槍よりも早く、あなたを貫く 島から出て、解放軍を率いて、巨悪を討ち滅ぼす運命の船を漕ぎ出して……いつの日か子供たちの寝かしつけのためのおとぎ話になる旅路、されど今は単なる現実、アレインが覚えることは山程ある。他の仲間たちが寝静まった後、天幕からこっそりと抜け出し月の明かりで軍術の指南書を読む。指南書は島で繰り返し読んだものだが、知識として知っていても、実際に体験してから読み返すと知識でしか知らなかったのだと思い知らされる。1ページ、また1ページと捲りながら、この時間が明日の礎になると信じて目を擦る。足りないのだ、何もかも……。
「殿下、そろそろ中に入りませんと」
ふ、と顔をあげると、月よりも青白い顔でルノーが立っていた。
「ルノー……すまない」
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