたいことは帰ってからが本番だろ?」
     繋いだ手が軽く持ち上げられて、袋の中身ががさりと音を立てた。
    「そうですけど。それとこれとは別腹っていうか……」
    「あんまり欲張ってっと、足元掬われんぞ?」
    「誰に?」
    「俺に決まってんだろ、ばーか」
     にかっといたずらな笑顔を見せた恋人が、一瞬僕を釘付けにする。
    「……油断大敵、ですね」
    「おう。肝に銘じとけよ、冬居」
     でもね、駿君。そりゃ欲張りたくもなるよ、好きな人が歩み寄ってきてくれたんだから——まっすぐに過ぎる言葉は、まだ胸にしまったままで。けれど今は忠告通り、欲張ることなくここにある幸福を大切に見つめたいと、そんな風に思った。彼が卒業するまでに、いったいあと何回、この道を並んで歩けるだろう。その貴重な一回を、今日という日を新たな思い出として記憶に刻み込む。彼からの気持ちを受け取り、そして新しい関係をふたりで前に進めた、この日の帰り道を。
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    さめしば

    TRAINING付き合ってる冬駿のSS
    お題「黙れバカップルが」で書いた、井浦と山田の話。冬居はこの場に不在です。
    お題をお借りした診断メーカー→ https://shindanmaker.com/392860
    「そういえば俺、小耳に挟んじゃったんだけどさ。付き合ってるらしいじゃん、霞君とお前」
     都内のとあるビル、日本カバディ協会が間借りする一室にて。井浦慶は、ソファに並んで座る隣の男——山田駿に向け、ひとつの質問を投げ掛けた。
    「……ああ? そうだけど。それがどーしたよ、慶」
     山田はいかにも面倒臭そうに顔を歪め、しかし井浦の予想に反して、素直に事実を認めてみせた。
    「へえ。否定しないんだ」
    「してもしゃーねえだろ。こないだお前と会った時に話しちゃったって、冬居に聞いたからな」
     なるほど、とっくに情報共有済みだったか。からかって楽しんでやろうという魂胆でいた井浦は、やや残念に思った。
     二週間ほど前のことだ、選抜時代の元後輩——霞冬居に、外出先でばったり出くわしたのは。霞の様子にどことなく変化を感じ取った井浦は、「霞君、なんか雰囲気変わったね。もしかして彼女でもできた?」と尋ねてみたのだった。井浦にとっては会話の糸口に過ぎず、なにか新しいネタが手に入るなら一石二鳥。その程度の考えで振った一言に返ってきたのは、まさしく号外級のビッグニュースだった。——聞かされた瞬間の俺、たぶん二秒くらい硬直してたよな。あの時は思わず素が出るとこだった、危ない危ない。井浦は当時を思い返し、改めてひやりとした。素直でかわいい後輩の前では良き先輩の顔を貫けるよう、日頃から心掛けているというのに。
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    さめしば

    MOURNING※供養※ 灼カバワンドロワンライのお題「食欲の秋」で書き始めた作品ですが、タイムアップのため不参加とさせていただきました。ヴィハーンと山田が休日にお出掛けする話。⚠️大会後の動向など捏造要素あり
     しゃくっ。くし切りの梨を頬張って、きらきらと目を輝かせる男がひとり。
    「……うん、おいしー! すごくジューシーで甘くって……おれの知ってる梨とはずいぶんちがう!」
     開口一番、ヴィハーンの口から出た言葉はまっすぐな賞賛だった。「そりゃよかった」と一言返してから俺は、皮を剥き終えた丸ごとの梨にかぶりついた。せっかくの機会だ、普段はできない食べ方で楽しませてもらおう。あふれんばかりの果汁が、指の間から滴り落ちる。なるほどこれは、今まで食べたどの梨より美味い。もちろん、「屋外で味わう」という醍醐味も大いに影響しているのだろう。
     ——俺とヴィハーンはふたり、梨狩りに訪れていた。

     長かった夏の大会が幕を閉じ、三年生はみな引退し、そしてヴィハーンは帰国の準備を着々と進めていた十月下旬のある日——「帰る前になにか、日本のおいしいものを食べたい!」ヴィハーンから俺に、突然のリクエストが降って湧いたのだった。
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