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    ナンデ

    @nanigawa43

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    何でも許せる人向け 雑食壁打ち

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    ナンデ

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    転生パロ・ボートレーサー山本と市村が結婚している山市で山本が競技中の事故で足の切断をきっかけに本編軸の山本の記憶を取り戻す話

    水底に恋人、波紋の狂人、声を揃えてイチニノサンハイッ 雨が降ってきていた。水面には波紋がひとつふたつと広がっていく。山本の着ているユニフォームの黄色が薄暗くなっていく空に眩しくてらてら光り、今日は良い成績が残せるかもしれないとほくそ笑む。
     山本が着ている黄色のユニフォームは5号艇の色で、6号艇に次いで一着になるには不利な艇番である、というのは競艇場に足を運ぶファンならば当然知っているような当たり前の事実で、ファンが知っているような事実は、山本たちのような選手たちも当然分かっている。と同時に、ことこの競艇場を主に足を運ぶ人達は山本という選手が不利なはずの黄色のユニフォームを着た時がいちばん強いのだということも知っている。
    「あの選手はな、まくり差しが上手いんだ」
     ほくほく顔で連れの若い男に語る、常連のファンが手にする舟券にはもちろん数字の5が印刷されている。山本への期待。山本への信頼。小雨が波紋を作り、猛スピードで水面を駆け抜けるボートがその波紋をはじいて飛沫に変える。
    「あっ」
     誰ともなく声をあげた。次に上がったのは悲鳴だった。飛沫が落ち着いていく。雨がまた水面に波紋を作り、人々の喧騒が広がっていく。



     目覚めたのはベッドの上だった。……これだけだと、ただ単に朝目覚めたのと変わらない。実際山本が寝ている部屋の天井は白色で、今見上げている天井とそう変わり映えしない。
    「……起きたの」
     横から声をかけられた。少し掠れた声、聞きなれた女の声。
    「いちむら……?」
     山本も声の先、パイプ椅子に座り眠そうな目でこちらを見る女性を呼びかけた。喉が張り付くくらいに乾いて、喋ると痛い。
    「うん?うん……市村。旧姓ね。どうしたの、冬樹さん、そんな懐かしい呼び方して」
     市村しほがクスクス笑う。よく見ると眉が薄く、唇に色ものっていない。服は淡いピンク地に小さな白いプードルの柄がランダムに配置されたワンピースで、これは山本が先日、彼女に買って贈ったものだった。
    「待ってね、先生呼ぶから」
     ずい、と市村の顔が近くなる。山本はやっと市村の顔立ちが記憶よりも幾分かしゅっと細くなり、大人びていることに気が付く。彼女は怪訝そうに眉をひそめた山本の頭の上にぶらさがるブザーを押す。
    「せんせい……」
    「うん、すぐ来るよ。良かったぁ、本当に……意識が戻って……」
     くしゃんと顔をゆがめた市村の隣には、点滴パックがぶら下がっている。とすれば先ほどから山本の近くでピッピッとうるさく鳴く鳥は、スズメや鳩ではなくて山本自身の心拍をはかる機械の音なのだろう。
    「え……?何で。俺、何かあったか。いや、何でそもそも市村が、ここにいるんだ。ミステリーキッスはどうなった?ヤノたちが捕まって、それで」
    「矢野さん?後輩の?何で矢野さんが?矢野さんは昨日のレース、いなかったじゃない」
    「レース?」
     ややあって、医者が到着した。年嵩のずんぐりとした、がたいの良い男で、動物に例えるとゴリラに似てる。彼は山本がボートレースの最中に転覆し、後続艇に激突し、足に大きな怪我をしたのだと淡々と説明をする。非常に危うかった、と前置いて沈痛そうな面持ちで「切断を避けられませんでした」と告げる。山本は「は」と息をはき、掛布団の下に自らの足が無いのだ、と思い知る。切ったから、残っていない、右も左も。
    「あの」
    「どうしました、山本さん」
    「ミステリーキッスは、どうなりましたか」
     医者は首を傾げた。ミステリーキッスとは何でしょうかと山本に返した。医者と同じように、隣に座る市村も首をひねっている。
    「頭を打っているのでしょう……」
     市村は不安そうにしている。山本は市村のそんな様子を見て「そうだよな」と声をかける。
    「でも、大丈夫だ。まだまだ。ミステリーキッスは輝ける。二階堂ルイがいるんだから」
     市村が泣きそうな顔をする。山本は見ないふりをして、続ける。
    「そうだ。二階堂は?二階堂ルイはどうなりましたか。ねえ、剛力先生、ミステリーキッスを知らなくても、二階堂ルイは分かりますよね」
     掛布団の下、山本の足は残っていない。右も左も。医者は首を横に振る。二階堂ルイなんて知らない、ミステリーキッスなんて聞いたこともない。市村しほは両手で顔を覆って泣き始める。医者が市村を「山本さん」と呼び、慰めるように「ご主人は混乱しておられるのでしょう」と繰り返した。
     今度は山本が首を傾げる番だった。山本さん?市村しほが?まさか。手の届きそうなアイドルと、アイドルに手を出していいのでは天と地ほども差がある。山本はそんな愚かな真似はしないはず。だってそんなことしても、ミステリーキッスの何の得にもならないじゃないか。



