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    さめしば

    @saba6shime

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    さめしば

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    灼カバワンドロワンライ お題「幼馴染」のSS
    中1の山田視点。⚠️単行本未収録話(241話)の内容を含みます
    2023.7.22 加筆修正済

    最小単位のパラダイムシフト「え! 山田と霞君って、お隣さんなんだ?」
    「おう、そーだぞ……ってあれ、言ってなかったっけか?」
     初耳だよう、と隣で目を丸くしているこいつは王城正人——毎週末開かれるカバディ練習会の、古株メンバーのひとりだ。俺がこの練習場に足を運ぶようになってからの短期間のうちに、最も意気投合した相手と言っていいだろう。練習前、更衣室でのちょっとした雑談の時間。ぶかぶかのTシャツの襟ぐりから頭を出して、正人は深く納得したように頷いた。
    「そっかあ、なるほどね。いつもふたり一緒に来るとこ見かけてたから、すっごく仲良しなんだなーとは思ってたけど」
    「バカ言え、べつに仲良かねーよ。隣に住んでんのに別々に出る方が不自然だろが」
    「んー、それはそうかもだけど……でも、やっぱり仲良しでしょ」
     そう言ってへらりと笑う正人を、しつけーなと肘で小突いてやった。この緩みきった笑顔を見ていると、プレー中は人格ごとそっくり入れ替わってるんじゃないかとまで思えてくるのだから、不思議な奴だ。人当たりはこの上なく良いのに、カバディに関しては度を越して負けず嫌いな面を見せる、おそろしくギャップのある男。それが王城正人に対する俺の印象だった。
    「ってことはもしかして、結構長い付き合いなの? 霞君とは」
    「だな。ガキの頃から知ってる」
    「へえ。じゃあふたりは、幼馴染みってやつなんだね」
    「……ああ? おさななじみィ?」
    「なんで意外そうなのさ。子どもの頃からの友達のこと、そう呼ぶでしょ?」
    「や、んなこたー知ってるけどよ……」
     ——幼馴染み? 俺と、冬居が? ただ知識として頭にあるだけだった単語が、突然自分ごととなって降りかかってきたことにこっそりと動揺する。しかし改めて考えてみれば確かに、俺たちはその言葉の定義にぴったり当てはまるのかもしれなかった。あいつはただの友達と呼ぶにはちょっと距離が近すぎるし、弟みたいな存在だけどもちろん本当の弟ではない。俺にとって冬居はずっと、「冬居」という存在でしかなかった。だから、もしこの間柄に一般的な名前を与えてやるとしたら、きっと「幼馴染み」以上に相応しいものはないのだろう——思ってもみなかった角度から新しい理解がすとんと落ちて、胸の奥に不思議と馴染んだ。
     俺の中で急速に起こるアップデートをよそに、正人は着替えを進めつつもマイペースに話し続けていた。
    「ちょっと羨ましいな、そういう関係。ちっちゃい頃からずっと仲いい友達っていないんだよねえ僕。小学校、途中で変わっちゃったし」
     羨ましい、と言われてなんだかくすぐったい心地がした。冬居との関係を客観的な視点から捉えられるのは、今更だけれど少し居心地が悪い。知らず知らずのうちに重ねていた年月を突然目の前に積み上げられたような、そんな気分になってしまう。
    「……ん? ちょっと待てよ正人。ここの奴らとお前、結構付き合い長いんじゃねーのか? なら幼馴染みって呼べなくもないだろ、仁とか銀とかさ」
     俺の投げかけた疑問を受け、正人は顎に手を当ててうーんとひとつ唸った。
    「確かに知り合って長いし、みんな大事な友達だけど……幼馴染みと思ったことはなかったかも。練習でしか会わないし、住んでるとこもずいぶん離れてるからねえ」
     なるほどな、と今度はこちらが納得する番だった。俺が二軍に加わる以前の話は大まかに聞いていたから、古株の名前を挙げてはみたけれど——実のところ、正人の友達としていの一番に思い浮かぶのは、また別の人物なのだった。
     キィ、と更衣室の扉が音を立てて開く。現れたのは、今まさに俺の頭の中に浮かんでいた顔だった。
    「着替え終わったかー? 正人」
    「あ、慶! だいじょぶ、もう行けるよ」
    「んー、俺も一緒に出るわ」
     三人連れ立って更衣室を後にする。俺ら一番乗りっぽいぞ正人、それじゃあいっぱい練習できるね、そういや先週試した技のことだけどさ……。先を歩く正人と慶が、カバディに関する話題を次々と軽快に、楽しげに交わす。そんなふたりの背中を後ろで眺めているうちに、ある考えがふとよぎった。子どもの頃から一緒にいる俺と冬居が、幼馴染みと呼ぶに相応しいほどの時間を過ごしたと言うのなら——このふたりだって、いつか大人になった頃に振り返ってみれば、そう呼べるようになっているんじゃないだろうか? 年月に伴って新しい呼び名がつくなんて、改めて考えてみてもなかなかどうして妙な心地がするけれど。

