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    さめしば

    @saba6shime

    倉庫兼閲覧用。だいたい冬駿

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    さめしば

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    冬駿の未来捏造SS
    ⚠️20代後半くらい。インドで同棲してる設定
    プロカバd選手のシュンヤマダがイ○スタグラムに自撮りを投稿してみたら、年下彼氏が不機嫌になった話

    ##冬駿

    #aftertodaysworkout ——コトリ。テーブルにマグカップの着地する音が、しんとした部屋に大きく響いた。湯気を立てる中身をひとくち啜ってから、向かいに座る俺の恋人——霞冬居はついに、その重い口を開いた。
    「……で? 昼間のあれは、どういうつもりだったんです」
     ——ま、やっぱこうなるよな。予想した通りの展開を前に、俺はひとまずすっとぼけて見せることにした。いわゆる常套の手段というやつだ。
    「……んー? 『あれ』ってだけじゃ、わっかんねーなあ。何の話だ?」
     軽い調子ではぐらかしてみる。するとダイニングテーブルの向こう側で、同居人の纏う空気が急速に下がってゆくのをたしかに肌で感じた。ああこりゃまずいな、ちょっとふざけすぎちまったか。俺は内心冷や汗をかきつつマグカップに口をつけ、唇を湿らせてここからの応酬に備えた。夕食後のティータイムに冬居が今夜選んだのは、温かい緑茶だ。こっちの日本食スーパーで入手した茶葉は、値段も味もそれぞれ別の意味で「それなり」な代物である。とは言え、慣れ親しんだ香りは俺の心をふわりと落ち着かせてくれた。そうだ、別にびくつく必要なんかねえだろ、堂々としてりゃいい。
    「……ああそう、しらばっくれるつもりなんですね。あんなふうに、自分のからだを惜しげもなく衆目に晒しておいて」
    「おま、その言い方はなんか変態っぽく聞こえんだろ、俺が!」
     取り繕った余裕を一瞬のうちに引き剥がされ、思わず声を荒げてしまった。不覚だ。
    「何も間違ってないでしょ? ネットにアップするって、そういうことなんだから」
    「そ、れは……見てもらうためにやってんだから、当然だろ」
    「ほらね」
     どこか投げやりな声が、テーブルの上にぽつりと落ちて消えた。冬居は軽く俯いたまま、手の中のマグカップから視線を外さずにいる。予想よりずっと突き放した態度を取られて、俺は昼間のできごとを後悔したい気分になり始めていた。

     冬居の言う「あれ」とは——俺が自身のSNSアカウントに投稿した自撮り写真のことを指す。
     クラブ所有のジムでトレーニングに励んだ午後、シャワールームへ向かう途中のことだった。チームメイトの一人が姿見の前に陣取り、筋トレ直後のパンプアップした肉体をスマホで撮影しているところに通りがかったのだ。鏡に映らない位置で立ち止まった俺は、タオルで汗を拭いつつ見るともなしにその様子を眺めていた。そういやよく自撮りしてるよなこいつ、SNSの更新も多いしマメなんだろうなあ、なんてぼんやりと考えながら。汗をたっぷり含んだTシャツに不快感を覚え、シャワールームへ着く前に脱いじまえと上半身裸になった、ちょうどそのタイミングで。撮影を終えたらしい男とばっちり目が合ってしまったのだった。すまん、待たせちまったみたいで悪いなシュン。ほらこっち来いよ。奴はそう言って、姿見の前を譲る仕草をした。いや俺はいいよと咄嗟に断りかけてから、ふと思い出す。そういえば最近、SNSの投稿内容がマンネリ化してきてるんじゃないかとちょっと気になってたんだっけな。自撮りなんか滅多に載せないけど、だからこそたまにはいいのかもしれない。プロのアスリートとしてメシを食っている以上ファンサービスというものは常について回るものだし、それに応えるのも俺は結構好きなタイプだ。写真一枚で喜んでもらえるなら安いもんだろ——そんなふうに思考を素早く巡らせ、立ち去ろうとしていた男を呼び止めて自撮りのコツを伝授してもらったのだった。姿勢の取り方、スマホを構える位置、目線を置く場所。ハーフパンツのロゴが隠れない角度で撮れよ、とスポンサーのスポーツブランドに配慮したアドバイスまで、それはそれはご丁寧に。このジムで撮るならここがベストなんだ、日光の具合がいいし背景にマシンも映り込むからな! という助言を活かす二度目があるかどうかは、正直未知数なところだが。そうこうするうちに撮り終えた一枚はなるほど素人目にも良い映りで、柄にもなくうきうきと投稿しようとしたその瞬間——なぜか頭に浮かんだのは、幼馴染み兼恋人の顔だった。この写真を公開することに冬居がいい顔をしないであろうことは、俺にも容易に想像がつく。しかしこのシェアボタンの先に俺が見ているのはたったひとりの存在ではなく、応援してくれるたくさんのファンと、スポンサーという後ろ盾なわけで——わりーな、これも仕事のうちなんだよと心の中で言い訳をしてから、親指のタップひとつで自撮り写真を世界へ送り出したのだった。