     車椅子を押すのには、意外と力がいる。とは言え水面の上で暴れる艇を支配するために鍛えていた腕力があるから、山本が自身で車椅子を操作するのは思っていたほど難しい作業ではなかった。
    「来週、矢野さんたちがお見舞いに来るって」
     記憶の中と違い、山本も市村も今世では良い家柄の子息子女であったようで、帰りついた家は玄関からして広く、買いたてピカピカの車椅子がどこに引っかかることもない。市村は、車椅子の車輪を丁寧に濡れたタオルで拭い、ヨイショと声をかけて玄関の段差を越えようと車椅子を押す。山本はぼうっとしながら、市村があくせくと働くのを眺めている。
    「本当に、心配してたよ。まさか山本先輩がって電話口でちょっと泣いてた。慕われてたんだね、冬樹さん」
     カウンターキッチンにはアンティーク調の小さな瓶に庭で摘んだ野花が飾られ、二人暮しには不釣り合いなほどに大きくて立派な冷蔵庫の中には市村がこしらえた惣菜が琺瑯のタッパーや、洒落た外国製の陶器の器にたっぷり入って並んでいる。カウンターキッチンから一望できるリビングにはダイニングテーブル、42型のテレビ、山本の大きな体躯でも足を伸ばせるカウチソファが配置され、まるでモデルルームかSNSの中といった様相だ。
    「風呂は大きいのか」
     山本が市村に問いかけると、市村は困ったように「お風呂?どうして?入りたいの」と聞き返す。市村には事故の後から少し情緒のおかしくなった夫に優しくしなければという思いが強くあるらしく、こうやって市村の話を遮って、山本が脈絡のない話題を振っても根気よく丁寧に付き合ってくれる。
    「違う。市村、お前言ってたろ。家じゃ風呂にしか居場所がなくて、だからデカい風呂に憧れがあるんだって……」
    「そう?言ったかな、そんなこと。でも私、おうちにちゃんと居場所、あったよ。パパもママも優しくしてくれたし」
    「家族が多すぎて……って、いつも」
    「多すぎる?どうだろう。普通じゃない?パパとママと、お姉ちゃんたち。おじいちゃんたちとは一緒に住んでなかったし」
    「姉?」
    「え、うん。……ねえ、冬樹さん、もしかしてそれも分からなくなっちゃった?ユキお姉ちゃんとさくらお姉ちゃん。ほら二人ともこの前来てくれて、冬樹さんの作ったお好み焼きをみんなで食べて……」
     ガン、と頭を殴られたような衝撃を山本は感じる。ユキ。さくら。山本の脳内に二人の少女が現れて同じ衣装を着ている。青を基調としたフリルたっぷりのアイドル然としたドレス。山本が着せた。山本が二人に与えたドレスだ。
    「三矢が生きてる?」
    「三矢って誰?ねえ、冬樹さん。今日はもう、休もう?何だか冬樹さん、別人になっちゃったみたいで私、怖いよ」
     市村が駆け寄る。車椅子を押して「2階は無理だよね。客間にお布団敷いたから、今日はそこで。明日はお義父さんたちが来て、ベッドを選んでくださるそうだから……」と優しい声で山本を諭す。山本は「でも」とか「だけど」と愚図って「ミステリーキッスが」と市村の手をはらう。
    「ミステリーキッスはどうなってるんだ?三矢がいて、市村、お前がいるなら、二階堂はどこにいる。二階堂だよ、二階堂ルイ。なぁ、ふざけないでくれ。マネージャーをドッキリにかけてどうするって言うんだ、市村、市村?」
     市村は山本を車椅子から苦心して下ろし、お湯で濡らしたタオルで身体を拭いていく。山本は嫌がったが、もう山本の言うことには耳を貸さず、市村は山本に「おやすみなさい」と声をかけ、電気を消してしまう。山本は仕方なしに目をつむる。目をつむると、何故だか行ったこともない、競艇場の風景がまぶたの裏に広がった。馴染みのない、小型のモーターボートに乗り込む感触、水飛沫、転覆、雨……夢の中で山本はブルーシートに包まって重りのブロックを巻き付けられている。ブルーシートの中には、きちんと両足が残ったままだ。死因が違うからだ。首を絞められて窒息死。三矢ユキはレース中の事故で死んだわけじゃない。



