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    ナンデ

    @nanigawa43

    odtx・dcst・ユニオバ

    何でも許せる人向け 雑食壁打ち

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    ナンデ

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    獪のみ前世記憶ありの現パロ
    ※映画時点までの知識のみ

    大当たりをもう一度 持たされていたスマートフォンは部屋に置いてきた。中学の入学祝いに買ってもらったもので、6年間大事に使い続けたが、とうとう卒業までアドレス帳には2人しか登録がないままだった。
    『……獪岳?』
     電話口には、善逸が出た。そうなるように、慈悟郎の居ない時間に、狙って掛けている。
    「電話の取り方も忘れたかよ、カス」
    『公衆電話からかけてくるのなんて、獪岳だけだよ』
    「そぉかよ」
    『今爺ちゃん居ないよ、ねえ、獪岳……?元気してるの?爺ちゃんも声、聞きたがってるよ』
     元弟弟子の、泣きそうな声に獪岳はふんと鼻を鳴らす。手元にはしわくちゃになったメモ用紙と数枚の十円玉。メモ用紙は子どもの頃、自分を引き取った桑島が何かあった時のために……と持たせた桑島家の電話番号が彼の達筆な字で書き付けられたもので、獪岳はこれを言い付け通りに大事にしていた。小学生の時はランドセルのポケットの一番奥深くに入れて、中学に上がってからは財布の中に、高校生になってからはスマートフォンのケースの中に隠すみたいにして、ずっと、ずっと。
    『獪岳、聞いてる?ねえ、本当に……どこに居んの?たまには帰ってきなよ、お正月とかさ』
    「時間が空いたらな」
    『お正月だよ、空いてないわけないでしょ。家族に会いにくるくらい出来るじゃん。勝手に大学決めてさ、奨学金も……ね、爺ちゃんとさ、獪岳が帰ってきたらお寿司取ろうって話してるんだけど……』
    「寿司ぃ?」
    『だって、まだお祝いしてないじゃん。獪岳、さっさと黙って引っ越してさ。爺ちゃんもびっくりしてたよ。住所も全然、教えてくんないし……保証人とか、どうしてんの?危ないこと、してない?ご飯とか……ちゃんと食べてんのかよ……』
     カシャン、と十円玉を追加する。善逸の鼻を啜る音が微かに聞こえて、獪岳はほんの、ほんの少しだけ、良い気分になる。善逸は覚えてないけれど、桑島も覚えて、ないけれど、前に獪岳が勝手に黙って彼等の元を離れた時、善逸は怒った。
    『ねえっ、聞いてる?心配してんだよ……』
     桑島は、腹を切った。
    「あー……」
     獪岳は、公衆電話ボックスの透明な壁にもたれかかって、善逸の声を聞いている。桑島の声は聞きたくない。本当の祖父になってしまった彼は、前と同じように、本当にそっくりそのまま、同じように、獪岳と善逸を育てて、獪岳は彼の元を離れて、そうして今度は、もう腹を切ってはくれないのだ。
    「なあ、善逸」
    『なに?』
    「お前の大事な爺ちゃんはさ、俺の為に腹切ったんだ」
    『は?』
    「くくっ……お前に言わずに、腹切ったんだよ。羽織りはお前にも渡してやがったが、あの人に死に装束着させてよ、腹切らせたのは俺だけだ!」
    『なに、どうしたの、どういう……』
    「ははっ、あは……は、はは……ざまあみろ……」
     ガシャン、と受話器を置いた。そのまましゃがんで、大事な、大事なメモ用紙を抱いて、透明な箱の中で、都会の喧噪に紛れて、また何の特別な人間にもなれない人生を、同じように繰り返してる。
    「鬼になりたい……」
     賭け事は、今はもうしていない。あの夜の恐怖を、待ち続けているのだ。今度こそ、今度こそと願っている。何にもなれないまま、何になりたいかもまた分からずに、生きて、生きて、生きて、今度こそ、今度こそ、今度こそ。
     手の中のメモ用紙は、カサリともいわない。
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    ナンデ

    DOODLEアレルノ 通常END後
    貴方の為に生まれた、これは運命 生まれは変えられない。ルノーは自分の生まれた家柄にも、立場にも何の不満も有りはしなかったが、それでも自分の生まれからくる宿命と憧れからくる仄かな夢とを天秤にかけて、夢を諦めたことがある。
    「ルノー、ありがとう。俺を信じてくれて……」
     戴冠式が終わって、夜。熱気の冷めない城下町と違って、グランコリヌの城にあるアレインの部屋にはしんとした夜の空気が満ち満ちていた。ルノーはベッドに腰掛けるアレインの頂きに窓から差し込む月明かりが反射して、天然の王冠のような煌めく輪があるのを、立ち尽くしたまま、見ていた。
    「アレイン陛下……」
     アレインの部屋、とは、呼ばれの通り、彼の自室であった。急遽運び込まれたキングサイズの天蓋付きのベッド以外は、アレインがこの城から去った日のまま、子どもサイズの椅子や、勉強机などが放置されていた。埃は、積もってなかったのだと言う。何も減ったり、増えたりしても居なかったらしい。それはガレリウスの中にいたイレニアが、存在を奪われて尚、最愛の息子の帰る場所を護り続けたのか、それともガレリウスがグランコリヌ城自体にはなんの執着もなく、維持を侍女たちに任せきりにしていたのか。今となっては、もう知る術もない。ガレリウスはアレインが討ち倒し、その過程でイレニアは魂だけではなく、姿形をもこの世から失くした。
    1878

    ナンデ

    DOODLE手放したことなんてなかったよ

    前世記憶有り・現代世界転生・年齢逆転のアレルノ
    呟いたものをふわっと小説にしたふわっとした小話なのでふわっと読んでください。ふわふわ。
    千年隣に居させて欲しい、貴方の蒼と魂の ルノーの未練は永くアレインを独りにしたことだった。未練は後悔と混ざりあって執念に変わる。生きていた頃と同じように、ルノーの魂は熱く燃えて、魔法ではなく科学が蔓延り、馬ではなく低燃費軽自動車が走り回る世界に生まれる時に「今度こそ、あの方を置いていきたくない」と大層踏ん張った。その結果が、これだ。
    「ルノー……久しぶり」
    「陛下……」
    「はは、良かった。覚えていてくれたんだな。……もう陛下じゃないし、殿下でもないけど」
     いたずらっ子のように微笑む、かつての恋人は見るからに上等のスーツを着ていた。薄青のシャツに、あの紋章を思わせる濃い青のネクタイをしめている。目元には少し皺が寄っていた。慣れた着こなしと落ち着いた表情は、大人の男そのものだった。問題は、ルノーが着ているのが学生服だと言うことだ。県内でも有数の進学校の創立当初から変わらないレトロな学ランに、夏休み明けに新調したスニーカー。抱えているのは教科書が詰まったナイロンリュックで、これは高校入学の祝いに祖父母に買って貰ってから一年半と少し、大事に使っているものだった。
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