     俺があのとき思い浮かべた唯一の顔は今、依然として薄緑色の水面を見つめ続けている。——さて、この重苦しい雰囲気を打開するために、まず何を言うべきか。手始めに素朴な疑問を尋ねてみるところからアプローチしよう、そう決めて俺は口を開いた。
    「あー……お前があれに対して気に入らねー思いがあんのはわかった。けどよ、何がそこまで引っ掛かってんだ? 半裸の写真なんざ、前にもアップしたことあったろ。チームの奴らとプール入った時とかさ」
     俺の言葉を受け、冬居がマグカップから目を離す。一瞬交わった視線の色は、明らかに不機嫌そのものだった。
    「ああいうのはまだ……自然なオフショットの範囲内じゃないですか。今回みたいに、自分のからだをわざわざ見せつけるための写真とは、根本的に違うでしょ」
     ——ははあ、なるほどな、肌を出すことより俺の姿勢そのものが冬居にとっちゃ問題なわけか。認めるのは癪だけれど、納得できる部分はある。普段の投稿と比べてライクの増える勢いが段違いだったことに、今日の俺は少なからず気を良くしていたからだ。自撮りになんかハマらないと断言できないことは、身に染みて既に実感してしまっている。
    「……じゃ、いっそ消すか? 今からでも」
    「それはもっとダメです」
     一切の間を置かず、冬居はぴしゃりと言い放つ。
    「削除なんてしたらどうなると思います? 希少価値が高まるし、保存済みの人の手でどこかに流されたりするかもしれないでしょ……それこそ、怪しい掲示板とか」
    「ほんっと想像力たくましーよなあ、お前は」
     なんだよ怪しい掲示板って。場の空気にそぐわぬ笑みが思わずこぼれる。あらゆるケースを想定しがちな冬居なんて子どもの頃から飽きるほど見てきたものだが、あさっての方向へ発想を飛ばしているところを眺めるのは、やはり面白い。
     のんびりとした俺の返事が気に入らなかったらしく、冬居はむっと唇を尖らせてから更に言葉を続ける。
    「あのね、山田さん。一度ネット上に出ちゃったものはもう完全には消せないんですよ、デジタルタトゥーって言葉が世間に浸透してからどれだけ経ってると思うんですか。……それに、やましいところがひとつもなくたって、削除したことがわかれば無駄な詮索を呼ぶきっかけになるんですからね」
    「あーハイハイ、んなこと俺もわかってるって。一応言ってみただけだ。うん、消すのはナシな」
     冬居の力説を聞くまでもなく、削除が悪手であることくらい俺にだって想像できる。これでもいっぱしのプロスポーツ選手として、メディア対応の講習やSNS利用にあたっての研修を受ける機会には恵まれているのだ。一度載せてしまった以上、何もしないこと以外に取れる選択肢など存在しないだろう。今回に関して言えば、よくある自撮り写真のひとつにすぎないのだから。あれを気に入ったどこかの誰かが保存しているかもなんて、俺にはなかなか理解の及ばない話だが。
     ——いや待てよ、そういえばこいつ。ふとした気付きについて俺は、目の前のふてくされ顔にぶつけてみることにした。
    「……つうかお前さ、よく更新に気が付くよなあ。俺のアカウント、フォローしてないくせに」
     ぐ、と冬居の口角がひん曲がった。両目がわかりやすく泳ぎ始める。
    「……公開されてるんだから、誰が見てたって構わないはずでしょ」
    「そりゃそーだけどよ。あれ投稿したの、お前が帰ってくる三時間前とかだぞ?」
     共通の友人から連絡を受けて知ったという線もあるかと予想していたのだが——さっきの反応を見るに、俺のアカウントを頻繁にチェックする習慣でもあるのだろう、フォローしてないくせに。
     数年前、マネジメント会社の勧めで俺が公式アカウントを開設した際のこと。「山田さんが僕のアカウントをフォローしちゃいけないのは当然として、僕も山田さんをフォローしませんからね」ときっぱり宣言され、絶対に冬居をフォローしないと言質まで取らされているのだ。他人に見える場所では繋がりを一切作らないよう、完璧に徹底したいと考えているらしい。大勢いるフォロワーのひとりに加わる程度のことだとしても、だ。更に遡ること一年ほど前、俺がプロ選手として人前に立つ機会が増えてきた頃。冬居はこうも言っていた。「恋人の存在は伏せておくべきだと、僕は思いますよ。人気商売っていう側面も、確実にあるんですし……」と見るからに面白くなさそうな表情をして、なのにその瞳にはテコでも動かないであろう頑固さが宿っていた。その当時は俺自身まだ、新参者に付き物のさまざまな不安と戦っていた時期だったし、冬居の危機予測を信頼した上で立ち回っていたものだが——そろそろもう、恋人の影くらいは垣間見せてしまってもいいんじゃないかと、そう思う瞬間もある。冬居にはまだ打ち明けていない、ちょっとした願望だ。
     頑なな恋人は現在も翻意することなく、俺のアカウントをフォローしてはいないらしい。にも関わらず、投稿内容を把握していることは普段の会話から察していたけれど——思ったよりずいぶん見られてたみてーだなあ。想像するとなかなかどうして、愉快さがこみ上げてくる。
    「……ちょっと。なにニヤニヤしてるんですか」
     一方冬居は不愉快そうに、ぎゅっと眉間に皺を寄せて見せた。と言っても怒っているわけではないのだろう、隠しごとが露見した気まずさがその表情には滲み出ている。おまけに、耳たぶがほんのりと赤い。
    「いや? 熱心なファンがいてくれてありがてーなって思ってさ」
    「たまたまですから、今日は。本当に、たまたま」
     冬居は尖らせた唇から言い訳めいた台詞をこぼしつつ、卓上のマグカップを両手ですりすりと忙しなく撫でている。どこか幼く見える仕草と、子どもみたいに拗ねた顔と。たった一歳違いの、それもとうに成人した男だというのに——この俺の目には、たまらなくかわいらしく映ってしまうのだった。
    「……それで? 俺にどうしてほしいんだよ、冬居は」
    「へ」
     テーブルの上を横切って一直線。衝動のままに俺が右手を伸ばした先は、マグカップに触れる冬居の左手。取っ手に絡ませた指を一本一本、丁寧につまんで、ゆっくりと剥がさせていく。
    「……どうしてほしい、って」
    「お前が嫌がるなら、ああいう写真は一回こっきりにしてもいい、ってことだよ。別にさ、俺にとっちゃ必要不可欠でもなんでもねーんだ」
     会話を交わしながら、取っ手から完全に離れた冬居の指に自分のそれをゆるく絡ませる。されるがままの男は、いっそうきつく眉を寄せてから返事を搾り出した。