     起きると見知った顔がこちらを覗き込んでいて、山本は思わず悲鳴をあげた。
    「せっ関口さん!」
    「関口、さん?」
     シロクマのようにずんぐりむっくりの巨体が身を引くと、後ろから小柄の男が顔を出す。小柄な男は関口と同じくらい、山本を恐怖で震え上がらせる。彼はヤマアラシみたいに跳ねた髪を後ろでひと結びにしている。ヤノだ。
    「山本先輩どうしたんすか。関口さんをさん付けって……今までなかったじゃないすか」
    「は?え……あ、いや。ヤノさん、どうしたんですか、いつものあの、変な……いやラップは?」
    「ラップ?ごはんまだなんすか?」
    「ええ……?」
     ヤノはにこにこしながら「でも命があって良かったっすよ」と山本に話しかける。まるで気の置けない先輩を相手にするような、少しの憧れと気さくが感じられる態度に山本はただただ困惑する。ついでに立ったまま泣いている関口の様子にも。
    「俺……俺はよう、山本、お前と競い合うのがずっと……まだまだ続くって……」
     こちらも記憶の中にいる、ヤノに心酔し山本のケツを蹴っ飛ばしながら指示を飛ばす男ではなくなっていた。山本の同輩だと言う彼は山本の無事を喜びながらも、無くなってしまった足と恐らく絶たれてしまったであろう選手生命を嘆いて惜しみ、おんおんと泣いている。山本は先日実父だといって現れた見知らぬ男が(目付きの悪い、スキンヘッドの男だった。彼は山本の記憶にない。早世したという母も知らない女の風貌だったので、おかしなことでもないだろう)用意した電動ベッドの上に横たわりながら、段々とこの二人にも山本の中にある記憶が欠片も残っていないことを理解していく。
     記憶。この数日で分かったのは、山本はボートレーサーであり、市村しほの夫であった山本冬樹が今の自分であり、病院で目覚めた時に前の山本冬樹の記憶が(前世なのかパラレルワールドなのか妄想なのかは分からないが、自分とは別の山本冬樹の記憶である)よみがえってしまった、ということだ。今の山本はミステリーキッスのマネージャーではないし、二階堂ルイは三矢ユキを殺していないし、ヤノと関口はヤクザではなくて同業のボートレーサーたちで、市村しほは美人局をさせられているアイドル少女ではなく、山本冬樹の妻なのだった。
    「ヤノさん、関口さん」
    「なんすか、山本先輩」
    「ミステリーキッスって、知ってますか」
    「ミステリーキッス?何だそりゃあ」
    「俺も知らないっすね」
    「じゃあ、二階堂ルイ。二階堂ルイは?もしくは三矢ユキ……笑風亭呑楽は」
    「呑楽はお前の義父だろ。しほちゃんのお父さん」