     体育館はもうすぐそこというタイミングで、ぱたぱたと追いかけてくる足音が俺の耳に届く。振り返った先に見えるのは、見慣れた細っこいシルエット。ぱっと目が合うなりそいつの駆け足は更に加速して、俺のほうへとまっすぐに走り寄ってきた。飲み物を買いに出ていた冬居がすぐ目の前で立ち止まり、ふうと呼吸を整えている。——なあ冬居。俺たち、「幼馴染み」ってやつらしいぞ。知ってたか? なんて小っ恥ずかしい台詞は口にできるはずもなく、冬居の顔をまじまじとただ眺めた。とっくに見飽きたはずのツラが今日はやけに新鮮に映って、なんだかおかしな感じだ。
    「駿君? なに、どうかした?」
     下がり眉を更にきゅっと下げ、小首を傾げて冬居は困惑した様子を見せる。なんでもねーよと一言返してから、がばりと飛びつくように冬居の肩へ腕を回してやった。
    「わわっ。ちょっと駿君、なんなのいきなり……」
    「だからなんでもねえって」
    「ぜったい嘘だよ、なんか企んでる時の顔してるもん」
    「ばーか、なんも企んだりしてねえって。いーからさっさと練習始めんぞ、冬居!」
     今度だれかにお前のことを尋ねられたら、その時はこう言おう——「冬居は俺の幼馴染みなんだ」って。「ほら、やっぱり仲良しじゃん」と前方から聞こえてきた声には、ひとまず知らんぷりを決め込むことにして。
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    さめしば

    TRAINING付き合ってる冬駿のSS
    お題「黙れバカップルが」で書いた、井浦と山田の話。冬居はこの場に不在です。
    お題をお借りした診断メーカー→ https://shindanmaker.com/392860
    「そういえば俺、小耳に挟んじゃったんだけどさ。付き合ってるらしいじゃん、霞君とお前」
     都内のとあるビル、日本カバディ協会が間借りする一室にて。井浦慶は、ソファに並んで座る隣の男——山田駿に向け、ひとつの質問を投げ掛けた。
    「……ああ? そうだけど。それがどーしたよ、慶」
     山田はいかにも面倒臭そうに顔を歪め、しかし井浦の予想に反して、素直に事実を認めてみせた。
    「へえ。否定しないんだ」
    「してもしゃーねえだろ。こないだお前と会った時に話しちゃったって、冬居に聞いたからな」
     なるほど、とっくに情報共有済みだったか。からかって楽しんでやろうという魂胆でいた井浦は、やや残念に思った。
     二週間ほど前のことだ、選抜時代の元後輩——霞冬居に、外出先でばったり出くわしたのは。霞の様子にどことなく変化を感じ取った井浦は、「霞君、なんか雰囲気変わったね。もしかして彼女でもできた?」と尋ねてみたのだった。井浦にとっては会話の糸口に過ぎず、なにか新しいネタが手に入るなら一石二鳥。その程度の考えで振った一言に返ってきたのは、まさしく号外級のビッグニュースだった。——聞かされた瞬間の俺、たぶん二秒くらい硬直してたよな。あの時は思わず素が出るとこだった、危ない危ない。井浦は当時を思い返し、改めてひやりとした。素直でかわいい後輩の前では良き先輩の顔を貫けるよう、日頃から心掛けているというのに。
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    さめしば

    MOURNING※供養※ 灼カバワンドロワンライのお題「食欲の秋」で書き始めた作品ですが、タイムアップのため不参加とさせていただきました。ヴィハーンと山田が休日にお出掛けする話。⚠️大会後の動向など捏造要素あり
     しゃくっ。くし切りの梨を頬張って、きらきらと目を輝かせる男がひとり。
    「……うん、おいしー! すごくジューシーで甘くって……おれの知ってる梨とはずいぶんちがう!」
     開口一番、ヴィハーンの口から出た言葉はまっすぐな賞賛だった。「そりゃよかった」と一言返してから俺は、皮を剥き終えた丸ごとの梨にかぶりついた。せっかくの機会だ、普段はできない食べ方で楽しませてもらおう。あふれんばかりの果汁が、指の間から滴り落ちる。なるほどこれは、今まで食べたどの梨より美味い。もちろん、「屋外で味わう」という醍醐味も大いに影響しているのだろう。
     ——俺とヴィハーンはふたり、梨狩りに訪れていた。

     長かった夏の大会が幕を閉じ、三年生はみな引退し、そしてヴィハーンは帰国の準備を着々と進めていた十月下旬のある日——「帰る前になにか、日本のおいしいものを食べたい!」ヴィハーンから俺に、突然のリクエストが降って湧いたのだった。
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