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    ナンデ

    @nanigawa43

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    何でも許せる人向け 雑食壁打ち

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    ナンデ

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    関ヤノ 捏造モブ視点 キスの日

    結婚式は来月、あいつの席は用意してない 高校のサッカー部に憧れてるやつが居た。真面目で規則をきっちり守るやつで同輩にも後輩たちにもみんなあの人がいるとサボれないと口々に言っていた。大柄な身体を駆使したパワープレイの中にも、あいつの生真面目さが出ていた。粗野なだけじゃない、荒いだけじゃない、プレイングの美しさってやつがあったよ。それにキチンとやってる奴には優しかった。俺たちは慕ってくれる二年たちとは仲良かったけど、ちょっと一年たちとは折が悪くてさ。上手い奴が多くて。全中で良いとこまで行った奴とか……。まぁ、要はナメられてたんだよな。弱い先輩の言うことなんか聞いてられっかよみたいな雰囲気があって。俺たちも一年のこと嫌いでさ。上手い下手関係なく敬意は払えよな、みたいな。でも関口だけは違ってさあ。何だろうな、ナメてる態度は許さないんだけど、プレイは純粋に上手いんだから先輩とか関係なく見習うべきだ、みたいな。子どもの割り切り方じゃ、無かったな。だから一年たちもあいつのことは好きで……。でも大学進学と同時に上京して、連絡はそれっきり。一回だけ、同窓会に来たかな。本当に卒業してすぐの、飲み会と大差ないやつだよ。年末の帰省時期にやって……。でも、その後あいつの父親の会社、潰れちゃってさ。え?あ、そうそう。社長だったの、父親。そんなでっかい会社でもないけどね、羽振りは良かったよ。あいつはそんなに鼻にかけないやつだったけど。で、まぁ、デッカイ家も差し押さえられてさ。なんか悪いことしたらしくてね、脱税だとかなんだとか地元じゃ結構なニュースになって、あいつも地元に帰る場所なくなって……大学はどうなったんだろう。誰も連絡とれなくて知らないんだ。もちろん、在学中は連絡先、知ってたよ。でも父親の事件があった時にサッカー部だった奴らが心配して、軒並み連絡しようとして……誰も通じなくてさ。俺もだった。なんだろ。悲しかったな、あれ。ずっと気になってる。幸せになっててくれるといいなって時々思うよ。いい奴だったから……。

    「関口?」
     つい先程、ちょうど彼の話をしていた。彼女とのデートで、なんの話からだったか子どもの時の話になって、転勤で田舎から出てきた俺と違って彼女は東京生まれ東京育ちだもんだから、本物のカエルもカマキリも見たことないとか言って、でもまあ、女の子は田舎の子でも見ようとしないよ。嫌いな子、多いよ。なんて言って、流れるように部活の話になった時に関口、関口東吾っていうクラスメイトで同じ部活だったやつの話を、した。今まで会社の誰にもしたことなかった話だけれど、彼女には知ってて欲しいと思って(だって俺の子ども時代で一番、尊敬できるやつの話なのだ)話し始めたらつい熱もはいって随分詳しく話した。だからだろう、関口の風貌や笑い方や、思い出の解像度がくっきりとしていて、普段だったら気が付かないような場所……ビルとビルの間、人が一人通れるぐらいの狭い裏路地にあいつの横顔を見つけられたのは。
    「関口……?関口か?」
     隣で彼女が不思議そうな顔をしていた。俺は彼女の手をぎゅっと握る。俺の手に彼女の左手薬指にはまっている、指輪の感触がする。
    「なあ……」
     裏路地の男はゆっくり、振り向いた。と同時に、彼が赤ん坊を抱くように胸に小柄な男を抱いていたのが分かった。小柄な男はこちらを嫌そうに睨む。ヤマアラシみたいな髪の、スーツの男だ。口から透明な糸が引いてる。唾液だ……。こんな街中の裏路地で、大柄の男が小柄な男を掻き抱いて口から糸を引くくらいにキスをしていたのだ。
    「あん?誰だ、お前ェ?」
     関口(仮)は、もう完全に関口だった。まるきり、思い出のままの関口が歳をとったんだなって見た目をしてた。サッカーしてる時みたいな目の据わり方で、俺を睨んでた。俺は後に引けなくなって、辞めときゃいいのにまた聞いた。
    「関口だろ。関口東吾。なあ、元気だったか、俺だよ。サッカー部で一緒だった……」
     彼女が心配そうにぴったり寄り添って、右手で俺のコートを掴む。俺はもうはんぶん、泣きそうになって、関口だったらいいなと関口じゃないといいなの気持ちでガタガタ揺れている。だって、折角会えたのに、だけど、あの関口が30過ぎてこんなヤンキーみたいなジャージで、裏路地で、スーツ着てる目つきの悪い男と深いキスなんかしてて、もうぐちゃぐちゃだったんだ。
    「関口、あーん」
     小柄な男が、俺に向かって何か言った。声は聞こえない。でもたぶん、どっか行けとか邪魔だとかそんなニュアンスのことだろう。ニヤッと笑って関口の胸倉を引っ張る。男は確かに関口と呼んで口を開けた。餌を待つ雛鳥みたいに。
    「ヤノさん、すんません……」
     関口はもう俺を見なかった。大通りにいる昔馴染みのことを気にもしなかった。薄暗い裏路地で関口を呼ぶ小柄な男を抱え込んで隠すみたいにしてキスを始めた。俺は鼻をすすってほんの少しだけそれを見てた。丸まる背中、小柄な男の身体の端がチラチラと見え隠れする。熊に食べられているみたいだ、と思った。彼女が、俺の腕を引いた。
    「ごめん……」
    「ううん、いいよ。ねえ、もう行こう」
     俺は涙を手の甲で拭って、裏路地から離れた。関口東吾から離れていった。大通りはLEDライトのイルミネーションできらきら輝いている。彼女が俺を励ますために「帰りにコンビニでさ、ダッツ買おうよ」と提案してくれた。俺は「いいね、俺ストロベリーにしようかな」だなんて言う。彼女が笑う。俺も笑って返した。
     頭の中の関口東吾が、にこにこ笑ってる。夏にサッカー部のみんなでガリガリくん食べた時の笑顔だ。俺たちも一年も二年も一緒くたになって、その真ん中で関口、笑ってたよな。
     幸せになってくれてたらいいな、と思ってた。今でも思ってるよ。たぶん、どんなことがあっても思ってる。でももう、連絡先はいいやと思った。またいつか一緒に酒でも飲めたらと思ってたけどそれも、もういい。関口東吾は死んだんだ、と思うことにする。
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