    「あとは知らないっす。何それ、元カノ?やばくないすか。てか、本当にどうかしちゃったんすね……山本先輩」
     ヤノも関口も、不思議そうに山本を見る。山本は呆然としながら「そうか」と絞り出すように返事をする。
    「本当に……。冬樹さんたら、ずっとこうなの」
     市村がお盆の上に冷えた麦茶の入ったグラスを並べて部屋に入ってくる。客間だった1階のこの部屋は、今ではすっかり山本の部屋扱いだ。両足を無くした山本は本来の寝室がある2階にはたどり着けないし、頭がおかしくなった夫と四六時中共にいるのを市村が避けているので、2階にある夫婦の寝室は市村が一人で使っているらしい。
    「私のことも、ずっと市村……市村、市村って……ね、矢野さん、関口さん。二階堂ルイって誰なのか分かる?冬樹さんね、ずっと言うのよ、二階堂ルイはどこだー……二階堂ルイがいないなんておかしいー……って」
    「おいおい、山本、お前まじか」
    「愛妻家の山本先輩が、そんな……いや、本当に誰なんすか、二階堂ルイって?」
     麦茶のグラスには氷がふたつ、みっつと沈められていて、飲まずに揺らすとかちかちと小さく音を鳴らす。山本は市村が悲しそうに目を伏せるのを、ライブでもこのくらい庇護感を煽る表情をしてくれたなら、もう少しファンがつくのにだとか、でも仮面を被せているからもう少しオーバーに、わざとらしくしてくれないと分かりにくいだとか、そんな風に見てしまう。手持ちの駒、手間はそうかからないが能力もそれほどないまずまずの担当アイドル、三矢を殺したのが二階堂ルイじゃなくて市村しほだったなら良かったのにと悔やんだ日々が、山本の腹の底に残っていて、彼女を愛する女性として見ることがどうにも出来ない。あの豚みたいなプロデューサーが、三矢じゃなくて市村を指さして「この子をセンターに」と言ったのなら……二階堂ルイは殺人なんてしなかったのではないか?山本だってもっと強く、反対が出来た。この子は駄目です。この子には無理です。それでもあの男が退かないなら、二階堂のほうにこう言えばいい。大丈夫だ、二階堂ルイのほうが断然顔がいいんだから、プロデューサーが何と言おうと、デビューしたら自然と二階堂がセンターに戻る……。
    「……金剛石だよ。金剛石。俺が磨いて、世に出すんだ。ティアラに嵌めて、あの大粒の金剛石を、いちばん美しくする。俺はね、ジュエリーデザイナーなんだ……」
     矢野は「うーん」と唸って、腕を組む。関口が山本の頭をぺしりとはたいて「お前はボートレーサーだろ」と言った。
    「いや、足が無いんだからもうボートレーサーじゃないよ」
     山本がそう返したら、関口はまた泣いてしまった。