    「……それは……お断りします。そこまで縛る権利、僕にはないし……不可欠ではなくとも、必要なことの一部ではあるでしょ。『山田駿』にとっては」
     ——まあ、おおむね思った通りの返答だった。俺がプロ選手として身を立てていることを、それに伴って優先すべき諸々を、冬居はいつだって尊重してくれるのだ。期待通りの答えが返ってきただけにすぎないのに、胸の奥がきゅうと締め付けられる心地がした。
    「だから僕も……みっともなく拗ねるのは、これっきりにしますから。安心してよ、駿君」
    「……ん。ありがとな」
    「あと……僕が思うに、ですけど。ぱったりと自撮りが上がらなくなったら、それこそ変な憶測を生むんじゃ……」
     真剣そのものな声に、思わずぶはっと吹き出してしまった。込み上げるおかしさを抑えられないまま、「いくらなんでもそりゃ考えすぎだ」と笑い飛ばす。向かいの顔がまた、むっといじけた様子になった。
    「んな顔すんなよ冬居。あー、じゃあさ。今日みてーな写真撮った時は、投稿するより先にお前に送ってやるよ。それでどうだ?」
    「は、いやいや、いいですいりません、そんなの」
     即答かよ、結構いい案だと思ったのに。かっと目を瞠って却下する冬居を不審に思い、「いらねーの? なんで?」と尋ねてみる。声に少しだけ甘い色を乗せ、絡ませた指にきゅっと力を入れながら。今度は限界まで目を細めた冬居が、観念するようにぽそりと呟いた。
    「……仕事にならなくなる、から」
     ——あーあ、そういうこと言っちまったらどうなるかわかってんのかね、こいつは。今の俺はたぶん、傍目から見ても相当に楽しそうな顔をしているはずだ。からかい甲斐のある恋人を前にすれば、誰だってそんなもんだろ?
    「……ふーん? 今日もそうなってた、ってことかよ」
    「まさか。全力で頭から追い出して、仕事終わらせてきましたけど?」
     確かに、今日はほぼ定時の帰宅時間だった。冬居はここ数週間ほど仕事が立て込んでいたらしく、俺たちはすれ違い気味の日々を過ごしていたのだ。「遅くなります」というメッセージの来なかった久々の夜が、今日この夜というわけである。それなのに、帰宅したこいつを出迎えた瞬間からもう不機嫌オーラを纏っていたものだから、俺の密かな計画がおじゃんになるのではと危惧していたけれど——。
    「……つーかお前、そんなふうに言うってことはやっぱ、あの写真のことエロいと思ったんじゃん」
     じとりとした上目遣いが、不服そうに俺を見据える。
    「……はしたないな、とは思いましたけど。じっくり眺めたりしてませんから。特に感想なんかないですよ」
     はしたないってお前、と吹き出しかけてぐっと堪えた。冬居の妙な言葉選びは、時たま俺のツボに入るのだ。
    「……ちゃんと見てねーっつっても、よく撮れてんのはわかったろ? 自撮り慣れしてる奴にいろいろ教えてもらってさ。盛れる、ってあーいうことなんだなあ」
    「……そういえば、肩に掛けてたあのタオル。僕のじゃないですか。また間違えたんですか」
    「なんだ、気付いてんじゃねーか。ほんとはしっかり見てるくせに。このむっつりすけべがよ」
     にやつきながらからかうと、冬居の目つきが出し抜けにきっと鋭くなり——絡めた指ごと、手のひらをぐいと強く引き寄せられた。
    「……だって、僕のだもん」
     言葉を失う。熱い視線に射抜かれて、数秒のあいだ呼吸を忘れた。台詞に込められた真意が、ゆっくりと追いつく理解が、頭の中を侵していく。首の後ろからじりじりと焼けるように、皮膚の下を熱が広がる。耳も、頬も、赤く染まり始めたのが手に取るようにわかった。——そんなふうに不確かな言い回しで、俺の渇きを引きずり出してしまうお前は、本当にずるいよ。ああもう、なりふり構ってられるか。湯気の消えたマグカップを左手で引っ掴んで、ごくごくと喉に流し込む。ほとんどやぶれかぶれみたいな勢いのままに。一瞬のうちに身体じゅうを支配したこの渇きは、緑茶なんかではとても潤せないと、本能が知っている。それでも構わず器を干して、ゴトンと乱暴にテーブルへ下ろした。カップの中身が酒だったなら、もう少しそれらしいシチュエーションになった気がするけれど、間抜けに映ったとしても別に気にしない。今さら冬居の前で格好つける必要などないはずだ。
    「……知ってるか、冬居。あしたの俺、完全オフ日だって」
     曖昧に逸らした視線の先で、喉仏がゆっくりと上下する。
    「……把握してますよ、山田さんのスケジュールくらい」
    「さすが」
     冬居の揺らぎを感じ取り、自分の心に少しだけ余裕が戻ってくるのがわかった。まだ負けてなんかない、駆け引きの材料なら他にもあるはずだ——広げた視野に入るのは、繋いだままの右手と左手。その力をふっと緩めてみる。交差する指と指を、緩慢な動きで上下に擦り合わせた。すらりと長い四本の指を弄びながら、なんとなくその付け根に触れてみようと思い立つ。指の股にぴんと張った柔い皮膚を爪の先端で軽く引っ掻いてやれば、冬居の手首から先がびくんと跳ねた。——へえ、こんなとこ感じるのかよ、後でじっくり舐めてやろっと。そう記憶のメモに書き込んで、けれどおそらく同じことをやり返されるであろう予測は一旦忘れようと決め込んだ。
     逸る期待を押し留めるように、冬居が下唇を噛む。もうひと押し、ってとこか。俺のコンディション管理が最優先の日々において、冬居の健気な自制心を突き崩すこの瞬間は、何度味わおうと最上級に楽しいのだ。
    「……なあ冬居。考えてみりゃ、ずいぶん贅沢な話だと思わねえ? お前はこうして実物の俺にいくらでも触れる立場なのに、不特定多数にちょっと見られたくらいで妬くなんてさ」
    「……いくらでも触っていい、って解釈で合ってます?」
    「お好きにどーぞ?」
     冬居の眼差しがゆらりとぎらつき始めたのを確認して、内心しめしめとほくそ笑む。ここから先はきっと、俺の望み通りにうまく運んでくれるはずだ。一度世に出てしまった写真は今さらどうにもできはしないけれど、拗ね顔の恋人をめいっぱい甘やかしてやるくらいなら、今からだってじゅうぶん可能なのだ。冬居が言うところの「衆目に晒した」身体にいくつの跡が残ろうとも、今夜の俺は一向に構わない。
     この絡めた指が離れ離れになったら、待ち兼ねた夜のはじまりだ。
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    さめしば

