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    さめしば

    @saba6shime

    倉庫兼閲覧用。だいたい冬駿

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    さめしば

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    灼カバワンドロワンライ お題「宵越竜哉」のSS
    サッカー部の竹中監督視点、最新話手前とちょい足しのネタバレあり。

     彼の父親を見送る頃にはもう、日は暮れて辺りは薄闇に包まれていた。
     私の隣に立つ少年——宵越竜哉と二人、学生寮前の通りでしばし無言の時を過ごす。ジャケットを着こなす背中が、だんだんと足早に遠ざかっていく。彼らの親子関係がいわゆる「普通」でないことは、短時間の話し合いから察してはいたが——久々に会った息子を夕食に誘う素振りさえ見せないとは。サッカーとカバディどちらを選ぶか、まずは決勝試合を見届けてからだと今後の方針を定めるや否や、父親は息子の部屋をあっさりと去っていったのだった。
     隣の表情をちらりと窺ってみる。まだ十六の子どもでしかないはずの横顔には、静かに燃える決意が湛えられているように見えた。
    「……宵越、悪かったな。顧問でも担任でもない私が、家庭の事情に立ち入るべきではなかったんだが……」
     そう切り出すと、宵越は軽く目を見開いてから口をぐっとへの字に曲げた。
    「あんたを呼び出したのはうちの親父なんだろ。別に謝ることなんかない」
    「……そうか」
    「けど、考えてみりゃ確かに部外者でしかねーな。なんでいたんだ?」
    「はは、親子揃って手厳しい限りだ」
     ふと仰ぎ見た長身の頭上越し、日の沈んだ墨色の空に、きらりと輝く一番星が目に留まった。たしか「宵の明星」とも呼ばれるのだったか。西の夕闇を削って瞬くそれは、宵越がこの先立ち向かう相手——星海高校カバディ部を、私に思い起こさせた。
     トーナメント中に一度だけ、星海高校の試合を観戦する機会があった。パワー、技術、連携、戦術。あらゆる面で相手チームを圧倒し、勝ち星を上げたあとも当然という雰囲気でコートを後にしていた彼ら。スター性のある選手のみならず、熟練の指導者までもが揃った完璧と言っていいチームだ。どんな競技にも共通の、一流のみが放つ独特のオーラが星海高校にはあった。すべてを兼ね備えたあのチームに、これから我が能京高校のカバディ部は挑まなければならないのだ——他を凌駕して、ひときわ輝くあの星に。けれど今の能京なら、今の宵越なら。星を堕とすところを見せてくれるのではないかと、そう勝手な期待を抱いてしまうのだった。

    「……うし。隣町の弁当屋まで、ひとっ走りしてくるか。じゃーな、カントク」
    「え、ああ。気をつけてな」
     寮の外階段をカンカンと上がっていく後ろ姿を見送りながら思う。彼はきっと、この強く速い両脚でどこへだって行ける。今はただ、どこへ向かうべきか完全には定まっていないだけなのだ。彼の父親は「見届ける」と言い切った。なら絶対に目を逸らさないでいてほしい——宵越竜哉が見せてくれる灼熱の世界から。早熟のファンタジスタが、ピッチではなくコート内を駆け回る光景を。不倒と謳われたその体躯が、マット上でもがく姿を。彼に魅入られてしまった、いちファンとしての願いだ。親子喧嘩なんて、その後でも遅くはないじゃないか。部外者としての無責任なわがままは、誰にも聞かせることはない。
     たん、と音が止む。階段途中で立ち止まった宵越を見て、私は首を傾げた。彼の横顔が、ほんのわずかにこちらのほうへと向けられる。
    「……正直に言うと、助かった。他人のあんたがいてくれたおかげで、ちょっとは冷静になれたと思う。俺も、親父も」
     あの宵越の口から出た素直な言葉に、少々面食らってしまった。
    「……そうか。立ち会えてよかったよ」
    「けどあんたのとこの部には入らないからな!」
    「そう念押しすることないだろう、親子揃って……」
    「これだけは言っとかねーとな」
     またカンカンと脚が進み始める。
     宵越がこの何ヶ月のあいだに身につけたものは、なにもカバディの経験だけではないのだ。教育者の端くれとして、それだけははっきりと断言できる。「最善」ではないと、彼の父親は切り捨てようとしたけれど。無為に時間を殺していたわけではないことは火を見るよりも明らかだった。宵越はもう、入学してきた頃の彼とは別人のようだった。
     だんだんと濃くなる夜空を見上げて、ひとつ息を吐く。きょう私が居合わせた場に懸かっているのは、日本サッカー界の未来か、それとも日本カバディ界の未来か。どちらに針が振れるとしても、宵越竜哉という不世出のプレイヤーの未来は明るいはずだ。彼を慮るただの大人として、そう願っている。
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    さめしば