     ずっとネットを見ていて離さないからという理由で、スマートフォンは取り上げられた。今はいくつかのサブスクリプションが視聴できる、リビングのものより一回り小型のテレビがベッドの前に備え付けられて、山本は日がな一日古い映画を眺めている。
    「また見てるの、この映画。面白い?」
    「面白いかどうかじゃない。勉強、投資だよ。こういう古い映画、定番ものを見ておくと話のタネにもなるしアイディアの基礎にもなる。市村も見ろよ。参考にするべきところがいっぱいある」
    「『マイ・フェア・レディ』から何を学ぶの?」
    「立ち振る舞い、仕草……何でもあるだろ。女優とアイドルは別物だけど、人を夢中にさせるっていう能力が必要なのは共通してる」
    「山本さんのオードリーは、二階堂ルイでしょ?市村しほじゃない」
    「だからといって学ばない言い訳にはならないだろ」
     座ると身体をすっぽり包む藤の揺り椅子は、市村の姉ふたりが買ってきた。市村は昼間、一時間か二時間、ベッドの横に置いた揺り椅子に座り、しなくても良い針仕事をしながら山本の相手をする。今週は山本が着なくなった白いYシャツの襟に野いちごを刺繍している。今はやっと右半分に刺し終わったところ。
    「うーん、襟が終わったらボタンホールの周りにも入れちゃおうかなあ」
    「市村、聞いてるか?」
    「はいはい、聞いてます」
    「はいは1回」
    「はあい」
    「伸ばすな、全く」
     画面の中では誰もが知る名女優の代表作が流れている。市村は大学時代に幾度となく見たが、山本の中の市村しほはこういう映画を見ることはないらしい。では二階堂ルイは見るのかと聞いたら「見ないだろ、見るとしたら三矢くらいじゃないか」と言う。市村は山本の中に巣食う幻のファム・ファタールの人となりが、もっと分からなくなる。
    「冬樹さん、今日のお夕飯何食べる?」
    「エビ」
    「海老?海老かあ。アヒージョにしようか」
    「エビフライ」
    「昨日から揚げにしたでしょ」
     山本は黙り込み、市村をしげしげと眺める。市村はニッコリ笑う。今や狂ってしまった愛する夫は、黙っていると「冬樹さん」なのか「山本さん」なのかが区別がつかない。
    「冬樹さん、私のこと好き?」
    「市村のことを?おいおい、勘弁してくれ。俺は担当アイドルに手を出したりしない」
    「山本さんは市村しほのこと、好きじゃないんだ」
    「好きとか、そうじゃなくて」
     市村はテレビのリモコンを掲げ、電源ボタンを押した。さっきまで画面いっぱいに映っていた美しい女優の顔から一点、何の面白みもない真っ暗な画面に変わる。山本が非難の声を上げるが、無視した。
    「市村しほも、多分山本さんのことは好きじゃないと思うな」
     刺繍針を動かすのを止めて、揺り椅子から起き上がる。まだまだ刺し終わらないシャツもリモコンもまとめて山本の手が届かない場所へ移動させ、自分も部屋から出ていく。
    「おい、市村」
    「何?」
    「何って……急に拗ねられても、困るよ。何が気に障ったのか教えてくれなきゃ」
    「冬樹さんなら分かるのに」
    「分からないよ」
    「山本さんなら、分かんないよね」
     市村は泣きそうになるのを堪えて、部屋の扉を閉める。幻のファム・ファタール、二階堂ルイはまだ見つからない。山本の過去の交友関係にもいないし、芸能人にもいない、漫画やドラマのキャラクターでもないみたいだし、インターネットで検索をかけてもひとつもヒットしなかった。無い。無いのだ。そんなものはいない。この世に無い。山本の頭の中にしかない。
    「足を切らなかったら、冬樹さんのままだったのかな……」
     呟いてみても、山本冬樹の両足は戻らない。彼はもはや車椅子や人の補助なしではどこにもいけない。だから彼が二階堂ルイと出会うことは、死ぬまでないだろう。それだけが山本しほにとっては救いで、『市村しほ』にとっては呪いだ。
     いずれにしても、ミステリーキッスはこの世にない。金剛石も存在しない。山本冬樹はあの日、水の底に沈んだきり、浮き上がってこない。死んでしまった。
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