    TRAINING付き合ってる冬駿のSS
    お題「黙れバカップルが」で書いた、井浦と山田の話。冬居はこの場に不在です。
    お題をお借りした診断メーカー→ https://shindanmaker.com/392860
    「そういえば俺、小耳に挟んじゃったんだけどさ。付き合ってるらしいじゃん、霞君とお前」
     都内のとあるビル、日本カバディ協会が間借りする一室にて。井浦慶は、ソファに並んで座る隣の男——山田駿に向け、ひとつの質問を投げ掛けた。
    「……ああ? そうだけど。それがどーしたよ、慶」
     山田はいかにも面倒臭そうに顔を歪め、しかし井浦の予想に反して、素直に事実を認めてみせた。
    「へえ。否定しないんだ」
    「してもしゃーねえだろ。こないだお前と会った時に話しちゃったって、冬居に聞いたからな」
     なるほど、とっくに情報共有済みだったか。からかって楽しんでやろうという魂胆でいた井浦は、やや残念に思った。
     二週間ほど前のことだ、選抜時代の元後輩——霞冬居に、外出先でばったり出くわしたのは。霞の様子にどことなく変化を感じ取った井浦は、「霞君、なんか雰囲気変わったね。もしかして彼女でもできた?」と尋ねてみたのだった。井浦にとっては会話の糸口に過ぎず、なにか新しいネタが手に入るなら一石二鳥。その程度の考えで振った一言に返ってきたのは、まさしく号外級のビッグニュースだった。——聞かされた瞬間の俺、たぶん二秒くらい硬直してたよな。あの時は思わず素が出るとこだった、危ない危ない。井浦は当時を思い返し、改めてひやりとした。素直でかわいい後輩の前では良き先輩の顔を貫けるよう、日頃から心掛けているというのに。
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    さめしば

