類と2人っきりで閉じ込められた話(媚薬を全部飲まないと出られない部屋)布団に潜った瞬間、フワっと何かが身体を包み込む。
気がつくと、前回と同じようにピンク色の知らない部屋に閉じ込められていた。
壁も床もベッドも全てピンク色で、やはり出口が見当たらない。今日は大盛況の中で無事にショーを終えたので、少し早い時間に就寝して疲れた身体を労る予定だったのだが。
「ここは……!また媚薬を全部飲まないと出られない部屋か……!!」
……いや、違うな。
前回1人で媚薬を全部飲み条件をクリアした時に現れた扉は、俺の部屋ではなくセカイにつながっていた。
スマホも持たず、パジャマ姿な上に、媚薬のせいで熱く火照った身体。
偶然セカイに来ていた類とカイトに状況を説明して、何やかんやあり、最終的に類にキスをした瞬間にオレの身体は元の場所に戻ったのだった。
「そういえば、好きな人とキスをすることが自分の部屋に戻るための条件なのではないか……とカイトは言っていたな。」
この一言で、類のことを大好きだというオレの気持ちが完全にバレてしまったのだ。
順番は前後してしまうが改めて告白をしなければ。
鉄は熱いうちに打つに限る!!
という訳で、その翌日にロマンティックな夕暮れ告白大作戦を決行しようと、放課後の約束を取り付けることにしたのだ。
─────
「類!昨夜は世話になったな。感謝する!」
「つ、司くん……!」
話しかけた途端に類の頬は赤く染まり、視線を彷徨わせ狼狽える。まあ、あんなことがあったのだから動揺するのも仕方ないだろう。オレもつられて赤面する。よく考えれば、痴態をさらしていたのはオレのほうだったな。
「えっと……昨日はごめんね。君の下着、洗濯したから返すよ。」
「洗濯してくれたのか!こちらこそ手間をかけさせてすまない!」
丁寧にラッピングされた小包を少しギクシャクしながら受け取り、キュっと軽く握りしめた。
「る……、類に、言いたいことがあるんだ。今日の放課後屋上に──」
「外せない予定があって!今日は無理なんだ。昼休みも会えなくて……その、また今度話を聞くから。」
じゃあね、と言い残して走って行ってしまう。学校を爆破して教師に追いかけられている時よりも速いな。
まさか断られるとは思っていなかったので、呆然とその場に立ち尽くすしかない。
あからさまに避けられて少し悲しいが、あの表情は見たことがあった。
(あれは……嬉しくてどうすればいいか分からない時の顔だったな……!)
もう、ほぼ確定で両想いとみて間違いないだろう!!
─────
そしてその翌日──つまり今日。
フェニランでショーをする際には普段と同じように接してくれたので、問題なく公演を行なえた。しかし、ステージの片付けと反省会が終わって間もなくササっと着替えて帰ってしまったのだ。
「なんという逃げ足の速さだ……!」
媚薬部屋事件で恥ずかしい思いをしたのはオレのはずなんだが、類のほうが照れているみたいだな。
これから、どうアプローチしていけば良いのだろうか。そんなことを考えながら夜を迎え、布団に潜った瞬間に再度媚薬部屋に飛ばされてしまい、現在に至る。
また媚薬か……アレの効果は、少量ながらとんでもなく絶大だった。思い出すだけで身体がそわそわしてしまう。
前と同じ場所に同じものが入っているだろう、とベッドサイドの引き出しに手を伸ばした時だった。
「司くん?」
後ろからよく知った声が聞こえた。
「る……類……?!!」
媚薬を全部飲まないと出られない部屋、いや、媚薬を全部飲んで好きな人とキスをしないと出られない部屋に、類と2人で閉じ込められてしまった。
「ここが君の言っていた、例の部屋……なのかな?」
少しだけ楽しそうにしているのが声音からわかる。こんなにピンク色でえっちな雰囲気の部屋にいるのに、キラキラとした好奇心のほうが先行しているんだろう。瞳を輝かせてキョロキョロ辺りを見回している。
「そうだな、おそらく前に来たときと同じ部屋だと思う。ここにある媚薬を飲んだらセカイに繋がる扉が現れたんだ。」
と言いながらサイドテーブルに視線を落とすと、そこには1枚の紙が置かれていた。
「「媚薬を全部飲んでえっちをしないと出られない部屋……?!!?」」
2人分の声がキレイに重なった。
流石の類も自分が置かれている状況を理解したのだろう。分かりやすく焦りの表情を見せている。
「僕、今日はまだお風呂に入っていないんだ!それに、いくら好きな人でも、恋人になってないのに先にえっちしちゃダメなんじゃないかな……!」
先にえっちしちゃダメ。類の口からそんな言葉が出てくるとは思っていなかった。
つまり、
「こ、これからオレと恋人になって、その後にえっちする……なら問題ないのか……?」
「え……?あっ……!!」
自分がとんでもないことを言ったことに気づいた類の横で、ポンッと大きな音がした。なんと、お風呂が出てきたのだ。半開きの磨りガラスの扉の向こうにはシャワーがあり、隣接された個室の扉はどうやらトイレのようだ。
そしてオレの横でも、ポンッという軽快な音と共に冷蔵庫やミネラルウォーター、ローション、ゴム、そして前回よりも多めの媚薬瓶がたくさん出てきた。
部屋が言っている。
媚薬セックスをしろ!と。
「僕……先にお風呂いただくね……?」
完全に混乱した様子の類が大人しく吸い込まれるように風呂へ消えた。先に恋人になるのでは……?
「お待たせ、司くん。その、君も……」
「そ……うだな。オレもいただこう。」
急いでシャワーを済ませた類に続き、パジャマを脱いで本日2回目の風呂へ入ることとなった。