「なあ冬居。きょうってさ、お前の日じゃね?」
「はあ……え、僕の日? どうしてそうなるんですか」
「十月一日だろ、きょう。『とう』に『いち』で、数字の並びが冬居の名前みてえだなーって」
「なんだ、ダジャレですか」
「語呂合わせっつーんだよこれは!」
「ああ、語呂合わせ。なるほど……それで、なんでまた突然そんな思いつきを?」
「いやさ、俺きょう日直だったんだけどよ。黒板に日付書いててピンときたんだよなあ、今朝」
「……ふーん? まあ、言われてみればそう読めなくもない、かな」
「だろ。冴えてると思わねえ?」
「安直ですけどね。……それで、僕の日だから特別なことでもしてくれるんです? 山田さんは」
「あ? なんでそーなるんだよ。誕生日でもないのに祝えってか?」
「だって、こどもの日は男の子のお祝いをするし、敬老の日はお年寄りに感謝するでしょう。その理屈で言うなら……」
「お前なあ、俺の提案から一分足らずで国民の休日と肩並べた気になってんじゃねーぞ」
「やだなあ、そんな大層なこと思ってませんよ。僕はただ……わざわざそういう話をするからには、何か考えてくれてるのかな、とか。ちょっと期待しちゃっただけです」
「……なんか俺にしてほしーことあんのかよ? 場合によっちゃ考えてやる」
「え。いいの? それじゃあ……帰ったら一緒に映画観てくれませんか」
「なんだ、んなことかよ。いいぜ、何観るかはお前に任せる」
「……実は僕も、今日の日付に引っ掛かってることがあったんですよね。久々に観てみようかなーって。『101匹わんちゃん』なんですけど」
「オイ、お前もたいがい安直じゃねえか」
「そういえばこの間、近所でダルメシアン見かけたっけって思い出したんですよ。これは何かのサインかもって、僕の直感が……」
「どっからの何に対するお告げだよそりゃ。別にいーけどよ……んで、アニメと実写どっちだ?」
「んー、実写はちょっと……アニメの方が安心して観られるから、アニメがいいです」
「へーへー。じゃ、あそこのコンビニ寄ってくか。食いもんと飲みもん買って帰ろーぜ」
「お菓子ならうちにもありますよ?」
「俺が奢ってやるっつってんの。お前の好きなもん言えよ、三百円以内な」
「えっ。ずいぶん気前がいいじゃないですか。僕の日だから、ですか?」
「ちっげーよ。練習のない日くらい労ってやろうかと思ってさ。新部長サマの奮闘っぷりを、な」
「……ごくたまにストレートに優しくしてきますよね、山田さんて」
「俺はいっつも優しいだろが」
「それは同意しかねますけど……ありがとう。僕、中華まんが食べたいな」
「あー、もう出始めてるもんな。けど結構暑くねーか? 今日」
「いいんですよ、好きなんだから。……ところで駿君。ひとつ聞いてもいい?」
「何だよ改まって」
「今朝、日直の仕事しながら僕のこと考えてた、ってことですか?」
「……ワリーかよ」
「まさか。意外と愛されてるんだなって、ちょっと安心しました」
「……調子乗る奴のおやつ代は百円に引き下げんぞ」
「え、そんな! ひどいじゃないですか!」
「お前が妙なこと言うからだろ!」
「せめて二百円にしてくれません? 僕のあんまんが……!」
「バーカ。そんなに食いたきゃ、俺に勝ってみろっての。コンビニまで競争すんぞ、冬居!」