    MOURNING※供養※ 灼カバワンドロワンライのお題「食欲の秋」で書き始めた作品ですが、タイムアップのため不参加とさせていただきました。ヴィハーンと山田が休日にお出掛けする話。⚠️大会後の動向など捏造要素あり
     しゃくっ。くし切りの梨を頬張って、きらきらと目を輝かせる男がひとり。
    「……うん、おいしー! すごくジューシーで甘くって……おれの知ってる梨とはずいぶんちがう!」
     開口一番、ヴィハーンの口から出た言葉はまっすぐな賞賛だった。「そりゃよかった」と一言返してから俺は、皮を剥き終えた丸ごとの梨にかぶりついた。せっかくの機会だ、普段はできない食べ方で楽しませてもらおう。あふれんばかりの果汁が、指の間から滴り落ちる。なるほどこれは、今まで食べたどの梨より美味い。もちろん、「屋外で味わう」という醍醐味も大いに影響しているのだろう。
     ——俺とヴィハーンはふたり、梨狩りに訪れていた。

     長かった夏の大会が幕を閉じ、三年生はみな引退し、そしてヴィハーンは帰国の準備を着々と進めていた十月下旬のある日——「帰る前になにか、日本のおいしいものを食べたい!」ヴィハーンから俺に、突然のリクエストが降って湧いたのだった。
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