    TRAINING付き合ってる冬駿のSS
    お題「黙れバカップルが」で書いた、井浦と山田の話。冬居はこの場に不在です。
    お題をお借りした診断メーカー→ https://shindanmaker.com/392860
    「そういえば俺、小耳に挟んじゃったんだけどさ。付き合ってるらしいじゃん、霞君とお前」
     都内のとあるビル、日本カバディ協会が間借りする一室にて。井浦慶は、ソファに並んで座る隣の男——山田駿に向け、ひとつの質問を投げ掛けた。
    「……ああ? そうだけど。それがどーしたよ、慶」
     山田はいかにも面倒臭そうに顔を歪め、しかし井浦の予想に反して、素直に事実を認めてみせた。
    「へえ。否定しないんだ」
    「してもしゃーねえだろ。こないだお前と会った時に話しちゃったって、冬居に聞いたからな」
     なるほど、とっくに情報共有済みだったか。からかって楽しんでやろうという魂胆でいた井浦は、やや残念に思った。
     二週間ほど前のことだ、選抜時代の元後輩——霞冬居に、外出先でばったり出くわしたのは。霞の様子にどことなく変化を感じ取った井浦は、「霞君、なんか雰囲気変わったね。もしかして彼女でもできた?」と尋ねてみたのだった。井浦にとっては会話の糸口に過ぎず、なにか新しいネタが手に入るなら一石二鳥。その程度の考えで振った一言に返ってきたのは、まさしく号外級のビッグニュースだった。——聞かされた瞬間の俺、たぶん二秒くらい硬直してたよな。あの時は思わず素が出るとこだった、危ない危ない。井浦は当時を思い返し、改めてひやりとした。素直でかわいい後輩の前では良き先輩の顔を貫けるよう、日頃から心掛けているというのに。
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    さめしば

    MOURNING※供養※ 灼カバワンドロワンライのお題「食欲の秋」で書き始めた作品ですが、タイムアップのため不参加とさせていただきました。ヴィハーンと山田が休日にお出掛けする話。⚠️大会後の動向など捏造要素あり
     しゃくっ。くし切りの梨を頬張って、きらきらと目を輝かせる男がひとり。
    「……うん、おいしー! すごくジューシーで甘くって……おれの知ってる梨とはずいぶんちがう!」
     開口一番、ヴィハーンの口から出た言葉はまっすぐな賞賛だった。「そりゃよかった」と一言返してから俺は、皮を剥き終えた丸ごとの梨にかぶりついた。せっかくの機会だ、普段はできない食べ方で楽しませてもらおう。あふれんばかりの果汁が、指の間から滴り落ちる。なるほどこれは、今まで食べたどの梨より美味い。もちろん、「屋外で味わう」という醍醐味も大いに影響しているのだろう。
     ——俺とヴィハーンはふたり、梨狩りに訪れていた。

     長かった夏の大会が幕を閉じ、三年生はみな引退し、そしてヴィハーンは帰国の準備を着々と進めていた十月下旬のある日——「帰る前になにか、日本のおいしいものを食べたい!」ヴィハーンから俺に、突然のリクエストが降って湧いたのだった。
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